第12話 side 女帝シェユリン〜帝国の決断

ペルラシオ王国、ライハ共和国、リークリア帝国は元々は一つの民族の一つの国だった。当時は3つの街が連合した国家だったことからペリラ国と呼ばれた。


しかし、数十年前、おさたちの主義主張の違いが原因で3つに分裂した。


山脈に囲われた盆地にあったペリラ3国はそれぞれを仮想敵国と認識し、工業や農業においてひたすら競い合っていた。リークリアはその中で最も発展し、人口も工業生産能力も最大の国となった。今まで保たれていた3国の均衡が崩れたのはその時だった。


ペルラシオとライハはリークリアの著しい発展に憂慮したのか、今までの対立をやめ、同盟を組んだ。


3国の巴戦が2対1の構図に変わったのだ。


ライハ共和国は3国の中で唯一海洋に面する国家であり、ペルラシオの国力が加われば2国連合の規模がリークリアを上回るのもそう遠くないとされた。


そして決め手はペルラシオの禁輸措置だ。ライハは船を通じて大陸の他の諸国と貿易をしており、ペルラシオは今までリークリアに輸出していた農産物を、代わりに海外諸国に輸出し始めたのだ。


魔導工業技術が優れていたリークリアは反面その国土の大半が火山灰が降り積もってできた荒れ地シラスであり、今までは工業製品をペルラシオに輸出し、農産物を輸入することでその人口を賄っていた。


だが、ペルラシオが2国間連合を締結するとともにリークリアへの禁輸措置を打ち出したことでリークリアは窮地に陥った。ペルラシオはリークリアから輸入していた製品を代わりに海外から輸入していた。


そう、必然的に国民を飢えさせないためには何かしら2国間連合に妥協し、食料を輸入する手しかなかった。それでは、リークリアの地位と経済は3国の中で最低に落ちぶれてしまうだろう。


「どうしたものか...」


リークリア帝国の首都、ハイヘンの宮殿の一室、リークリア帝国女帝ライラ・シェユリンは帝国を揺るがす事態に苦悩していた。


「...軍を動かすという手もありますが」


執政官のミハイルが言う。


「それは最後の方策だ、だれも争いいくさなど望んでおらぬ」


「ですが、あの2国に降るというのは190年前から続いてきた一族の歴史に泥を塗ることになるのですぞ、シェユリン様もただでは済みません!」


集っている政務官は皇族内の跡継ぎ争いが激化していることを知っていた。ライラは14歳の時、若くして皇帝の座についた前皇帝の娘だった。それからもう4年が経つ。


親族内にはそれを気に食わぬ者も多く、暗殺までしようとして退位を図ろうとしていた者もいた。


それでもここに居る執政官達はライラが帝国の為にその身を粉にして奔走していることを知っていて、その働きによって数多くの分野で偉業がなされ、今までに増して帝国が発展していっていることを分かっていた。


「国を治めるものであるならば妾は皇帝の座を明け渡してでも、国民を守るべきだろうぞ」


「シェユリン様...」


と、一人の軍師が前に出た。


「シェユリン様、どうせ2国にくだるのです、それならば一か八か軍を私に預けてください。私が独断で行ったことにしてペルラシオに侵攻します」


「貴様、それで大勢の民が死ぬのだぞ!。何を言っているのだ!」


執政官達が声をあげる。

軍師はそれを気にも留めずに話を続けた


「このままでも民は飢えて死にます。2国にくだっても、奴隷扱いされて国民が苦しい思いをするだけです。ならば、この私、ユークリッド、その生命いのちと名声と、地位にかけて、この情勢を打破してみせます」


ライラはしばし考えこんだ。


「あのおぬしがそう言うのだ、勝算はあるんじゃろうな?」


「ええ、もちろん。3日でペルラシオを征服してみましょう」


「ふっ、好きにするがよい。ただ、責任は妾が負う、それだけは譲れぬ」


「シェユリン様、この者の独断なのですよ!、わざわざ貴方が責任を負う必要は...」


「争いを止めることすらできなかった愚かな皇帝のせめてものわがままなのだよ、聞いてはくれぬか?」


「...」


皆が悲痛な表情を顔に浮かべる中、一人だけ、笑みを浮かべていた人物がいた。ユークリッドだった。


「ユーレイル・ユークリッド、そのわがまま、承りました。ですが、失敗しましても、私はシェユリン様にご一緒致します」


「成功させてみせるんじゃろ?、やってみせろ」


女帝は笑ってそう答えた。


「...っ、シェユリン様...。分かりました、勝利してみせましょう!」

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