第94話
そんな私に、「もうー、舌打ちしないでよぉー。」と泣き真似をしながら言ってくるキャラメルに、深い溜息を吐き出した。こいつ、まじでうぜぇ。
だがそんな私にはお構いなしで、さらにしつこく詰め寄ってくるキャラメルに、再び舌打ちが漏れ出そうになった時、
「もうその辺にしてあげたらどうですか?」
思わぬところから助け舟が出された。青メッシュだ。
そして、「何やら言えないような”事情”があるようですし?」と、目を細めて私と茶髪を交互に見ながらそう続けられた言葉に、思わずピクッと片眉が反応してしまったが何とか平静を装う。
…こいつ、わざわざ”事情”のとこだけを強調してきやがって。
「ふーん。事情…ね?」
その青メッシュの言葉にすかさず反応したキャラメルにも意味ありげな視線を向けられ、謎の居心地悪さを感じて顔を背けた。
まったく…、揃いも揃って面倒くせえ奴等だ。居心地の悪さから一転、だんだんとイライラが増してくる。
『はぁ、事情っつったら事情なんだよ。あんた達に関係ないでしょ?…もう付き合ってられるか。』
そのイライラの感情をそのままに吐き捨てれば途端に黙り込む奴等に再び舌打ちをかまし、素早くベッドから降りてドアへと向かう。途中、茶髪に目線だけを向けて「黙ってろよ。」と忠告するのも忘れずに。
まぁ、喋られたら喋られたでシラを切り通せばいいだけの話だから、別に困ることもないけど。
そんなことを考えながら、あれから何も言わずに突っ立っている奴等の横をすり抜けて保健室を出た。
さて、と。空き教室にでも行くか。と呑気に構えていた私は、自分が犯していたミスのことなんて、これっぽっちも知らなかったのである。
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客観的視点side
先程、1人の少女が去った保健室の中は、異様なほど静まり返っていた。
色とりどりの髪色をした5人の男達が、揃いも揃って空いた1つのベッドを取り囲んでいる不思議な光景。
そんな中、今までずっと黙り込んで何かを考えていた赤髪の男が、突然ベッドの端をガン見し始めたことに気付いた茶髪の男。
何見てんだ?とその視線の先をたどって、小さく目を見開いた。
そこには、1つの”ゴミ”が落ちていた。だが、ただのゴミだと片付けてはいけないようなもの。それは、明らかに”何かの薬”が入っていたような。
まぁ、普通なら保健室にそんなゴミが落ちていたとしても特に気にすることではない。でも、そこはさっきまであの少女が使っていたベッド。
となれば、必然的に誰がそのゴミを落としたのかは明白だ。馬鹿ではない勘がいい奴なら当然気付くか…、と思いながらもう一度赤髪の男の方に視線を向けた茶髪の男は、改めて確信した。やっぱり気付いたか、と
茶髪の男は考える。何故、あの少女はあそこまで隠そうとするのかと。何かの”病気”だったとしても、何かが変わることはないのに。あの少女は、”何を”恐れているのか。
そんな中、ようやく赤髪の男が動きだす。
周りに気付かれないように、ごく自然な動作でベッドに落ちているそのゴミを自分のズボンのポケットに入れた。…その一部始終を見ていた者がいることには気付かずに。
そして、「行くぞ。」と声を掛けてから、先にドアへと向かう。
それに続くように、他の男達もドアへと向かうが、ただ1人、青メッシュの男だけは、その場に留まったままだった。
そして、ぽつりと、小さく呟いた。
「…何で、”あんな薬”を……、」
その表情は、酷く、苦痛に満ちていた―――。
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