【マサ兄とカズ兄」】
「飛鳥は、ファンクラブのヤツからも告られとるじゃん」
そう言ってくれるけど、アタシにとっては迷惑な話なんだよ。
「アイツ等は顔だけ好みだから、ほかっとけばえぇんだよ。アタシが告られたいのは、広樹だけなんだよ。でも、ムリだと分かっとるから、ツレで満足なんだよ」
広樹のことを好きだと教えたのは、綾子だけだった。
「もし、広樹が告ってきたら、付き合うの?」
まず、そんな嬉しいことはねぇのに、綾子はアタシの顔を見て聞いた。
「その時は、もちろん付き合うよ。すぐにアキラくんはポイだよ」
本音を聞いた綾子は、嬉しそうにニコニコ笑って見とった。
「ふ~ん。アキラくんと別れて、広樹と付き合うんだ」
「当たり前じゃん。でも、そんなことねぇからツレで満足なの。そんな夢みたいな話をして、ぬか喜びじゃん」
「綾、飛鳥が来とるんか? ケーキを買ってきたけど、食うか?」
部屋の外で男の人の声が聞こえた。
立ち上がって、綾子はドアを開けた。
「うん、明日、カラオケに一緒に行くから、今日は泊まりに来たの。マサ兄、どんなケーキを買ってきてくれたの?」
甘いのが大好きな綾子は、嬉しそうな顔をして聞いた。綾子は、マサ兄とカズ兄にケーキとか買って帰らねぇのに、マサ兄とカズ兄は綾子のを買うだよ。
「冷蔵庫に入っとる。飛鳥、久し振りだな。あっ、ムッちゃんのツメを切ってくれねぇか?」
答えを聞いた綾子は、すぐに部屋を出て行った。たぶんケーキを見に行ったんだと思う。
「うん、どこにムッちゃんが居るの? さっき、見に行こうと思ったけど、マサ兄もカズ兄も居らんかったから、行かんかった」
小さい頃からマサ兄とカズ兄には世話になっとる。ムッちゃんも、アタシのわがままで飼ってくれた。
「まだ、カズが帰って来てねぇから、俺の部屋に連れて来た。後で俺の部屋に来てくれ。最近、飛鳥と綾はケガして帰って来てねぇが、かなりケンカをしとるみたいだな。悪魔と悪女コンビだと噂も流れとる」
現役を引退しとるマサ兄が、そんな情報が耳に入るくらいだから、かなり有名になっとるんだ。
「マサ兄……アタシと綾子は……」
「飛鳥と綾は、ツレが被害に遭っとるのを見て見ぬフリ出来ねぇから、ソイツ等を助ける為だと分かっとる。だが、レディースを相手にケンカしとるから、俺もカズも心配なだけだ」
レディースには口止めしとるのに、どっから漏れとるんだ?
強化したところでマサ兄とカズ兄は、アタシと綾子が悪魔と悪女だと知っとるから同じなんだよな。
「ツレや友だちが大切だから、アタシが守れることをしとるだけ、ちっぽけなことしか出来んけど、それで何もなければえぇの。綾子は、それに付き合ってくれとる。でも、綾子のことはアタシが絶対に守る」
話しとると、ケーキを持って綾子が部屋に戻ってきた。
「飛鳥、ありがとさん。アタシも相棒の飛鳥のことをちゃんと守るから、マサ兄は安心して。ケーキを持ってきたから、一緒に食べよ。マサ兄、後で飛鳥と一緒にムッちゃんを見に部屋に行く」
聞こえてたみたいで、話してた事を綾子が言った。
「あぁ、分かった。飛鳥も綾も昔っから変わんねぇな。ケガして帰って来たら、カズが五月蝿ぇ〜からな」
呆れた顔をしたマサ兄は、カズ兄の事を忠告して、アタシと綾子の顔を見て笑った。
「うん、そんなの飛鳥もアタシも分かっとるよ。ケガしとらんでも会うと、いつも口五月蝿いからね」
綾子の話を聞いて、マサ兄は笑って部屋に行ったみたいだ。
綾子の兄貴のマサ兄とカズ兄は、アタシ達の5つ上の双子で、去年まで紅蝙蝠を仕切っとった。
