【猫のおじちゃんの道場】

 次の日。

 久し振りに綾子と、猫のおじちゃんの道場に行った。

 自分たちが習ってた道場じゃねぇ。だから、パパの知り合いではねぇ。

 アタシと綾子は、幼稚園の頃から空手を始めて、小学校の時に通わなくなった。

 ただ、体を動かすのが好きだから、空手と合気道を習った。幼稚園の頃は、マサ兄とカズ兄とひろ兄も一緒に通ってた。ひろ兄が消えてから、道場にも顔を出す事はねぇ。マサ兄とカズ兄も中2頃から通わなくなったけど、暇な時は一緒に行って、アタシと綾子の相手をしてくれた。マサ兄とカズ兄が忙しくなってからは、アタシと綾子は空手と合気道をやめた。

 最初の出会いは、道場の近くで遊んでた猫を可愛がってた。その猫の飼い主が、おじちゃんで話し掛けられた。おじちゃんが道場の先生だと知って、空手の話をしたのが出会いだった。そのあとも何度か話をしてた。

 ある日。

「飛鳥ちゃんと綾ちゃんが空手が好きなら、いつでも道場に遊びにおいで。道場で練習したらえぇ。息子が相手をしてくれる」

 猫のおじちゃんが、優しい顔をして道場の中に入れてくれて言った。その時、道場の中に居ったのが息子だった。それがきっかけでアタシと綾子は、たまに道場に遊びに行った。

 その道場では、自分たちのやりたいように遊んどった。たまに猫のおじちゃんの息子が、相手をしてくれて練習も出来た。

 中に入って行くと、猫のおじちゃんと息子が話とった。

「ヤス、飛鳥ちゃんと綾ちゃんの相手をしてやれ。ヤスが相手だったら、飛鳥ちゃんも綾ちゃんも本気で大丈夫だ。ヤス、2人は強くなっとるから、真剣にやれ」

 猫のおじちゃんに言われて、息子が相手になってくれるみたいだ。

「飛鳥ちゃん、綾ちゃん、今日は本気でやっても大丈夫だよ。さぁ、どっちが先かな?」

 先に綾子が始めた。

 やっぱ、綾子は本気でやっとるけど、左の回し蹴りは力を抜いとった。

 もちろんアタシも右は本気だったけど、左は半分くらいでやっとると、綾子が「8割まで大丈夫」と言った。

 久し振りに本気でやれて満足だ。

「飛鳥ちゃん、綾ちゃん、最初よりだいぶ強くなっとる」

「ホント? 小学校までマサ兄とカズ兄が相手をしてくれとったけど、中学に入ってからは相手が居らんからやっとらんかった。けど、ヤス兄が相手をしてくれるから、本気でやれるようになった」

「俺で良かったら、いつでも相手するからな」

「うん、また相手してよ。アタシも飛鳥も本気で出来る相手が居らんから、楽しかったよね」

「うん、めちゃんこ楽しかった。また、相手して下さい。今日はホントにありがとうございました」

「飛鳥ちゃん、初めて笑ってくれたね。いつも笑わんし、挨拶だけで話さんから、ホントに楽しかったんだね」

「ほだよ。普段の飛鳥はアタシとマコと涼子とヨシと広樹以外には、本気で笑うことしんからね。だから、学校でも優越感に浸っとると思われとる。でも、ツレにはめっちゃ優しいんだよ。友だちが困っとると助けるんだよ」

「そうなんだ。飛鳥ちゃん、また、いつでも遊びにおいで」

「はい、ありがとうございます。綾子、今日は帰ろう」

 アタシ達は道場を出て、綾子の家に行った。

 今年のストレスがなくなって、新年を迎えることが出来ると思って家に帰った。


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