第3話

椅子に座っとるパパは、ニュースを見とった。


「パパ、おはよう」


「おはよう」


椅子に座るのを見たパパは、キッチンに目を向けて立ち上がった。


「ユキ、飛鳥が来たぞ」


ママに言いながら、パパはキッチンの方に歩いて行った。

いつものことだけれど、棒読みみたいな言い方で感情がねぇ、その話し方を聞いとるとイラつくんだよ。


両手に皿を持ったパパは、テーブルの上に置いた。

皿の上にはハムエッグと千切りキャベツとトマトが綺麗に盛り付けしてあった。


「徹(とおる)さん、これもお願い」


短く「あぁ」と言って、キッチンへ戻って行くパパ。

これも毎朝の日課だ。


子供の前では良い夫婦を演じとるけど、そんなパパもママも大嫌い。

ケンカして怒鳴り合っとるのは分かっとるが、それに気付いとらんみたいでバカじゃねぇかと思う。


これがアタシの家族で、パパの徹とママのユキとアタシの3人家族なんだよ。

1人っ子なんだけど、普通の家族とちょこっとちゃう気がするんだよね。


ママは専業主婦。

パパの職業は全然知らん。

昼間、家に居ることも多かったけど、アタシが中学になったころから、夕方から居らんことが多かった。

でも、朝ご飯の時間帯には帰って来とるんだよ。

だから、何をやっとるのか知らん。


若い時のパパとママのことは全然知らん。

恋愛結婚なのか、それともお見合い結婚なのかも全然知らん。

2人に興味ねぇから、聞こうとも思わんかった。


ファミレスのバイトより手慣れた手付きで、トレイを持って来た。

味噌汁とご飯とコップと箸を3人分運んできた。

その後から手ぶらで来たママは、アタシの隣に座った。


典型的なかかあ天下。

興味がねぇアタシにも、それだけは分かっとる。


「頂きます」


ママの合図で箸を持って食べ始めた。

ご飯を食べとる間、ニュースを見て誰も話さんから、その時間が苦痛だった。

唯一の救いはテレビが点いとることだった。

もし、それがなかったら、毎日、朝から通夜状態だと思う。


寝起きだから、ご飯が喉を通らんかったけど、無理やり押し込んで部屋に戻った。

急いで支度をして学校に向かった。


不自然な家族に嫌気がさしとった。

傍から見れば、いい夫婦、いい家族だと思われとるけど、実際は演技をしとるだけの家族だ。


それに幼稚園の頃まで、毎日一緒に遊んでくれとったひろ兄が居ったけど、一切見かけんくなったんだよな。


アタシより5歳くらい年上のひろ兄。

そのひろ兄のことが大好きだった。

いつもアタシの面倒を見てくれとった。


そのことをパパとママに聞くと、突然不機嫌になるから、聞けんで謎の人なんだよ。

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