【綾子と広樹】
教室のドアを開けると、それぞれ仲良しグループで話をして笑っとる。
「飛鳥、おはよう!」
幼稚園の頃から仲良かった綾子(あやこ)が、後ろから元気な声で挨拶してきた。それと同時に、アタシの肩をバシッと叩いてきた。
振り返って綾子の顔を見ると、綺麗な二重瞼で大人っぽく薄化粧をして笑っとる。
「……お、おはよう!」
ちょこっとビックリして、すぐには言葉が出んかった。
普段、一緒に学校に来とるけど、今日は綾子が早よ行く用事があったから、別行動だった。
自分の席に鞄を置いて座ると、綾子が前の席の椅子を引っ張り出して座った。
「いつカラオケ行く?」
「綾子の都合のえぇ時でえぇよ」
「でも、アキラくんとデートもあるんじゃねぇ?」
「確かにアキラくんとは会うけど……」
「まぁ、いっか。ところで、アキラくんのこと好きになってきた? 何ヶ月になるんだっけ?」
「……う〜ん、分からん。えぇ人だとは思うけど……1ヶ月ちょっとだと思うよ」
「そっか。やっぱり広樹(ひろき)がえぇんだ?」
言い終わると、綾子はニコニコ笑って、広樹が居る方をチラッと向いた。
アタシの好きなのは1年以上前から、ずっと広樹だけなんだけど、告白する勇気がねぇから、ずっとツレで居ることを選択した。
広樹のことを好きな人が、めちゃんこ多くって、ファンクラブまであるんだよ。そん中には、めちゃんこ可愛い子や綺麗な人も居るから、到底アタシには無理な願いだと分かっとる。
けど、幸い広樹に彼女が居る噂は、聞いたことねぇのが救いだった。もしそんな噂を聞いたら、ショックで学校を休んじゃうかも……
「お前等、いつも一緒に居るよな? 冬休みの計画でも、立てとるのか?」
「ほだよ。でも、広樹には関係ねぇじゃん。あっち行って」
「お前が『広樹がどうの』と言ったから、来ただけだ」
綾子と広樹の会話を黙って聞いとった。
それにしても普通の声だったし、離れとったのに……地獄耳なの?
アタシの席は窓側の前の方だったのに、広樹は後のロッカーに座ってツレと話しとった。それに教室の中も五月蠅かった。
広樹は背が高く、細身だが筋肉質。
いつも短い金髪の髪をドライヤーで立て。笑うと目がねぇくらい細く、綺麗なブラウンの瞳をしとった。素っ気ねぇ態度で常に冷静だった。
綾子と広樹とは、1年の時から同じクラスだった。その時から、広樹とも仲良くなって話をしとった。いつも素っ気ねぇ態度をしとったが、たまに優しい顔や笑った顔をしとった。
普段、女の子と話さん広樹だが、何故かアタシと綾子には、普通に話し掛けてきとったし、家にも遊びに行った事もあった。
格好を聞いて分かると思うけど、広樹は典型的な不良だった。
アタシと綾子は普通の女の子? 表の顔はそう思われとる。でも、駅前や学校の1部の人から、アタシが悪女、綾子が悪魔と呼ばれとった。
「高梨、冬休みにどっか行くんか?」
綾子と話しとったのに、広樹が突然話し掛けてきて、ビックリして答えれんかった。
「飛鳥は彼氏のアキラくんとデートしたり、アタシと遊びに行く予定でいっぱいなの」
そんな時、いつも綾子が代わりに答えてくれるんだよ。
「彼氏のアキラくんとデートなんか?」
答えることができんかった。
そんな時、タイミングよくチャイムが鳴ったのと同時に担任が入ってきた。話が途中になったが、みんな自分の席に座った。
終業式が終わって、明日から2週間くらい、広樹の顔を見る事と話をする事が出来んのは残念だった。
綾子と広樹end
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