第18話【突然の電話】

中2の大晦日。


もうすぐ、年が明け新年を迎えるとき……

突然、机の上に置いてあった携帯が鳴り始めた。


綾子から『初詣一緒に行かん』と、誘いの電話だと思った。


親同士もツレだったので、泊りに行ったり、夜遅くまで遊ぶのも許されとった。

今年は綾子が家に泊まっとたので、近所の神社に初詣に行った。


家と綾子の家は歩いて3分くらいで、めちゃんこ近かった。


綾子と広樹からの着信音だったから、当然そう思ったのに、画面には【広樹】の名前が出とってビックリした。


滅多に電話をしてこん広樹が、何の用があって……しかも、こんな遅くに電話? 

これは……初詣での誘い? 

まさか? 

んな、訳ねぇよなぁ。


早よ電話に出んと切れちゃう。

色々な妄想をして不思議な気持ちで通話を押した。


『高梨か? アキラが事故った』


返事をする前に、いつも聞き慣れとる広樹の冷静な声が携帯を通じて届いた。


「……」


冷静な言い方をする広樹の言葉が信じられんかった。

黙った状態で自分の耳を疑った。


確かに『アキラが事故った』と言った。

聞き間違いではねぇと思う。


でも、どうして広樹がアキラくんのことを知っとるの? 

広樹とアキラくんは知り合いだったの? 


そんなこと……広樹からもアキラくんからも聞いとらん。

彼氏がアキラとは知っとるだけで、世の中にはアキラという名前はぎょうさん居る。


広樹から一言も『アキラくんのことを知っとる』と聞いたことがねぇ。

そんな偶然があるの? 


アキラはアキラでも、アキラくんじゃねぇと思う。

それにアキラくんは紅櫻の正月暴走に行っとるから、絶対に人違いだよ。


広樹も紅櫻に入ってて、正月暴走に行っとるのか? 

噂では広樹が紅櫻に入っとる事は聞いた事があるが、まさか中学生で暴走に出るんか? 

って言うか、中学生でも紅櫻に入れるのか? 


それにアキラくんはアタシより2つ年上なのに、広樹は『アキラ』と呼び捨てで呼んどるじゃん。


広樹が不良だとは知っとるけど、普段の広樹は暴走族に入っとるように見えん。


突然の電話で思いもしんことを聞いて、頭がよぉ〜回らん状態で天国から地獄に突き落とされた気分だった。


ただ、携帯を落とさんように、しっかり耳に当てとった。


『意識不明だ』


頭の中の状態を知らん広樹は、冷静さを失なっとらんで、アタシに伝えようとしとるみたい。

だけど、頭の動きが思うようについてこん。


「……」


冬休みになってから、話をしとらんかった状態なのに、それが突然の電話で広樹の声が聞けて嬉しかったのに……

アキラくんが事故で意識不明? 


信じられん言葉が聞こえてきた。


冷静になって頭の中を整理しようと思っとるんだけど、それを考えて整理するだけの余裕なんてねぇ。


頭の中は、すでにシャットダウンしとった。

広樹の言っとることが理解できん状態だ。

頭の中がパニック状態で何も考えられん。


『高梨、聞いとるんか?』


何も言わんかったアタシに不安になったのか、広樹は冷静な言い方で聞いとった。


「あ、うん、聞いとる」


取り敢えず、そう答えたが言葉を理解しとらん。

ただ、広樹の声が耳に入ってきて、聞いとるだけだ。


何か言われとるけど……分からん。


広樹の声は耳に届いとった。

けど、頭までの回路がショートしとった。


『また連絡するから、ちゃんと家に居れよ』


取り敢えず電話を切った。

切ったというより、広樹が一方的に切った。

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