第87話

燐side





女をベッドに降ろし、自分は向かいのベッドに座って通知が来ていたスマホを確認していれば、ほんの僅かな時間しか経ってねぇのに、目の前からスースーと寝息が聞こえてくる。




は?と思って目を向ければ、案の定。…普通、この状況で寝るか?と呆れた視線を送るが、もちろん寝ている女は気付かない。




短く溜息を吐き出して、改めて女を観察する。




確かに、これまでに見たことねぇぐらいには整っている顔。しかも化粧っ気がねぇ女は初めて見る。…が、あ?何だあの傷?




女の顔をまじまじと見ていれば、ある一点の場所で目が止まる。それは、左頬。




そこには、明らかに殴られたと思われるような傷が出来ていて、綺麗な顔をしているからか余計にそれは不自然に目立っていた。




誰かに殴られたのか?…いやまぁ、もしそうだとしても俺には関係ねぇが。




大方、俺等のファンの女達にでもやられたんだろうけど、それを知ったところで助ける気もねぇ。





俺は、こいつを気に入って何かと構っているあいつらとは違って、別に何の感情も持ってねぇからな。





そりゃ、今までの女とは何もかもが違うこの女には多少の興味はあるが、それだけだ。それ以上も以下でもない。





そもそも、俺のタイプでもねぇし、わざわざ自分から関わろうとは思ってなかった。





けど、あんなとこ見ちまったら、放っとける訳ねぇだろうが…。気が付けば、無意識に身体が動いてたんだからしょうがねぇ。





思わずはぁ…、と深い溜息が口から零れる。…ほんと、何やってんだかな、俺。女を助けるなんて、ガラじゃねぇのに。




そんなことを考えながらガシガシと頭を掻きむしっていれば、突然手元で震え出すスマホ。





表示された名前を見て、反射的に眉を寄せた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る