第44話
私の声に反応した男の人は、
「…あ?」
そう、威嚇する様な低い声を出しながら振り返ってきた。
無意識にビクッ、と肩が震えたのが自分でも分かったけど、何とか抑え、
『…これ、落としましたよ。』
背の高い男の人を見上げながら恐る恐る財布を差し出す。
数秒の沈黙の後、
「…俺の財布じゃねぇか。ありがとな。」
そう言いながら、財布を受け取る男の人。
お礼を言われたのが意外で、少しびっくりしてしまった。それに、低かった声色も和らいでいた気がする。
『それでは…、失礼します。』
小さくペコッと頭を下げ、男の人の方を見ずにそのまま背中を向けて歩き出した。
男の人は何も言わなかったけど、背中に視線を感じるから見られているんだろうか。
そんな視線から逃げる様に出来るだけ足を早く動かす。
そしてようやく家に着き、玄関のドアを開けて中に入った途端、緊張の糸が解けたみたいに足から力が抜け、その場に座り込んでしまった。
『はぁ…。』
口からは安堵の溜息が出るばかり。
あの男の人…、ちゃんとお礼を言ってくれたから思っていたよりも悪い人じゃないのかもしれない。…でも、やっぱり”不良”の男の人とは関わりたくない。
同じ学校だからまたどこかで会うかもしれないけど、私の事なんてすぐに忘れるよね。
…その時は、そう思っていた。
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