第51話

え、それだけ…?何で黙っちゃったの?私は早く帰りたいのに…。




そんな私の困惑した表情を読み取ってくれたのか、さっき声を掛けてくれた黒髪に青メッシュが入った男の人が助け舟を出してくれた。




「冬悟、いつまでも黙ってないで早くここに呼んだ理由を言ったらどう?」




そう言われた牧谷さんは、やっと口を開いた。





「…確認だが、大和さんの妹だよな?」





…何で、そんな事を?





『ち、違います。大和…さん?って誰…ですか?人違いだと思います…。』





もう既に確信めいたような言い方だったけど、簡単には認めたくなくて、苦し紛れにそう言った。





でもやっぱり見逃してはくれないみたいで、





「さっき俺が覚えてるかって言った時、俺の名前呟いてただろ。俺を覚えてるからそう言ったんじゃねぇのか?」





すぐにそう返ってくる。




『そ、それは、覚えてたから言ったんじゃなくて…たまたま最近聞いた名前を出しただけ、です。肯定した訳じゃない…です。』





…自分でも苦しい言い訳だなとは思う。でも、認めたくないの。認めてしまったら、この平和な日常が壊れてしまいそうで。怖くて。





頑なに認めようとはしない私に、牧谷さんは一瞬黙り込んで何かを考えている様子。







「…”桐咲”」






ビクッ。そんなたった一言に、思わず肩が跳ね上がってしまった。






「大和さんと、同じ名字だよな?」






あぁ…、この人はお兄ちゃんの名字知ってたんだ。まぁ、当たり前か。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る