第8話 side 騎士隊長~接触

人よりも大きい人型のなにかががうろついている、何かを作っているという目撃情報が領主や辺境騎士隊に頻繁に入ってきたのは数日前からだった。前に領主の屋敷で謎の魔道具?が爆発を起こしたばかりなので、何か関連があるのではないかと思う。


「ネーセル、これをどう思うか?」


領主は目撃した村人が書いた投書を騎士隊長に見せた。騎士といっても辺境伯直属の騎士隊で王国騎士団には遠く及ばない規模だ。領主が治める地域は隣接していた仮想敵国(ライハ共和国)が領主の所属する国家、ペルラシオ王国の連合に加わったため騎士隊は治安維持や警備ぐらいしかしていなかった。


「人型ですか...。ラーラ正教会が開発中とされているゴーレムでは」

「ゴーレムが領土侵犯してるなら、国防問題だが。あの国との境にはレシン山脈がある、まず、無理だろうな。それに理由がない。こっちは大陸有数の騎士団がついているんぞ」


領主の臣下が言う。


レシン山脈はラーラ正教会フラシア教国とペルラシオ王国の国境沿いにある3000m級の山脈で活火山がいくつも連なっているため、超えるのは容易ではない。


「だとしたら新手の魔物でしょうか...」


リークリアの可能性も考えたが、リークリア帝国はここからは遠く離れており、国境にも面していない。その可能性は薄いだろう。


「まあ、確かめてみないことには何とも言えないな。と、いうわけで君に隊を率いて調査に向かってほしいのだ」


騎士隊長は最初から領主がそのつもりで自分を呼んだことを察した。


「分かりました。直ぐに準備します」



☆☆☆



調査に向かう騎士隊は騎士20人に竜騎士10人、村人を徴収した軽歩兵40人の編成だった。案内の村人も付き添っている。全員竜車に乗って向かっていた。


「あちらです」


峠をいくつも超えて、旅路は3日(地球時間)あまりかかった。やっと荒れ地の端の方に到着した。


「あれは...!?」


思わず息を呑んだ。今まで荒れ地だったところに長い灰色の道のような構造物ができたいた。何か砂利状のものを敷き詰めているようだ。


「なんでしょうか?」

「一体何なんだ...」


その時、上空から何かが物凄い速さで迫ってきた。凄まじい風が吹き、一同がなぎ倒される。


「て、敵襲か!?」

「総員警戒!」


兵の一人がその道に迫る何かを見つけた。


「見ろ、あれを!」


飛竜ワイバーンさえも及ばない速さでそれは一同の頭上を通過し、道らしきものに接地した。後方に傘のようなものを開き、頭が痛くなるほどの音を出しながら道に沿って遠くに走っていた。


「まさか、飛行魔動機を持っているのか...!?」


考えを改めなければいけないようだ。これは断じて魔物の仕業ではない。そもそも魔物があのような構造物を作れるわけがない。そして、あの飛行魔動機。それを保持し使役している何かしらの存在があるはずだ。


もしかしたら、西方の機械文明国か...!?。だとしたら一大事だ。急いで領主様、いや、国王陛下に報告しなければ。


「ネーセル隊長、どうします?」


副隊長が震えながら聞いてくる。


「伝令兵をよこせ、一刻も早く、国王に伝えなければ」


皆、想定外のことに動揺していた。それほどまでに飛行魔動機は異質だった。

紙とペンを探しに荷竜車の荷台を漁っていたときだった。前方から悲鳴が聞こえた。


「どうした!?」

「隊長、巨人が!」


最初は噂のゴーレムかと思った。だが一目見て違うと分かった。そう、前衛の兵達の前に佇んでいたのは鋼鉄の巨人だった。全身が甲冑のように何かの金属に覆われていて、その巨体は3mに届きそうな高さだった。それが10体あまり、前方を塞いでいた。


そして、遅まきながらも隊の後方からもその巨人が現れたことに気づく。更に鋼の巨人達の後ろには人ほどの大きさの鉄人も何十と見えた。いずれも顔に当たる部分には歪な円筒や水晶が複数あり、腕には異様な何かがついている。剣は持っていなかった。