マサ兄が総長で、カズ兄が副総長をやってて、世間からは恐れられとる双子だった。
ショートケーキを食べて、マサ兄の部屋に行くことになった。
マサ兄とカズ兄の部屋は、以前、綾子たち家族が住んどった家なんだけど、今の家の裏にあるんだよ。敷地は一緒だから、離れみたいな感覚なんだけど、ちゃんとした一軒家だった。
風呂場の電気が点いとったから、マサ兄が入っとると思った。
玄関の鍵が開いてたから、勝手に入って綾子と一緒にマサ兄の部屋に向かった。階段を上がっとると、マサ兄の部屋のドアが開いた。マサ兄が声を掛ける訳でもなく、人の気配がねぇと思ったら、ムッちゃんがアタシと綾子をじっと見とった。
「ムッちゃん、久し振りだね。元気だった?」
もちろん返事をしてくれる相手ではなかったが、声で分かったのか、階段を2段下りて来た。
階段でムッちゃんと話しとると玄関が開いて、カズ兄がアタシと綾子とムッちゃんを見た。
「カズ兄、お帰り。マサ兄にムッちゃんのツメを切るように言われて来たんだけど、お風呂に入っとるみたいだから、綾子とムッちゃんと遊んどった」
「ただいま。最近、飛鳥が来ねぇから、ムッちゃんが寂しがっとったぞ。ムッちゃん、飛鳥に会えて良かったな」
ムッちゃんは知らん顔をして、アタシに抱っこされとった。
「ちゃうよ。おかんが塾に行かせるし、飛鳥は彼氏と会わんとアカンで、時間がねぇの。だから、たまにしか来れんの」
よっぽど塾に行くのがイヤみたいで、綾子は眉間に皺を寄せた。
「はっ! 飛鳥、男が居るんか? どこの誰と付き合っとるんだ?」
驚いた顔をして、カズ兄はちょこっと大きい声で聞いてきた。
可愛くねぇけど、そこまで驚かれると失礼じゃねぇ?
「……紅櫻のアキラくん」
名前を言った瞬間、カズ兄は現役顔負けの顔をしてアタシを見た。
「紅櫻のアキラ! 飛鳥、いつどこでアキラにナンパされて付き合ったんだ? 俺はアキラと付き合うのはぜってぇ〜反対だからな。今すぐ別れろ。アカン! ぜってぇ〜アカン! 今すぐ別れろ、今すぐにだ! もっと他の男を好きになれ! とにかくアキラはアカン!」
低い声で言ったカズ兄を呆然と、アタシと綾子は見とった。
普段から口五月蝿いけど、アキラくんの名前を出しただけで、眉間に皺を寄せて反対されると思わんかった。
「カズ兄、ちゃうよ。飛鳥はアキラくんにナンパされとらん。アキラくんが飛鳥に告白して、仕方なく付き合っとるだけだから、飛鳥は好きになっとらん。飛鳥は別に好きな人が居る」
必死で綾子が、カズ兄にアキラくんの事を言ってくれた。
風呂の方からドアが開く音がして、マサ兄が出てきた。
「カズ、何、飛鳥に言っとるんだ?」
たぶん風呂場までカズ兄の声が聞こえたから、マサ兄が聞いたと思う。
「飛鳥が紅櫻のアキラと付き合っとるんだ。俺はぜってぇ〜反対だ。飛鳥と綾がケガさえしんかったら、どんだけケンカして帰ってきてもえぇが、アキラとは今すぐに別れろ」
マサ兄に説明したと思ったら、カズ兄はいつのまにかアタシに言っとるじゃん。
「飛鳥、部屋でムッちゃんのツメを切ってやってくれ。綾、テーブルの上に爪切りが置いてある。カズとちょっと話してから行く」
顔を顰めたマサ兄はカズ兄を見て、アタシと綾子を見て言った。
「分かった。飛鳥、マサ兄の部屋に行くよ」
アタシの手を引っ張った綾子は、階段を上がって行った。
「マサ兄とカズ兄はホントに双子なのか? マサ兄は冷静に話を聞いてくれるけど、カズ兄はよぉ〜話すで参っちゃうんだよ」
ムッちゃんの爪を切りながら、綾子がマサ兄とカズ兄の話をしとるのを聞いた。
