第7話 拠点建設を開始

『降下カプセル大気圏への突入を開始』


スクリーンにはエアロシェルに付いているであろうカメラからの映像が映し出されていた。降下してるのは拠点建設用の機械を載せた大気圏突入コンテナだ。


『パラシュート展開を確認、地表まで500m』


『地表まで200m、パラシュート切り離し。制動噴射開始』


そしてコンテナは逆噴射をしながら無事に着陸した。辺り一面、草一本生えてない乾燥した地面が続いている。


「クイン、ここってどっかの国の領土だったりするの?」

『はい、船長。付近に小規模な村落は確認できましたが、国家に所属しているかどうかまでは分かりません』


コンテナが着陸したのは前のローバーが着陸した大陸の南端の半島だ。このあたりは広大な平野だが、火山灰が降り積もった地質らしく、水はけが悪いのか耕作には向かないため人は住み着いていなかった。滑走路の建設地には最適だ。


コンテナのハッチが開き、AMSが出てくる。その数、20。


「うわ、こんなの現地民が見たらヤバい奴らだと勘違いされそう...、むしろ魔物かな?」


全高2.5m、全身を複合装甲に覆われたAMSは頭部の観測機器群であたりを精査サーチしつつコンテナの周囲に展開する。もともと歩兵の支援兵器として開発されたAMSは単機で通常歩兵10人分の戦闘力を持っている。


両腕には12.7㎜機銃コイルガンが2基づつ装備されており、更に追加で擲弾発射器や火炎放射器、ガンポッドを装着可能だ。また頭部には観測機器と共に目潰しレーザーが装備されている。量子コンピュータ搭載のAIが備わっておりある程度自律行動できる他、他の戦闘機械に指示を出すこともできる。


この惑星の生物にどこまで通用するかは定かではないが、現代の並の兵士でも勝てないのだ、中世レベルなら人間の兵士は取るに足りないだろう。


AMSの間を縫うように展開するの人と同じぐらいの高さの人形機械は多目的機械兵Multipurpose mechanical soldierだ。MMSは人間の兵士を代替することを目的に開発されたもので装甲も武装もAMSほど強力ではないが、指がある1対の腕の他に多数のアームを保持しており、戦場での汎用性に長けている。


また、収納のため折りたたんで箱状になることもできる。

武装は5.56㎜機銃コイルガン4丁、擲弾筒1基程度だ。今回展開しているのは60機ほど。


それらの機械兵達は10個の分隊に分かれて全方位に散らばり、探索を開始した。コンテナからは作業機械や採掘機が続々と出てきて滑走路の建設のために測量や資材回収を行っている。射出されたドローンや無人機も上空から探査を行っていた。


「アスファルトとかないけどどうするの?」

『採掘機で掘った砂利で簡単なセメントを生成して舗装します。軌道往復シャトルは不整地でもある程度平らなら着陸可能ですので』


作業機械達はテキパキとアームやホースを動かし滑走路を建設していった。資材を載せた追加のコンテナも付近に着陸していく。


「あ。おはよう、コフィ」

『おはようございます、コフィ様』


リビングから廊下につながるドアが開いて、パジャマ姿のコフィが目をこすりながらよたよたと歩いてきた。


「ふぁあ」


あくびしてるのかわいい。


「ん、...おはよう」


もう1週間になるが、コフィには居住区の船員用個室の空いているのを使ってもらっていた。最近は自室にこもる事が多く、たまに爆発音が聞こえる。

曰く、実験をしているとのこと...。ちょっとそれについては意味不明だが、なんか詮索しても悪いので、考えることをやめている。


「...」


コフィが私の顔を覗き込んでいる。


「どうしたの?」

「そういば、名前、聞いてない」

「あー」


コフィなら上司だから見れるかと思ったけど、そういえば社員証に、名前書いてなかったなぁ。


1週間近くもいて名前を知らないことに気づかなかったコフィもどうかと思うが、クインはいつも「船長キャプテン」呼びだし知らなかったのも納得できる。何より私自身、名前を教えなかったのが悪い。


「名前ねぇ...」

「無いの?」


銀河系には風習で名前をつけ無い地域もあるらしい。


「うーん、あるにはあるんだけど...」

「?」


名前、確かに私に名前はある。だが、それがかと聞かれるとうなずくことのできない自分がいた。


「昔、大きな事故に巻き込まれたことがあって、記憶が欠落してるんだよね。それで名前もなんかしっくりこなくて...親はし...」

「その、ごめん...」


コフィは申し訳無さそうに項垂れる。


「別に嫌な思い出ってわけじゃないから大丈夫だよ。ただ、記憶を失う前の自分と今の自分はじゃないと思うんだよね。ただそれだけ...」

「そう...」

「ああ、話が逸れちゃったね。私の呼び方だよね?」

「うん...」


一つだけ、自分が自分のものだと思っている呼び方があった。


「リセでいいよ。昔、孤児院の恩人がそう、呼んでくれていたから...」

「リセ?」

「うん。改めて、これからよろしくね、コフィ」


☆☆☆


滑走路は2日(地球基準)あまりで完成した。幅は70m、全長は3000m程だ。近くには格納庫と生産施設も兼ねた拠点が隣接している(建設中)。軌道往復シャトルスペース・プレーンがさっそく小惑星から採掘した鉄などの資源を拠点に運び込んでいる。音が大きいので現地民にばれないといいが...。


第4惑星の衛星に派遣した採掘機群は既に数万トンの資源(鉄、ニッケルなどなど)を採掘していた。プリンターで採掘機の増産も行っているのでネズミ算式にその数と資源の生産量は増えるはずである。私は別に資源なんていらないのだが、クインはドーナツ惑星の調査のために必要と言って譲らなかった。


ただ、ドーナツ惑星に拠点が出来たおかげで有機化合物の生産に成功し、食糧問題は解決された。アルミニウムも小惑星から酸化アルミニウムを抽出するよりもボーキサイトを製錬して生産した方がコストが低いため、軌道往復シャトルを増産次第採掘を開始する予定だ。そのうちは沿岸にも拠点をつくって水の回収をしたいところである。宇宙船の燃料の重水素を確保しておきたいのだ。


で、今、私はそれらの報告を聞きながら今後の方針を考えていた。


『...というわけで、基本方針はこの惑星の探査及び銀河系への帰還方法の模索でよろしいのですね』


基本方針はAIの行動上、欠かせないものだ。


「まあ、念のためこの星系の調査もしてほしいな。何かワープ失敗の手がかりがつかめるかもしれないし。方針自体はそれでいいよ」

『分かりました。ローディー・デイス号所属、制御AIクイン、そして麾下のAIの活動方針を決定いたし....少し待ってください....』


と、そこでクインが話を止めた。


高高度偵察機リコネサンスプレーンより報告....、現地民の集団が拠点に接近しています』

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