第9話 現地民とご対面

最初に軌道往復シャトルスペース・プレーンの着陸を見られてしまったのは想定外だった。


『船長、現地民集団はペルラシオ王国の辺境騎士隊と判明しました。交渉の必要があると思われます』


クインはAMSに切りかかってきた騎士をなぎ払った後、騎士隊長らしき者の謝罪と質問を聞いて、私に指示を仰いだ。初の現地民と対話だ。クインには荷が重い。まあ、これらの事象は単なる制御AIの範疇を大きく超えたものだから仕方がない。


「直接操作したほうがいい?」

『はい、言語は翻訳しますのでお願いします』

「りょうかーい。...ちょっとまって」


仮想現実に入るのは久しぶりだ。電気信号に脳細胞が過剰反応しないように、ゆっくり感覚器官の信号を遮断し、仮想空間上のものに変えてく。


インプラントのVR機能は完全にオンになった。


「視点をMMS№14に切り替え」


現地部隊のMMSの一体に乗り移る。戦闘機械の大半はこうして人間が直接操作できるようにもなっているのだ。


☆☆☆


「...我々は天人の使い。空の遥か彼方から来た者です」


そして騎士隊長らしきお姉さんと言葉をかわし、今に至る。


「はぁ、疲れた。外交とかしたこと無いけど、あれでいいのかな?」


だいぶ恥ずかしいことを言った気がする...。めっちゃきどってたし。


『たぶん、大丈夫です...』


説得力ないんだけど...。


『次からは外交用プログラムデータをダウンロードします』

「最初からそうしてよ...」


それはそうと、騎士隊長さんたちは上空を軌道往復シャトルスペース・プレーンが通過したことで口をあんぐり開けて固まっていた。


領主が居る街にこの人たちと行って説明をしてもらい、土地の交渉をしたいところだが、どうしたものか。


「移動用の機械が必要かな...」


偵察機の情報によるとこの人たちは少なくとも2日以上はかかってここに来たそうだ。流石に徒歩は時間がかかりすぎる。


『装甲兵員輸送車を生産しますか?』


クインが示したのは大気がある岩石惑星で使われる汎用輸送車だ。装輪式と装軌式の2タイプがあるが、ホログラムは装軌式のものだった。


31世紀末に開発されたもので、戦後は民間に払い下げられて一般で使われたものだ。機銃弾に耐えられる程度の装甲とアクティブ防御システム、20㎜連装機銃レールガン砲塔を備えており、最大で14名が搭乗可能だ。エレクトロニクス関連部分と武装以外は陸上戦闘車両の最盛期だった21世紀の装甲車と大して変わってない。


そもそも戦闘は現代では宇宙空間で行われるのが主流となり、地上部隊は占領か治安維持ぐらいにしか使われないのだ。敵の拠点や部隊が居るなら軌道上から爆撃で吹き飛ばせばいいからだ。


「これってMMSやAMS収容用もあるの?」

『はい、人が搭乗する有人型と戦闘機械を運搬するための無人型があります』

「へえ。プリント時間は?」

『一両あたり2時間です』

「つくろ」


だいたい100両を造ることにした。プリンター自体がコピーを作って増えてるので、100両なんか造作もないものだった。AMSやMMSも数千体を生産している。


「あと、飛行機もあった方がいいよね」

『はい、船長。今はドローンしかありませんし航空輸送能力も必要になるかと』


ヘリや輸送機も生産ロットに追加していく。結局、移動手段はそっちになりそうだった。


☆☆☆


「この馬車みたいなやつを引いてるの、明らかに恐竜みたいのだよね?」


見ているのは先ほどの騎士たちの馬車だ。ただ、あくまでも馬車に形と形式が似ているというだけで、馬の代わりに恐竜のようなものが荷車を引いていた。


『はい、船長。確かに恐竜に似ているかもしれませんが、骨格の形から爬虫類の可能性が高いです。今の段階ではなんとも言えません』


うーん。この星の生物、完全にファンタジーのそれなんだよな。絶対、ワイバーンとかドラゴンとかゴブリンとかオークとか出てきそうなんだよね。


「あ、ネーセルさんに聞けばいいんじゃない?」




☆☆☆


(side ネーセル)




私達は自称天人の使いの拠点に案内されていた。あの道のような構造物の端の方にある建物に鉄人が先導して向かっていた。その建物は王都の城郭都市には及ばないものの、短期間に作られたならありえないほどの大きさだった。そして理解ができない形の構造物がいくつもある。


「でけえ…!」

「石造りじゃないぞ、何でできてるんだ!?」


「ネーセル隊長、あれは一体なんでしょうか?」


副隊長が指したのは天人の使いの拠点から続々と出てきている物体だった。鉄でできているのか光沢があり、唸り声をあげながら前進していた。


「あれは我々が使う乗り物です」


鉄人がその疑問を聞いていたのか答えた。先程の女性の声の鉄人とはまた別の声の鉄人だった。鉄人が指示を出すとその乗り物は停止し、扉のようなものが開いた後、鉄人がぞろぞろと出てきた。


「竜車みたいなものですか。何かが引いているわけではないようですが?」


車輪がない荷車など見たことも聞いたこともなかった。


「自力で動きますので。動力機関を搭載していますから」

「そ、そうなのですか...」


動力機関とは一体?魔法先進国で使われているという魔導機関のようなものだろうか...。


私達が案内されたのはその拠点の建物から離れた大きな洋館だった。無機質な建物や構造物が立ち並ぶ彼らの拠点の中でポツンとあるその洋館は取って付けたような異様な存在だった。まるで今作られたかのようにその洋館は新しく、汚れは一切なかった(プリンターでプリントされたのは10分前)。


そして謎の水晶が明るく光って室内を照らしていた。


「こちらで待っていてください」


広い応接室のようなところに案内された私達はソファーに腰を下ろしていた。ソファーや長机、椅子、シャンデリア以外には何も無い殺風景な部屋だった。それでも彼らの拠点には文化的、文明的な営みが一切見られなかったのに比べれば随分マシな方だ。


「隊長、この机、鉄でできてますよ!」

「本当か?」


触ってみると確かに木ではないツルツルした感触だった。


「見た目は木でできているようだが...」

「これは彼らが木のない場所で暮らしていたからなのでは?」

「どういうことだ」

「天人ということはきっと雲の上で暮らしているんですよ。雲の上は木なんか、一本も生えてないでしょうし」


副隊長はおとぎ話を本気で信じ込んでしまうタイプなのだ。


「だとしたら何で鉄を使ってるんだ?」

「流れ星でも捕まえているんじゃないですか」

「だったら大したものだ。だいいち雲の上で暮らせるわけなんてないだろ」

「ですよね〜」


まさかそのまさかである。副隊長が言っていることはあながち間違ってはいなかった。


と、副隊長と意味のない話し合いをしていると、奥につながる扉が開いた。


「始めまして、私はローディー・デイス号の船長、リセと申します」


天人の拠点に入ってから初めて、私達以外の人を見た。出てきたのは赤毛のだった。

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