第89話
チッ、めんどくせぇなぁ。
『あー…、10分前ぐらいだな。それがどうした?』
言わねぇと引き下がらないだろうと思い、仕方なくそう答えてやれば、
[10分前?えーじゃあついさっきじゃんー…、]
どことなく残念そうな声が返ってくる。
『はぁ?さっきから何なんだよ?』
意味の分からねぇことばっか聞いてこないでさっさと本題に入れよ、という意味も込めてもう一度そう聞けば、
[いやー…、どっかで琶來、見なかったかなー?と思って。]
『…っ、』
”琶來”
その名前に、無意識に少し動揺して小さく声が漏れちまった。
[なに?見たの?]
聞こえてねぇだろ、と思ったのは一瞬で、バッチリ聞こえていたらしい藍都に、電話越しに詰め寄られる。
『いや、見てねぇよ。その女がどうかしたのか?』
すぐに冷静さを取り戻し、チラッと目の前の女に目線を向けながらそう返す。
[ふーん?…別に、何かあったって訳じゃないんだけど、教室に来たら居なかったんだよねー。しばらく待ってみたけど帰ってこないしさ。でも帰ったわけじゃなさそうだから探してるんだけど見つからなくて、それで校内で見かけてないかなと思って燐にも電話してみただけ!]
あー…、なるほど。そういうことね。こりゃ、バレたら余計に面倒だな。
『なるほどな。でも悪ぃな、俺は見てねぇわ。んじゃ用件はそれだけだろ?まだ取り込み中だからよ、もう切るぞ、じゃあな。』
[あっ、燐…!]ブチッ
まだ何か言おうとしてた藍都の声が聞こえたが、構わず通話を強制終了させた。
…ったく。教室に居ないってだけで探すって、どんだけ気に入ってんだよ。重症じゃねぇのか?
たかが女1人に振り回されるとか、くだらねぇ…。
そう思うと同時に、頭の中に一瞬”あの女”の顔が浮かんで、それをかき消すように強く拳を握り締めた。
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