第6話 現地民を観察


「ローバーに自爆機能なんてあったんだ」

『一応、敵性文明が存在することも考え相手に情報を渡さない為に、自爆機能のある軍用ローバーを刷りましたから』


今は私一人で近況報告を聞いていた。現地の言語は既に解析されており、翻訳された動画を見ていた。


「クイン、この惑星の社会について何か分かったことは?」


『6つの降下ユニットが着陸したのは、赤道上の1つの大陸ですが、少なくともそこにおいて王政や帝政の国家が存在するということと、地球の中世末期と大して変わりない文明レベルということが分かっています。また、どうやら魔法というものを使うようです』


「急にファンタジーきた!」


なんかSF無双系小説は魔法ファンタジー要素が必須らしい。知らんけど。


『ローバーやドローンも杖や手から火球や水などを生み出す人間を目撃しています。明らかに従来の物理法則を逸している現象です』


「じゃあ、私たち、やっぱ異世界に移転しちゃったんじゃない!?魔法とかそれしかあり得ないでしょう!」


『船長、落ち着いてください。今のところここが異世界だと確定できる証拠は見つかっておりません。並行世界かもしれませんし、宇宙の彼方では未知の元素や物質が存在していて魔法が使えるのかもしれませんし、既存の物理学とは違った形態の化学を元にしているのかもしれません。いずれにせよ調査を進める必要があります』


「そうだね、うん。魔法使いたい!やったー!魔法だ!」


クインは船長の初等学校での卒業アルバムの将来の夢が魔法少女だったことを思い出した。


『あー、もしもし、船長。大丈夫ですかー?』


そう言ってクインはホログラムを投影する。仮想現実VR上のクインのアバターだ。長い銀髪の少女の姿だ。


「その姿見るの久しぶりだね。でもちょっと場違いじゃない?」

『船長を現実に引き戻すためにはこれが最適と判断されましたので』


クインのそうゆうところボケじゃないのが本当に不安になる。


「ごめん、ごめん。でも魔法、使えたらいいなあ」

『そのためにも調査が必要なのです』

「調査って基地つくるんだっけ?」


クインのアバターは頷く。


『そうです。自立重機と採掘機を地表に降下させ、滑走路を建設、軌道往復シャトルスペースプレーンの往来をできるようにします。それには、分析のための研究施設や防衛用の戦闘機械なども必要です』

「そうそう、戦闘機械系も刷らないと。基地建設の開始はいつぐらいになりそう?」

『自立重機と採掘機の完成次第開始できますので3日後です』


今、ローディー・デイス号の貨物室では大小のプリンター達が重機や採掘機、衛星や探査機などを常時刷っていた。資材は鉄やニッケルは第4惑星の衛星で採掘したものを精錬して確保している。自立採掘機は自航機能と精錬機能も備えているのだ。


端末をいじってプリンターのメニュー画面を開く。単に戦闘機械といっても数百万種類あり、どれが何なのかは無知な私にはよくわからない。


「クインは、おすすめの戦闘機械とかある?これとかは?」


そういって私は2722型装甲機械兵armored mechanical soldierと書いてあるレシピを指した。人形の戦闘機械のようだ。どっかで見たことがある気がして、なんとなくそれを選んだ。


装甲A機械MSですか...懐かしいですね。これは、遺伝戦争で地上戦に使われたものです。ええ、いいんじゃないでしょうか。重力子コンピュータGCも使われていないものですし』


重力子コンピュータとは現代に広く流通しているコンピュータで、質量と大きさが0の重力子グラビトンを無限に重ねることで4次元空間を再現し、付属装置が発した重力波がその4次元空間に落ち込むことで永久的な回路が維持されるとされている。


クインの母体のコンピュータもGCだ。


重力子の生産は銀河共同体か管理しており、今のところプリンターで重力子関連の装置を生成することはできなかった。重力子が生産できるならそもそも機関を修復できるので銀河系に帰れるのである。


GCが搭載できないのは新規に生成したプリンターも同じである。今積んでいる建設用プリンターや造船用プリンターにはGCが積んでおり、原子単位で物体を生成することができるのだが、GCが作れない以上、プリンターで生成される新しいプリンターは量子コンピューター搭載のナノ単位でしか生成できないものだ。それでもほぼ製品に違いは無いのだが。


余談だが、3Ⅾプリンターは本来、3Ⅾプリンターを生成することはできない。それができたら元も子もないからだ。そのためプリンター自体のレシピは存在しないし、3Ⅾプリンターはそれを販売している会社の大型マザーマシンが生成している。


ただ、コフィのマスターキーはその辺を会長権限で全部取っ払えるのである。

(もちろんスターライナーホールディングス製のものに限るが。ちなめにスターライナーホールディングスは銀河系のプリンター業界のシェアの99%を占めている)


さすがにプリンターのデータベースに兵器やプリンターのレシピをログに混ぜて入れてるのはおかしいと思うが、コフィ曰く、コフィの曽祖父がそのプログラムを書いたのではないかということだ。どんな状況でもプリンターで生成できるようにしたかったのだろう。わけわからん...。


「じゃあ生産」


モニター下のプリンターの稼働状況の枠で、何機かがAMSの生産を開始したことをアイコンで表示した。



☆☆☆


解説 ~ 重力子


30世紀初めの遺伝戦争は自らの人体を改造、あるいは子供を遺伝子改変させた人あらざる者ゲノム・ストレンジャーズ達と純粋な人類との戦いでした。彼らはある機関の人体実験で生み出された人の原型をとどめない怪物で、人あらざる者ゲノム・ストレンジャーズは人間の数10倍の知能を持っており、様々な戦術、戦略を展開する彼らに人類は苦戦をしいられました。また、彼らが開発した重力加速航法や重力子砲は人類の技術レベルの数百年先を行っており、一方敵に人類は排除されかけていました


ですが、一部の人あらざる者ゲノム・ストレンジャーズが人類側に付いたことで形勢は逆転しました。如何に人からかけ離れていても、それはヒトであったのです。

戦争に勝利した人類は人あらざる者ゲノム・ストレンジャーズの技術形態を吸収し一気に文明を飛躍的に発展させました。そして、重力子に関する一連の新技術もまた、人あらざる者ゲノム・ストレンジャーズが開発したものでした。


重力子は重さも大きさも存在しない重力を媒介する素粒子で、それを利用した重力子コンピューターや重力加速装置は革命的でした。既存の物理法則はここに音を立てて瓦解しました。


重力加速航法とはあくまでも点と点を結ぶものであり、起点と終点のダークマター分布を記した座標が必要だったものの光速を突破できる点は驚異的でした。


そして、それより数百年、遂に人類は銀河系を平定したのでした。


ーーー


銀河共同体中等学校2年歴史教科書抜粋

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