第50話

私のその言葉に、しばらくシーンと静まり返る部屋。




気まずさと恐怖でまた顔が下に向きかけた時、





「…俺の事、覚えてるか?」





一番奥の1人掛けソファーに座っていた男の人が、そう、聞いてきた。




…覚えてる?




あれ、この声…。




その声に聞き覚えがあり、私はそこで初めてはっきりとその男の人の顔を見た。




っ…この人。





『…牧谷、さん…。』





ぽつり、浮かんだ名前を呟いた。そしてすぐにしまった、と慌てて口元を手で抑えた。





私、何やってるんだろう。名前なんて言ったら、覚えてます、って言ってるようなものだ。





思わず零してしまった私の言葉に、牧谷さんは一瞬驚いた様に目を見開きながらも、





「俺の名前、知ってたのか。」





そう聞いてくる。





『えっ、と…、友達が教えてくれた、ので。』





私は、しどろもどろになりながらもそう答えた。…実際に依里ちゃんが教えてくれたし、嘘ではない。






「…そうか。」





一言そう呟いて、それきり黙ってしまった牧谷さん。

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