第2話 ドーナツの星

「聞きたいことはいろいろあるんだけど....、あなた名前は?」

「....カエラ・コフィ」


ドーナツ少女を引っ張てリビングに連れてきた。まだ、チョコドーナツを両手に持ったままだ。2つコップを持ってきて紅茶を淹れてテーブルに置く。アールグレイだ。お皿も置いておく。


「ほら、そこ、座って」


見た感じ14、5歳辺りといったところか、私は17歳だし少し強めに出てもいいかな?。


「で、なんで私の船に乗ってたの?」

「...モグモグ」


こ、こいつ、無視してドーナツを食べてるんだが....。てか、ドーナツ食べながらこっちを上目遣いで見るな!。


「いや、一応私、被害者だからね!」

『船長、観測装置の修復が完了致しました。星系の観測結果を報告します』


このAIもちょっとは何か反応しろや!。そもそも、船内に一人不審者入れて気づいていない時点でおかしいだろ!。


会長コフィ様もご一緒にどうぞ』

「ん」


むむむむむ?今、会長って言ってなかった?


『まずこの恒星系の主星ですが、質量は太陽の1.2倍、スペクトル分類はG型の主系列星です。宇宙に最たる恒星で、特に変わった所は見受けられませんでした。


次に衛星です。観測できる限り、この恒星の周回軌道に、直径2000㎞以上の惑星が4つ確認できました。他にこの4つの軌道の更に外側に小惑星帯も確認されました』


長くなったのでクインの報告をまとめるとこうだ。


だいたい太陽よりも一回り大きい恒星の周りを4つの惑星が回っているのがこの星系で、恒星に近い順に、岩石惑星が2つ、クインがあとで説明するといったのが1つ、そして木星級のガス惑星が1つ。星系が構成されるときに外縁の水は氷となって、それらが集合したものが小惑星帯になったようだ。


つまり、よくわからん。


ローディー・デイス号は第3惑星と第4惑星の軌道の間に居るらしい。


「で、この恒星系は結局どこなの?」


ちょっと話の前にいろいろあったし、聞きたいことや問い詰めないといけないことはたくさんあるんだけど、まずはそう聞いた。


『船長、信じてもらえないかもしれませんが....、この恒星系は銀河共同体が記録している天の川銀河内の如何なる星系にも該当していません。そして...』


クインは壁のスクリーンに星空の画像を映し出す。下の記録から見るに、ついさっき観測装置で撮ったものらしい。少しづつそれは拡大していき、やがて一つの光点を画面いっぱいに映したところで止まった。


『...これが、天の川銀河、太陽系が存在する銀河系です。距離にしておよそ20億光年です』

「...」


それに反応したのは他でもないドーナツ少女だった。


「!?、冬季限定ミセスードーナツが食べれないじゃん...(絶望)」


ドーナツ好きなんですね...。いや、それよりも家族に会えないとか、もっと何か他のことに絶望すべきなのでは。宇宙の彼方に遭難しても何も感じていない私が言う言葉でもないが。


「はぁ。ねえクイン、どうすれば銀河系に帰れるの?」


特にあてもなく呟いた。


『はい船長、銀河系に帰還する為には重量加速装置を含む本船の主機関を修復する必要がありますが、機関に使われている重力子は生産自体を銀河共同体が管理していますので生産方法は不明であり、付近に宇宙港や補給ステーションが無い以上、先程のワープで損耗した分の重力子を補う方法は存在しません。

つまりワープ以外の航法、通常航行で数百億年かけて星々の海を渡るしかありません』


非常用の冷凍睡眠装置は搭載してあるが、何百億年も航行するのは流石に電力も船体もエンジンも持たないだろう。クインが言っているのは帰る方法は無いということなのだ。


「それは、それは...」

「ミセドの冬季限定ドーナツが...」

無視。


「まあ、特に思い残すこともないし、この宇宙の彼方で仕事に縛られない第2の人生を始めてもいいのかな...?」

「もう食べれないの..?」

やめろ。


『船長、積み荷についてはどうしますか?』

「うーん、目的地に荷物を届けることはできないし。クイン、遭難した場合って荷物は船主の所有でいいの?」


一秒もしないうちにクインが船内のコンピューター内で銀河共同体司法法廷を開設、積み荷は所有者不在の緊急事態の為、それを運搬していたローディー・デイス号に所有権があると認められた。


『はい船長、それであってます。ですが...』

「そういえば、クイン。第2惑星の説明ってまだだったけど」


話を遮られたことにクインはほんの僅かに苛立ちを覚えたものの、その感情はすぐにデータの合間に埋もれた。


『はい、今から説明します。驚かないでくださいね』

「私の船にドーナツ食べてる不法侵入者が居たということと、銀河の彼方に飛ばされたっていう人生でこれ以上驚くことはないとういうぐらいヤバいことが30分もしないうちに起きてるからさ、これ以上驚くことなんてあるわけ無いじゃん」


クインはいろいろ思うところはあったが受け流した。フラグを立てないでほしい。


『第3惑星は質量が地球の6倍ほどの岩石惑星なのですが、その形状が特異的で宇宙に形なのです』


ドーナツ少女もドーナツを食べながらクインの話に耳を傾けている。


『惑星の直径はおよそ4万㎞、地球の大気構成に近い大気層が存在しており、水と思われる液体の海も存在しています。また、反射率から考えて生物が存在する可能性が高いです、森らしきものが大陸に点在しています


問題は形状です。こちらをご覧ください』


「ドーナツ?」

ドーナツ少女が声をあげる。


スクリーンに映ったのはフープ状のもの、ドーナツだった。ただそのは少々、食べたらお腹を壊しそうな色をしており、青い生地に緑色や薄茶色のチョコが、その上に白いふわふわしたアイシングがたくさん筋状にかかっていた。


いや、正確にはそれはドーナツではなかった。その青い生地だと思ったのはは大海であり、緑や薄茶色のチョコみたいなのはそれぞれが大陸であり、ふわふわのアイシングの正体はまだら状にかかった雲だった。


なのだ。


「ええ!?」


ごめん、クイン。さっきの言葉、撤回するわ。これはマジで驚いた。


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