第14話 クインの本領
「降伏せよ!さもなくば攻撃する!」
リークリア帝国第7機動師団はペルラシオ王国辺境領、ソルトに半包囲体制を敷いていた。2000の騎兵は全て竜車化された機動兵で、地竜もランクⅥのが80騎も揃っていた。
地竜にはランクという概念が存在し、
ランクⅠからⅢまでは火炎放射はできず一般に竜車の引手として使われ、ⅣからⅤは火炎放射、ⅥからⅦは火球が放てる。Ⅷ以上になると高位魔法を用いた竜種固有の魔法が使えるようになる。
ペリラ3国の軍で使われていたのは主にランクⅣのもので、稀にランクⅤが居る程度だったが、魔導技術が進歩していたリークリア帝国は竜種の改良を続け、ランクⅥを揃えるに至った。
第7機動師団はその足力を活かしてペルラシオの辺境領への侵攻を担当し、ソルトに到達するまでに幾つかの辺境領を落としていた。
「3分だけ待ってやる、降伏するのかしないのかさっさと決めろ!」
☆☆☆
「嘘だろ...リークリアがここに来るとは...。迎撃用意!総員持ち場に付け!」
「領主さまはこちらへ」
「さっさと何でもいいから武器を持て!急げ!」
領主さんやネーセルさんは急いで会場から出ていったしまった。騎士の殆ども戦闘配備のために持ち場に戻っている。残された私達はV54内のクインと話していた。
「なんかヤバいこと起きたみたいだけど...リークリアってペルラシオの隣国だっけ?」
『はい、ペルラシオと対立関係にあり、第一仮想敵国ですね。その軍が襲撃してきたようです』
「探知できなかったの?」
『はい、船長。それですが、この画像を見てください』
スクリーンに映し出されたのは同じ平野を写した2枚の空撮画像だった。
『ここと...ここで、平原の緑色に差異があることが分かります。この差異を着色しますと...』
赤く色がついたそれは何かの隊列のようなものだった。
『このような差異が観測できる範囲でソルトに移動していました』
「足跡みたなものってこと?」
『いえ、これ自体がカモフラージュしている部隊です。ある種の偽装だと考えられます。あくまでも色だけで、赤外線や電磁波は防いでいないようです』
バグとして処理されていたのですが、ログから見つけてきました、と、クインは言う。
「平原の緑色と同化しているってことか...」
『ペルラシオ王国の
「
そうこうしているうちにも外から降伏勧告が鳴り響いてる。あと1分もないようだ。
「リークリアって国力どんぐらいなの?」
『人口5000万人、文明レベルは近世前半のヨーロッパ諸国に相当します、が...魔法が関わってくるので、正しく計測することは不可能です』
「ワイバーンとか魔導師とか、どういう原理なんだか...」
外が騒がしい。ネーセルさんが何か言っているようだ。
「…我々はペルラシオ王国の誇りある騎士だ、貴様らの降伏になど応じない!」
「蛮族めが!死ね!」
四面楚歌とはこういう状況なのか、ソルトは完全にリークリア軍に包囲されていた。
『戦闘が始まったようです。リークリア兵、推定2000。ペルラシオ側は500名もいないですね...』
MMSや偵察機が撮影している映像がスクリーンに並べられる。リークリアはソルトの家々を次々と制圧し、領主の屋敷に迫っていた。ペルラシオ側は屋敷に向けて迅速に撤退しながら攻撃を加えているようで死者は殆ど出ていない。
「でも、籠城するってなったらネーセルさんたちに勝ち目無いよね...」
『はい、このままでは99%の確率でペルラシオ側が敗北します』
「介入した方がいいのかな...」
『我々はペルラシオの領内に拠点を構えていますからね、彼らにとっては我々もペルラシオも大して変わらないでしょう』
戦争とかしたくないんだけどなぁ。
