国土浄化大会

私は祠を壊すという貧乏くじをやらされた。


疑問だけであった。



祠を破壊し終えた途端に現れたのが現地の中年男とくだらない老翁だった。正面から抱きついてきた。だが、両手で男の首を抱えこみ、手前に引き寄せ、腹に膝蹴りを見舞った。


ー掴み掛かられた時は敵の首を捉えていれば、そのまま身体を回転させることで投げ技を打てる。


膝のバネと腰のひねりを利用し、文那は男を投げ飛ばした。起きあがろうとする男の顔面に対し、貫手を放った。指先は男の眼球を易々と漬し、深々と突き刺さった。


ーうずらの卵を八宝菜から穿り出すのとなんら変わらない。


うろたえた老翁の目の前に、文那は腰の刀を抜いた。老翁は恐怖にひきつったまなざしで文那を見かえした。方言でなにやら必死にわめき散らす。


文那は刀の尖端を老翁の腹に突き立てた。カラスの泣き声に似た絶叫を発した。

ーうるさい

目を剥き、舌を突きだし、全身を澱しく痙攣させる。紗奈は何度も刀を抜き刺しし、その内臓を砕いていった。木刀の試合の通りに刀を振り翳し、人間のどこに骨があって、どこが切りやすく、どこが切りにくく貫きにくいのかが、たちまちわかってきた。やがて老翁はボロ切れのように崩れ落ちた



初めて、それもふたり殺した。不思議な清々しさが広がった。じんわりとした喜びが広がった。


貴族だからという理由で、使うアテもない武芸を仕込まれた、特に理由もなく週末は山を歩かされた。平民のように毎朝走れと言われて舌打ちしながらもそれを日課にするしかなかった。今、柔術の使い方を、貫手の使い方を、剣術を、殺しにくる人間の屠り方を、この短時間で体得した。


男たちのざわめきが耳に入った。男が四人。いずれも若く、動きも迅速だった。ひとりは素手だが、あとのふたりは斧と棒をそれぞれ武器にしていた。


風のように


体を動かす楽しさを、初めて感じた


斧が振り下ろされてきたが、その柄をつかみ、最初の攻撃を防いだ。さらに至近距離の腹に抉るような蹴りをを浴びせ、手放された斧を奪いとった。丸腰状態のふたりの首と胴体を瞬時に切り飛ばす。その頭が弧を描いている最中には残るひとりが、剣道の面打ちのように襲いかかってきた。姿勢を低くするや、斧を水平に振り、その腹を深々と抉った。


最後のひとりはいまやおろおろとしながら後退りして木の根につまずき、地面に尻餅をついた。


男の顔面をに蹴りを力いっぱい叩きつける。鼻が折れる感触をはっきりと感じた。

顔を覆って突っ伏した男にも自然に足が伸びた、その横腹に蹴りを浴びせた、何度となく蹴りつけた。肋骨の折れる音が響く。やがて水袋のようなしゃばしゃばした蹴り心地に変わる。内臓破裂の手応えだ。


ひときわ力を込めた蹴りで男を仰向けにすると、文那は三人の血と内蔵でずるずるになった斧を両手で掴み直した。男が恐怖に満ちた目で見上げた。震える声で懇願した。


垂直に跳躍し


「助けてくれえ!」


その脳天に斧を力いっぱい振り下ろした。斧は男の頭を縦に貫き、口元で止まった。ドロドロとした脳漿を垂れ流しながら、男は地面に崩れ落ちた。  


先ほど感じた喜びは体の中心から、手足の先までみなぎっていた。


斧の使い方を覚えた、山歩きの経験は脅威が接近する気配を察知する力となった。



貴族として生きようが、日々学ぶことを苦役として強いられる。だが

本当の使い方を、学び直していけばいい。


国土浄化大会だったか。貴族が嗜みとするだけのことはあるらしい。


初出場だったが、目につく現地人を次々と仕留めた。社を壊されて怒り狂う村人が襲いかかるのを待たず、人の気配がする家屋に次々に押し入り、家人たちを一掃していった。後半になるとに家屋に潜み、逃げ込む手負いになって逃げ込む現地人を残らず血祭りに上げていった。


85人が住んでいた集落は11人の貴族の手により、清められた


大生部乃詔

ー土地神を無力化・矮小化して国土を穢す悪霊として神の座から引き摺り下ろす


を奏上する名誉も得た。


そして今、私は国柱に従うことを拒んだ穢れ神の巣食う祠を、社を壊し、土地を洗い清める神事を司る大役に帯びた。


国土浄化大会


数多の古い人生が終わらせ、新しい国を担う若人の新しい人生の糧とする始まる瞬間を決める神事であった。


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