第3話 上司だったの!?

「ええ!?えええええ!?」


だから言ったのにね、クインはそう思いながらも説明を続ける。


『天体物理学的にドーナツ型の惑星が存在することは可能ですが、実際に自然に存在するのを発見したのは人類史上、これが初めてです。地質的、物理的詳細は現状の観測装置のみでは把握することが難しいので探査機の派遣をしたほうがいいかと...』



☆☆☆


まだ驚きの余韻が残っていいる。こうも立て続けにヤバいことが起きると、心臓に悪いな。


「探査機なんか無いけど」


プリンターで刷れるかと思って購入可能レシピ一覧を見ようとしたのだけどネットワークに接続していませんというエラーがでてきてできなかった。


「クイン、レシピ無いしネットも繋がらないしプリンターで刷るの無理だよ」

『はい、船長。本船は銀河系広域ネットワークの範囲外に居るため、レシピを購入することはできません』


プリンターでは基本的に何かを生成したい場合、その生成物の3D マッピングデータレシピが必要であり、それらのデータはネット上で販売されていた。


「じゃあ何もできないじゃん!」


そしたらさっきまで紅茶を飲んでいたドーナツ少女が呆れたように立ち上がって、スクリーンに何かをかざした。そうすると、さっきまでエラー画面だったスクリーンにレシピの一覧が表示された。それはいつものメニューとは少し違った。


「え?何?どういうこと!?」

「...マスターキー」


そう、彼女は確かに『マスターキー』と言ったのだ。


「いや、マスター・キーって何?」

「....」

「ねえ。ちょっと本当に理由わけわかんないから説明してよ」

「...」


クインはそのやり取りを見て痺れをきらした。


『船長、コフィ様がおっしゃるマスターキーとはスターSライナーRホールディングスH傘下の企業の全ての製品及び所有物にアクセスできるアクセスレベルが最高のキーです』


「何でそれをこの子が持ってるの?てかさっきのネットが繋がったことに関係あるの?」


『コフィ様はSRHの会長なので持っているのは当たり前です。また、船長、メニューが表示されたのはネットが繋がったからではありません。元からプリンターのコンピュータデータの中にはSRHの製品のプリンターデータが記録されており、マスターキーが提示されたためそれにアクセスが可能になっただけです』


「むむむむむ!、今、この子のこと、会長って言わなかった?」


『はい、船長。カエラ・コフィ様はスター・ライナー・ホールディングス第13代会長です』


「えええええ!?」


なんでそれ最初に言ってくれなかったのぉ!!!!!!


☆☆☆


「ハアハア、ごめん、つい取り乱してしまったわ。それで...あなたは私の努めてる会社の親企業の会長とういうことなのね?」


コクリ、ドーナツ少女は頷く。


『コフィ様は最年少で会長になられた方で、界隈では天才少女とも呼ばれております』


ヤバえ人じゃん。


「つまり私の上司ってこと?」

『はい船長。船長が会長になるためにはあと173回、昇進しなければなりません』


運送会社の船長とは21世紀のトラック運送会社の運転手と同レベル、平社員なのだ。え、やばくない、さっき年下の子に接する態度だったし、もしも、気に食わなかったら....。


「ねえ、クイン、会長って私のことクビにできるの?」


ヒソヒソ声でクインの端末に話しかける。


『はい、コフィ様は船長よりも高いアクセスレベルのため、上司として退職命令を出すこともできます』


じゃあ、アクセスレベルが高いってことは船の指揮権も会長にあるんでしょ。てことは、ドーナツ少女がクインに命令するだけで、私を宇宙に放り出すこともできるってこと!?。


本当にマズい。ならやることは一つだけだ。


「先程は会長に失礼な態度を取ってしまい申し訳ございませんでしたあ!!」


土下座した。


ドーナツ少女は何かと首をかしげ、思い出したように椅子を立った。


「別に気にしてないから、大丈夫」

「ほ、本当ですか!ありがとうございます、会長!」


ドーナツ少女は頷いた。そしてそっぽを向いて言った。


「敬語しなくていいし。会長もだめ」


ええ!?。敬語以外にどんな話し方があるんですか、会長さん!!。無礼のない話かたって一体どうすれば...。


「だ、代表取締役様?」

「違う」

「し、CEO?」

「む」

「頭取?」

「...」

「総裁?」

「...はぁ」


え、ため息つかれちゃったんだけど!?


「コフィでいいよ」

「コフィ様?」

「コフィ!」

「...こ、コフィ?」

「うん」


ドーナツ少女あらためコフィはそれでよし、と言うかのように頷いた。ひとまず危機は去ったようだ。


気を取り直して、スクリーンのメニュー表を確認する。本当にSRH傘下の軍事会社の衛星や戦艦からティッシュやトイレットペーパーまで様々なものがリストに載ってた。ただ宇宙戦艦は下に記されていた必要資材の桁がヤバかった。


『衛星』と検索をかけただけでも10万件近いレシピがヒットした。古いものは24世紀の気象衛星、新しいものは最新の偵察観測ドローンまで、よりどりみどりだ。そこら辺に無知な私は頭を抱えた。


そしたらコフィがパパっとスクリーンを操作した。


「これで、今ある資材で制作できる範囲に絞ったから」

「私、こういうの苦手だから、ありがとうね」

「別に、これぐらい会長として当然だから」


ドーナツ少女は見た目に反して大人でした。そりゃ会長やってるんだから天才なんだろうけど...。


「できる会長は下っ端の業務ぐらい簡単にできてあたりまえ」


なんか自分のこと褒めてるのかな?私、下っ扱端いされてる...そうだけど。


クインの助言もあって一番簡素で最新のに決めた。積荷の建設用プリンターもSRHの製品らしく、それで出力した。材料は積荷としてあったプリンター用の資材だ。行き先の星系では植民船に搭載されていた採掘機が太陽風で全損し、資材の確保ができなかったため追加の採掘機に加えて資材を注文したらしい。まあ、鉄やニッケル自体、銀河系では石ころ同然なので何十万トンと簡単に確保できたのだろう。


こちらにとっては運が良かったとしか言いようがない。プリンターや資材が無かったら何もできなかっただろう。


というわけで、探査機を6機ほど刷った。4m四方の立方体の衛星だ。衛星は降下用ユニットをそれぞれ1機づつ搭載している。ローバーとか小型ドローンが付属したやつだ。21世紀の人のためにいうと、ホイヘンス・プローブとキュリオシティをイメージしてくれると分かりやすいだろう。


『衛星は汎用宇宙舟艇で第3惑星の軌道に投入します』


もともと汎用宇宙舟艇は救命艇兼整備艇の役割を担っており、宇宙船間の移動などにも使われるものだ。クインの制御で汎用宇宙舟艇はローディー・デイス号を離れ、ドーナツ惑星へと向かっていった。


ドーナツ惑星の周回軌道は赤道上が一番安定しているらしく、ほかの軌道だと高度を維持するためにとてつもなく燃料を使うらしい。また、引力に引っ張られて惑星に墜落してしまうんだとか。だから赤道上に衛星は投入される。ただそれだと観測できる範囲が限られるため、クインは早急に今回の衛星で観測された重力データを元にドーナツの穴の部分を通る軌道の衛星も投入したいらしい。

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