「な、何者だ、貴様らは!」


副隊長が剣を構え、先頭にいた巨人から数メートルのところに近いた。巨人と鉄人達は全く動くそぶりも見せず、まるで石像のように止まったままだ。


と、一人の騎士が剣を抜くと、巨人に向かって走りだした。まだ隊に入ったばかりの貴族だ。いつも他の騎士や兵士を見下して罵っていたが、彼の剣術の才能は確かなもので、有力貴族の子息とあって、だれも止められずにいた。


そんな傲慢なやつだが、頭に血が上ったのか勝手に戦端を開こうとしていた。


「ふっ、たかが重歩兵だ!。そんな重い鎧を着ていたらまともに動けるわけないだろ!初任務にはちょうどいい獲物だ!」


「やめろ!まだ何も命令してないぞ!」


そんな静止も届かず、彼は巨人に切りかかった。うまく、関節部分に剣を振り下ろした。


「死ねぇ!ぼふぉぇぇ」


ウィーンという音が鳴った気がした。気が付いた時には剣士が宙を舞っていた。何が起こったのかすらその時は理解できなかった。剣士はそのまま、地面に叩きつけられる。


そこには腕をあげる巨人と、わき腹を抑えて悶絶しながら地面に倒れている剣士があった。剣は巨人の手の平の中で完全にへし折られて曲がっていた。よほどわき腹を強く殴られたのか、さんざん悶絶して絶叫した後、剣士は泡を吹いて気絶した。


「...!」


皆、唖然として固まっていた、


「何をしている!こいつは命令違反だ!捕らえておけ!」

「...了解!」


兵が騎士を回収している間も巨人達は特に何もしなかった。先ほど、剣士を殴った巨人に近づく。


「ネーセル隊長、危ないですよ!」


そんな副隊長の声は無視して私は巨人に話しかけた。


「先ほどは部下が勝手な真似をして、大変申し訳ない。私はペルラシオ王国辺境伯直属騎士隊、隊長のエレオノーラ・ネーセルだ。隊長として、心より謝罪する。決して我が国の意思ではないことをここに示す」


礼をするが、巨人達は何も反応しない。


「...しかし、我が国の領土に不法に居ることは容認できない。あの、道のようなものを作ったのはあなた達か?そうならばそれは国家の主権を侵すことだ。直ちに退去を願おう」


巨人たちはしばし、微動だにしなかった。そして1分あまりしたころ、巨人の後ろの鉄人の一体が前に出てきた。


「領土を侵犯するようなことをしてしまったことは大変申し訳ない。ですが、我々にはあれが必要です」


驚いた。鉄人が話したからではない。その鉄人は無機質な見た目に反して高い声、そう、若い女性の声で言ったのだ。


甲冑の中は女性なのだろうか...?。


「そうか...それは残念だ。これは本国に報告するが、王国の主権を侵す以上、然るべき対応をとらざる終えないだろう」


内心、私はヒヤヒヤしていた。巨人や鉄人達は見るからに常人ではない反射能力と力を持っているし、飛行魔動機もを使っているのなら相当な軍事力を保有しているかもしれない。


だが、彼らは我々に武力を行使しなかった。奇襲して全滅させるなどの戦法を取ることだってできたはずだ。それなのにこちらの話に応じているということは少なくとも今敵対する意思はないのだろう。


「....我々は貴国と戦争をするつもりはない。土地を提供してくれるのなら資源や技術を提供できる用意があります」


取引というわけか...。確かに巨人の鎧は高度な技術なのだろう。飛行魔動機も魅力的だ。


「今の私にはそれを決定できる権限はない。本国に指示を仰がなければならないが、可能な限り衝突は避けたいと思っている」


「感謝します。いい返事を期待します」


「ところで、あなた達は何者なのだ?」


ずっと思っていた疑問を口にした。

鉄人の返答には少し間があった。


「...我々は天人の使い。空の遥か彼方から来た者です」


凄まじい音と共に上空にいくつもの飛行魔動機が現れた。唖然とする私達などまるで見えていないかのようにそれらは々と頭上を爆速で通過し、西の空に消えていった。

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