確かにマサ兄とカズ兄は顔は似とるのに、性格は正反対だけどケンカをしねぇし、アタシや綾子に対しては優しい。
「全然ちゃうよね。でも、カズ兄はケガしんかったら、遊んで帰って来るのを許してくれたから、五月蝿く言われんね」
「ちゃう。カズ兄はアタシ達がそこまで遊んどるのを知らんからだよ。ただ、噂になっとるのは知っとると思うけど、それってやられた相手と被害に遭った人しか知らん。けど、アタシと飛鳥の名前と顔を知らんから大丈夫だけれど、半分も知らんから言っとるだけだよ」
やっぱ兄妹だけあって、綾子はカズ兄の事をよぉ〜分かっとる。
「ほんじゃあ、カズ兄や広樹には絶対にバレんように遊ばなアカンね」
「自分でも散々遊んで帰って来とったのに、アタシと飛鳥には五月蝿いからね。ケガするとカズ兄が五月蝿いで、冬休みは道場に行こう」
いつもカズ兄の事を言っとるけど、綾子はカズ兄に頼む事がよぉ〜あるよね。
「うん、どうせアキラくんからも会ってと言われんし、綾子も塾でストレス溜まっとるからね。ストレス発散しんとアカンね」
笑って綾子と話しとると、マサ兄と彼女さんが部屋に戻ってきた。
マサ兄と彼女さんは、高校のときから付き合っとるけど、卒業と同時くらいに同棲をしとった。高校のときの彼女さんは、ちょこっと荒れとったけど、人を信用することが出来ん感じだった。マサ兄が綾子に相談しとったみたいだけど、話を聞いとると家庭の問題があるみたいだ。アタシのツレじゃねぇから、本人には言わんけど、かなり苦しんどった。1年前くらいに彼女さんに会ったとき、リストカットをやっとるのは知っとったけど、マサ兄が何とかすると思ったから、気付かんフリをしとった。アタシが出しゃ張って言うことではねぇし、マサ兄に任しとけば大丈夫だと思った。
約1年で彼女さんは、やっとマサ兄にちょこっとだけ心を開いとるのが分かった。流石、マサ兄だね。これからも継続してれば、いつか彼女さんがマサ兄の事だけは信用すると思う。もっと良くなれば、周りの人も信用する事が出来ると思う。見守ることしか出来ねぇけど、マサ兄だったら大丈夫だ。
「綾子、マサ兄と彼女さんの邪魔したらアカン。ムッちゃんのツメも切ったで、早よ部屋に戻ろう」
ムッちゃんの爪をゴミ箱に捨てた綾子を見て、部屋に戻ることを言った。
「ほだね。明日のカラオケにも影響するとアカンでね。マサ兄、もう帰るね」
マサ兄の方を向いた綾子は帰ることを言ったけど、マサ兄たちは旧宅で、綾子は本宅でも敷地内じゃん。
「あぁ、飛鳥、ムッちゃんのツメ、サンキューな。カズが言ったことは気にするな。楽しんで遊んでこい。また、ムッちゃんを見に来てやってくれ」
気にしとると思ったみたいで、マサ兄は優しい顔をして言った。
「うん、マサ兄、ありがとう。また、ムッちゃんを見に来るね。マサ兄、彼女さんのことを大事にしんとアカンよ」
「飛鳥、いつもサンキューな。大事にしとるから、心配しんでも大丈夫だ。困ったことがあったら、ちゃんと言えよ」
笑ってマサ兄に頷くと、優しい顔をしてアタシと綾子に笑った。
部屋に戻ってからも、まだ眠くなかったから綾子と話しとった。
「飛鳥、明日はファストフードに行ってから、カラオケに行こうね」
「うん」
そのあとはドラマや学校の会話をして、気付いた時には夜中になっとった。普段、綾子とは話しとるのに、不思議と話題が次々に出てきて続いとったんだよ。
結局、睡魔様があらわれて会話を中断して寝た。最後に時計を見たのは、4時近くになっとった。
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