第62話

やめろやめろ、それ以上こっちに来るな。





そんな願いも虚しく、奴等は私の両腕に勢いよく抱き着いてきた。






『いっ…、』






腕の骨が折れるんじゃないかと思うほど強く抱き着いてきたから、思わず小さく声が漏れた。





「待ってたんだよ琶來ー、会いたかったー!」





そう言いながら、嬉しそうに私の顔を覗き込んでくるヤツにまた溜息を吐く。




…会いたかったって、昨日も会ってるだろうが。毎日毎日頼みもしないのに教室に現れて、飽きない奴等だなほんと。





そう思いながら教室内に目を向ければ、クラスの連中もこの光景には既に慣れたのか、「またやってるよ藍都さんに凌央さん…。」「もう恒例になってるよな、アレ。」と、そんな声がちらほらと聞こえる。





幸い、このクラスの女は私と真梨しかいないから、クラスの奴等からは嫉妬などの悪意ある感情を向けられることはなかった。…が、クラスの奴等”だけ”だ。





左右に引っ付いて離れない2人を引き剥がしながら自分の席へと向かい、椅子に座って机の中に手を突っ込めば。カサっと、何かに触れた感触がする。





…やっぱり、今日もご丁寧に入れてある。女達からの、熱烈な”ラブレター”が。





コレが始まったのは、強制的に屋上に連れて行かれた日の翌日から。朝登校してみれば、何も入っていないはずの机の中からチラッと覗く白い紙を発見した。





手に取って確認してみればその紙は数枚あり、”ブス”やら”死ね”やら”調子に乗るな”、などの暴言が乱雑に殴り書きされていた。





私にとっては特に何のダメージもないのだが、あいつらのせいでやっぱり面倒事に巻き込まれた…、と頭を抱えた。





真梨曰く、狼鬼のファンの女達の仕業らしい。





あいつらにこのことを言うのか、と真梨に聞かれたが、別に言う必要はないだろうと判断して何も伝えていない。





あいつらのせいでこうなったのは事実だが、わざわざ自分から関わりにいくなんて御免だ。余計に面倒くさいことになるのは目に見えている。それに、このくらいなら自分でも対処出来る。






だから今日も、机の中の”ゴミ”を奴等に気付かれないようにグシャッと握り潰した。






そして何事もなかったかのように机に突っ伏して寝る体勢に入る。






目の前から「えー、琶來寝ちゃうのー?」という雑音が聞こえたが全てシャットアウトして、そのまま迫り来る睡魔に身を委ねた。

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