第10話 外交は簡単?

少し時は遡る。


私はネーセルさんと話すためにドーナツ惑星に降りようとしたのだが、クインがそれに猛烈に反対していた。


『船長、もう一度考え直してください。危険です、危なすぎます!』


私より少し背の高い銀髪の女の子に先ほどから手を握られて掴まれていた。

クインは商談の時に使う蛋白機械ヒューマノイドまで出して、私を説得しようとしているのだ。彼女はクインとは思考が少し変わっているのでレイ・クインと呼んでいる。でも、そんなにムキになってると、すこしいじわるしたくなっちゃう。


「えー、でもそんなこと言ったら宇宙港もローディー・デイス号も大して安全じゃなかったでしょ」


貨物船の船長として、今まで宇宙港で謎の宗教団体に拉致されかけたり、ローディー・デイス号ごと宇宙軍の全長500㎞の星間鳥戦術輸送艦に轢かれかけたこともあった。今では懐かしいことである。


『…すみません、よくわかりません』


Goegleアシスタントの音声入力が失敗したときにいうセリフみたいなこと言ってる。


「まあ、レイが心配するのは分かるけど、今まで一緒にいろんな危機を乗り越えてきたじゃん。大丈夫だよ」


『船長...、その能天気さが一番不安なのです。なんかフラグを立てているようで』


蛋白機械は接客用なので思考や発言にバイアスがかかるらしい。そもそも蛋白機械アンドロイドにはGCが搭載してあるから独立行動が普通で、クインのデータは同期しているが全くの別人のようなものなのだ。レイ・クインの名前の違いはその区別のためである。


「だって私、1級フラグ建築士だし」


『船長、そのネタ、古いです』


「だって21世紀最高のネタだもん」


これを使わない人は人じゃないよ。


『2千年前のネタを使う人がどこにいるんですか...ここに居ましたね』


「そんなにおかしい!?」


『例えば、船長が21世紀の人だったとして、縄文人の言葉で話しますか?」


「…話すよ、うん」


『はぁ...口だけでは何とでも言えますよねえ』


「じゃあ、行くから通してよ。シャトルに乗れないよ」


AIたるもの命令には逆らえないのだ。


『…はい、船長、仕方ないですね。私がお供しますから』


と、まあそんなやり取りがあったわけだが、ドッキングポートに向かっている途中、丁度、自室から出てきたコフィとばったり遭遇した。


「誰?」

「ん、誰って、誰の事?」


とてつもなく威圧感がある声でコフィは言う。

なんかコフィめっちゃレイのこと睨んでる。そういえばレイとはまだ手を繋いだままだった。


「そのひと」

「クインだよ(正確には違うけど)」

「えっ?、えええ!?」


「そっか、コフィは知らなかったのか。これ商談とかに使う用のクインの同期意識体サブ・オピニオン蛋白機械ボディだよ。レイ・クインって名前なんだ」

『始めまして(記憶的には2回目だけど)、レイ・クインです』

「確かに...クインのアバターに似てる...」


コフィはレイを上から下まで見回した。


「中古品だけどできるだけアバターに似せて改造したからね」

『中古品女...』

「いや、そんなこと言ってないけど...」


でも中古品なのは事実だ。新品は私の給料では手が出せなかった。


「その、クイン、じゃなくて、レイ、よろしく」

『こちらこそ、よろしくお願いします。私にとっては2回目ですが...コンテナの中でお会いしたのが1回目だと...』


記憶とデータが同期しているのでレイとクインは2つの過去と、2つの考えを持っているらしい。でも例えばレイが私に「あ」って言うことは、クインも「あ」っていうコトになるんだよね。ようわからん。


「しー、それは秘密でしょ」

『そうでしたね』


「てゆうかクイン、聞いてるならレイのこと先に教えてよ...」


『聞かれませんでしたので...』

『私はクインとは違ってSRH社のものではないですから...』


「ん?何の話」


「な、なんでもないよ。リセたちは、どこいくの?」


「ドッキングポートだよ。現地民が調査団?みたいなのを派遣してきたから話し合うためにドーナツ惑星に降りるんだ」


「わたしも行く」

「レイ、大丈夫だよね?」


『はい、特に問題は無いです』

「じゃあ、行こっか」



☆☆☆




と、今に至る。


ちなめにインプラントの介入で自動的に現地語に変換されて発音されるから、意思疎通に問題はないはずだ。


「始めまして、私はローディー・デイス号の船長、リセと申します。我々の代表の代理を務めさせていただきます」


だいたい10人ぐらいいる騎士たちはとても驚いた顔で私を見ていた。そりゃそうだろう。あんなゴツい機械ばっかりの集団の中に人間がいたら驚くわ。


「私はペルラシオ王国辺境騎士隊、隊長のエレオノーラ・ネーセルだ。リセ殿は最初に接触した鉄人と声が同じだが、あれはあなただったのか?」


「いえ、遠隔操作していただけなので。鉄人は中に人は入っていません」


MMSが鉄人かあ。確かに見た目はゴーレムよりも鉄人ぽいかも。


「えんかくそうさ?ゴーレムのようなものか?」

「そうですね。たぶん...似たようなものです」


ゴーレムが何をさしているのかが分からないが同じようなものだろう。


「成るほど、とても先進的な技術のようだな...。それで、何故、貴方達は我が国の領土を不法に占拠しているのだ?」


いよいよ本題だ。


「調査...のためですね」

「調査?」


「はい、我々は宇宙そらの上から来たのですが、この星に興味がありまして」

「天人とおっしゃっていたが、空の上で暮らしていたと?」


ネーセルさんはなんとなく呆れた顔でこちらを見てる、他の騎士たちも笑いを隠しきれていない。まあ、いきなり宇宙からきましたと言われてもホラ吹きにしか見えないだろう。


「いえ、元々は別の星に住んでいましたが、遭難してしまって、一時的に宇宙そらで暮らしています。故郷に帰るためにも、この星の調査が必要なのです」


「だから、我が国の領土を占拠したと?」


ネーセルさん以外はもはや信じてもいなさそうな表情だ。


「占拠してしまったことは大変申し訳ございません。我々はここに国が存在することを把握しておらず不本意に領土侵犯をしてしまいました」


「ならば即刻退去を願おう。退去しないならば然るべき措置を取らざる終えない」


「それは...できないことはないですが...。これを見てください」


レイがワゴンを持ってきた。

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