コスモ・オブ・ドーナツ
波斗
ポン・デ・リング
第1話 遭難とドーナツ
ケンタウリ・アルファ星は遺伝戦争後の
『
ローディー・デイス号の制御人格がケンタウリ・アルファ・ステーションの管制AIにワープ前の定期報告を行っていた。
「やあ、こちらケンタウリ第4管制塔、付近にて重力磁場嵐が発生している、気をつけろよ。ローディー、いい旅を」
『この船の元のAIはローディーという名前だったようだが今の制御AIは私、クインが担っている、覚えておいてくれ』
「そうか、分かった...ああ!、奇遇だな、提督さん」
『8番艦か!?』
「よく分かったな。昔の話だ。今はただの管制AIさ」
『こっちも今はただの制御AIだ』
「あんまり話すと管理システムにバレるからな、じゃあな」
『ああ』
光子通信の仮想空間上でそれらのやり取りが行われた後、クインは
『
『
『超伝導環状体、加速開始。重力加速度、正常。25秒』
『船体及び貨物に異常なし。10秒』
『9、8、7、6、5、4...』
その時、船外の観測装置が異常を捉えた。
『付近空間に異常を検知!。機関の重力加速度が想定を上回っています!』
『停止プログラムを作動.....て、停止できません!』
アルファ・ケンタウリ近傍の宇宙船一隻が星系の観測システムから消失した。消失異常を検知した観測AIはカンマ1秒の間に管制AIに確認し、恒星ジャンプの実行が通告されていたため通常のワープ航行として処理されサーバーのログに残った。
☆☆☆
長い夢を見てた気がする...内容は、よく思い出せない。
そして、周りの状況が脳に入ってくる。
なんかちょっと居眠りしてたら制御室のモニターが全部真っ赤に染まってめっちゃアラートが鳴ってるんだけど...。
「え、ちょっと、クイン?何が起きてるの!?」
『はい、船長。
よくわからんが何か大変なことが起きたことだけは分かった。
「つまり??」
『現在位置が割り出せませんが、一つ言えることはここは目的地のXX1193736恒星系ではないということです』
クインは外部の画像をスクリーンに表示する。そこに写っていた煌々と輝く恒星は目的地である白色矮星とは見ても似つかない姿で、オレンジ色に輝いていた。
「それって...」
『はい、船長、私達はどうやら遭難してしまったようです』
☆☆☆
主機関の重力加速装置は重力伝導体が完全に焼き切れていた。過度な負荷がかかったせいで機関内の重力子が形を維持できなくなったのだろう。もう、
「観測機器の修理を開始します」
クインは破損が激しかったことから修理ボットを船外に射出し、修理や部品の取り替えを行っていた。
外部観測装置は大半が許容範囲以上の光を浴びたのか焼ききれていた。重力加速装置は重力特異点を生み出すためあたりの光を一カ所に集めるのだ。普通なら外部装置が焼き切れることなんてないはずだ。つまり、
観測装置が使えない為、現在位置の特定が困難になっている。一応救難信号は発しているが、付近には普通ならどの恒星系にも配置されるビーコンや、船舶同士の通信すら確認できないという。
前方にある恒星はローディー・デイス号のライブラリのどの記録にも載っていなかった。はやく銀河共同体の救助船が来ると良いが...。
「クイン、積荷のリストを表示して」
『はい、船長』
リストが眼の前に表示される。
・地球限定!ミセスードーナツデラックス、3千個
・
・建設用プリンター、100台
・Amezonの委託荷物(4500箱)
・プリンター用希少素材、計1万トン
・鉄、ニッケル他、プリンター用素材、計30万トン
・造船用大型プリンター、4基
・自立採掘機、20機
これらは全て大気圏突入ケースに入っていた。確か目的地の星系は植民が始まったばかりらしい。この荷物も現地で必要としているものなのだろうから、届けられないのが申し訳ない。ドーナツは最近
他にも冷蔵庫の中身だったり、自立AIの類や、私の私物、非常食などローディー・デイス号の備品などももけっこうあるが、それは把握しているので問題ないだろう。特記するのは備品の汎用宇宙舟艇ぐらいだ。
ますは貨物室を確認してみようと思う。デバイスに積んである貨物の情報が載ってるが、実際にそれが積んであるのかは見るまでは分からない。使えるものがあるといいが。
ローディー・デイス号は制御室が一番先頭にあって、その後方に居住区、さらにその後ろに貨物区画、機関区画がある。全長は確か1300m程、質量は貨物を搭載しない状態で120万トン、星間航行船としては比較的小さめである。
今は乗っているのは私一人と制御人格のクインだけだ。居住区は30人分の個室とシャワーやトイレ、キッチン、リビング、ジムといったものが一通り揃っている。一人しか居ないのはいろいろ理由があるんだが、今はいいだろう。
居住区中央の廊下を抜けて、貨物区画の
とりあえず与圧服を着て、貨物区に入る。大っきなコンテナがたくさん並んでいて、段ボールが山のように高く、棚に積まれていた。ちっちゃいゴミ箱みたいな運搬機械達が整理のために動き回っている。
「...全部見て回るのは無理かな」
運搬機械は基本的に荷物を運ぶ機能しかなく、封を開けることはできないだろう。一人で全部開けてたら宇宙の歴史が終わってそうだ。
そう思うとやる気がめげていく。ドーナツでも食べようかな。3千個もあるんだから一個ぐらいバレないだろう。遭難したんだかから仕方がないな、うん。フードプリンターでもドーナツは生成できるけど、あれあんまり美味しくないんだよな。
ミセスードーナツのコンテナは奥の方に置いてあった。
「あれかあ。とりあえず食べてから今後について考えるか」
ん、なんか音聞こえるなぁ...。なんだろう?。コンテナの扉を開けた。
「へ?」
「モグモグ、モグモグ。....ふへっ!」
くりくりとしたまあるい瞳に、ドーナツを加えている可愛いらしいちっちゃな口、肩下まで垂れている綺麗なセミロングの黒髪、そして小さな体、コンテナの中にドーナツほおばってる少女がいた。
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