第4話 ドーナツを考察する



『船長、第3惑星の観測が完了しましたので観測結果を報告します』


リビングにてクインが定期報告会を開催した。リビングで何かをすることが多いが、制御室ブリッジはワープ時ぐらいにしか使わないのだ。


『この惑星ですが質量、体積は地球の6倍、表面積は5倍です。ドーナツ状のため、リングの外側を外周、内側を内周と仮称します。


外周赤道は12万km、地球の赤道のおよそ3倍、内周赤道は3万km、地球の赤道の0.77倍ほどです。またドーナツの直径は3万8千kmほどです。


リング部分の断面は完璧な円状ではなく、横幅と縦幅が4対3ほどの内側に伸びた卵形になっています。南北が8千km、幅が1万1千kmです』


クインはドーナツ惑星と地球の3Dホログラムを投影する。


「大きいねぇ」

「ドーナツというよりフープ?」


コフィが指摘する。


『コフィ様がそうおっしゃるならこれからはフープ惑星と呼称しますが?』

「いや別にややこしくなるからドーナツ惑星でいいと思うけど」

『そうですか、まあ、いいでしょう』


おい、クイン!私の扱いが雑になってないか?

ホログラムは赤と青の図に変わった。


『赤いほど重力が強く、青いほど重力が弱いことを表してます。黄色あたりが1Gです。

重力は最高で1.1G、最低で0.75Gです。南極と北極(フープの上の部分の周)が最も重力が強く、遠心力が働いている外周赤道が最も重力が弱いです。内周赤道は0.8Gほどです。

重力の強弱によって気圧が場所によって異なり、温度の差や自転速度と相まって強力なジェット気流が発生しています』


気候やばそう...。


「ていうかどうやったらこんな形の惑星が成り立つの?」

『はい船長、この星は自転周期が4時間であり、その遠心力によってドーナツの形を維持できています。これ以上自転速度が遅いと外縁から分裂するはずです。どのようにしてこの星が環状体になったかについては現時点では何とも言えません』


「へえ」よくわからん。

「なるほど」コフィは分かるみたい。


ホログラムは元の立体像に戻る。


『観測できる限りではリング状の核の存在も確認でき、磁場も存在します。大気構成は地球の大気よりも僅かに二酸化炭素の割合が高いです。


二酸化炭素が多いのは表面積に比して体積が大きいため火山活動などの地殻変動が単一面積当たりだと地球に比べて多いからだと考えられます。また星が形成されたときの遠心力によってできた熱が内部に残っておりそれによって誘発された可能性も考えられます。


水から構成される海洋が存在しており、海洋と陸地の比は8対2です。これも面積当たりの体積が大きいため地球よりも海の割合が高くなったと思われます。』


今のところ聞く限りでは、ドーナツ状であること以外は銀河系で人類が植民している大半の惑星に近しいものだ。


重力や自転周期も銀河系には10Gもあるケカヴェ星や1日10分のウェサェ星などがあって、それらには何十万もの人々が暮らしているので、特に珍しいものではない。それらの星に住んでいる人は皆肺活量が常人の数倍で筋肉も密度が高い上にムキムキだったり、数分おきに寝たり起きたりしているという。

人間はどんな環境にも適応できるのだ。


「じゃあドーナツ型ってこと以外は特記することはないの?」

『いえ、船長。ドーナツ惑星は科学的に成り立つこと保証されており、現にここに存在します。ですがこの惑星にはがあります』

「どゆこと?」

『この画像を見てください』


スクリーンに表示されたのは衛星写真だ。海沿いの平野に無数の構造物が網目状に伸びている。


「「街?」」

『はい。これらはこのドーナツ惑星の赤道上の大陸にあったものです。何かしらの存在が構築したものです』

「じゃあ先住民の文明があるってこと?」

「宇宙人?」


別に地球外生命体自体は珍しくはない。銀河系のあちこちで惑星固有の生物はよく見られる。


『はい、文明があることはあってます。ですが問題は、そのなのです。先程、ローバーが例の構造物を探査したのでその画像を表示します』


スクリーンにはが映し出された。が行き交って、馬車みたいなのが道を走ってる。


「人だね...」

よね...」


『はい、船長、ドーナツ惑星に生息しているこの2足歩行の生物は外見的特徴の99.99%が人類に一致しました』


☆☆☆


ローバーとの通信は途絶してしまった。通信途絶前に先住民に群がられていたようなので、おそらくアンテナがやられてしまったのだろう。


「いやー、なんで人間が居るの!?」

「中世って感じ」


映像で写っていた町並みや人々の服装は中世ヨーロッパそのものだった。


『理由については何通りか考えられます。


一、現地生物が人間に近しいものに進化した(遺伝子や内部組織はわからないので、もしかしたら外見だけ人間に近いだけなのかもしれない)


二、人類が実は20億光年を航行できる装置を開発しており、播種をしていた


三、我々と同じように原因不明のワープに巻き込まれた船の乗組員や子孫が文明を築いた。


などがありますが』


「でも、いずれにしても矛盾は残るよ。一だったらダーウィンの進化論が瓦解するし...」コフィがまた難しいことを言う。


「ナニソレ、オイシイノ?」


『船長、ダーウィンの進化論とは、生物の種が自然選択によって進化するという理論です。チャールズ・ダーウィンは、異なる環境に適応するために、最も適応能力のある個体が生存し、繁殖することで次世代にその特性が受け継がれるという生物の特性を定義づけました。この理論は1859年に発表されましたが、現代にいたるまで数千年間、不変のままです。銀河系の各惑星系の生物の進化もこれを裏付けるものです。


なので遠く離れた星で別々に生まれた生命が同じ人間の形に収斂しゅうれんするのは有り得ないということです』


「へえ」よくわからん。


『この惑星についてはまだ分からないことが殆どです。追加の探査機の派遣をしてはどうでしょうか?』

「まあ、そうするしかないよね、なにも分かんないし」


と、いうわけで、探査機を追加で派遣することになった。ローディー・デイス号は先の衛星の調査で重力場の確認がされ軌道計算ができたのでドーナツ惑星の赤道軌道上に移動した。


恒久的に探査をするためには地表に基地を作るのが一番なので、そのうちつくる予定である。また、クインが自立採掘機20機を第4惑星の衛星の鉄小惑星に派遣してもいいかと聞いてきたので、資源が増えることに問題はないからOKした。最近、クインがやたらと自立的になってきていると感じるのは私の気のせいであろうか。



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