第52話

『き、桐咲なんて、他にもいると思いますよ?ただの…偶然です。』






どうか、お願い。諦めて。あなた達と関わりたくないの。私の日常を…、壊さないで。





そんな想いを込めて、キッパリと言い切る。





少しの沈黙の後、





「…そうか、分かった。わざわざ来てもらって悪かったな、もう帰っていい。」





牧谷さんは諦めたような溜息を吐いて、そう言った。






ほっ、と小さく息を吐く。





『それでは…、失礼します。』





小さめの声でそう言い、ぺこりと頭を下げてから背中を向ける。





背中にヒシヒシと視線を感じるけど、気付かないフリをしてそのままドアを開けて外へ出た。





そして行きと同じで帰りも廊下にいる男の子達の視線を浴びながらも何とか耐え、やっとの思いで旧校舎から脱出出来た。






つ、疲れた…。凄まじい程の脱力感を感じながら、依里ちゃんが待つ教室へと向かう。





ガラッとドアを開ければ、一瞬にしてシーンと静まり返る教室。





それに戸惑っていれば、真っ先に依里ちゃんが駆け寄ってくる。






「心音!大丈夫だった!?遅かったから心配してたのよ!」





そんな依里ちゃんの心配そうな顔を見て、さっきまで張り詰めていた緊張感がやっと解けた。




『ごめんね、心配かけて。大丈夫だったよ。向こうの人違いだったみたいで、すぐに帰してくれたの。』





罪悪感があったけど、これ以上心配かけたくなかったから、嘘をついた。





…多分、人違いじゃない。桐咲大和の妹なんて、”私”しかいない。




きっと向こうもそれに気付いてる。でも、それ以上は追求してこなかった。




どうして?何が目的なんだろう?














――――漠然とした不安が、私の心を支配していた。

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