「クインって軍艦のAIしてたとか言ってたけど戦闘経験あるの?」
『艦隊戦を指揮したのが千二百回、地上戦は一万回以上ですね』
「え!?えええ!?」
そばでお菓子を食べながら聞いていたコフィは何も反応していない。
「リセ?、
「なんで今、それを?。...確か、クインシー・ムーアでしょ、歴史の教科書にのっている人。連戦連勝の戦略家だっけ」
「それがこれ」
そう言ってコフィはスクリーンに映るクインのアバターを指した。
「え?、は?」
「まあ、人は間違いだけど...」
『はい、
☆☆☆
(side ネーセル)
「とりゃっ!」
「あぐっ...」
敵の剣が私の胴にあたる寸前のところで、敵兵は倒れた。見ると副隊長がその剣を敵に突き刺していた。
「ありがとう、助かった。やっぱお前は頼りになるな」
「そ、そんなことないですよ~。副隊長として隊長を補佐するのは当然です!(隊長がいいなら人生も補佐します!)」
「そうか、いい部下を持てて良かった」
「~!」
副隊長の後ろから剣が振り下ろされた。すかさず、愛剣で受け止める。
「なっ!?」
「まだまだ未熟だな!」
首に剣をスライドさせる。敵兵はうめき声をあげて崩れた。
「あ、ありがとうございます!やっぱ隊長は強いですね!俺などまだまだです!」
「他人を褒めるぐらいなら、自分の命を守れ」
「はい!(隊長のそういうところも好き!)」
にしても敵の数が多い。騎士の剣術のレベルではこちらが勝っているが、数で包囲されたらどうしようもできない。
奥の路地からぞろぞろと敵兵が出てきた。
「あの家まで退却だ!急げ!」
ペルラシオ側は十人単位で小隊を組んで、家屋を利用しながら機動防御をしている。
「あれは!?」
「ランクⅥクラスか?」
敵兵を追い越すように迫ってきたのは深緑色の地竜だった。20頭はいる。我が国では出来ない太っ腹編成だ。つくづくリークリア軍が羨ましく憎い。
「「薙ぎ払え!
「うわぁぁぁ!?」
地竜たちが口から火を噴いた。味方が立てこもっていた家々が数十棟まとめて燃やし尽くされた。
「熱い!誰か、助けてくれ!」
「う、腕がぁ!」
中にいた兵士たちが松明のように燃えながら走り出してきた。リークリアのクロスボウ部隊がそれを射止める。
「くっそ!強すぎる!」
「ランクⅥの地竜なんて初めて見たな...」
副隊長と石造りの家屋の背後に隠れた。火炎放射は防げるはずだ。
屋敷の方で動きがあった。
「隊長!あれで倒せますよ!」
バリスタは投擲弾を放つ。鉄製の貫通に特化したものだ。地竜の胴にそれは突き刺さった。
「やった!」
「いや、...違う」
矢はまるで壁にでもぶつかったのかのように、地面にあっけなく落ちた。火球によってバリスタは操作兵もろとも爆発四散した。
「そんな...」
「あの地竜、防御魔法も施しているな。至れり尽くせりだ」
地竜はつい、そこまで迫っている。通常兵なら簡単に切れるが、地竜を剣で倒せる自信はなかった。
その時、何かが宙をまった。肉片だった。血しぶきが降りかかる。
グチャ、グチュグ、グチョ、ブシャー。なにか肉質なものが潰されるような音がした。
「え!?」
「なんだ!?」
静かになった。通りに顔を出す。血肉が飛び散っている道があった。
20もいた地竜は一匹も原型を留めておらず、鱗や肉片がその状況を示していた
血にまみれた人がその地竜の亡骸の中に埋もれていた。乗っていた竜士だろうか。
「一体!どうしたんでしょうか...」
肉片は一方向に飛び散っているようだ。その反対側に振り向く。
そこにはただただ、10もいないであろう鉄人と巨人がいるだけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます