真紅と深緑(要は祠破壊作品二つ) 

花森遊梨(はなもりゆうり)

腐った信仰 

「オヤジ、祠がどうなったかの疑問の答えなら、俺の右手が知ってるよ。金棒の感触がまだてのひらに残ってる」

「?」

男は片手で金棒を水平に振るい、男の頭部を強打した。硬い物が砕ける音が響き、鮮血が飛び散った。

「こんなふうに腐った風習の象徴を粉々に砕いてやった瞬間の手応えが、まだてのひらに残ってる」


地面に倒れたオヤジに、男はなおも激しく金棒を振り下ろす。オヤジの頭部がもはや原形を留めず粉砕されまで、時間はかからなかった。


「お前の頭より柔かったがな…」


夕刻

暗闇の中に、赤い光がゆらめいていた。あっという間に  空をさらに焦がしてゆく。 その様子を見ていた大きな影は、  

「行くぞ!」  

と大声を放ち、同時に馬に拍車を入れ、急速力で丘を駆け下り始めた。  

「はぁッ!」  

「うおおッ!」  

号令を待ちかまえていた騎馬集団も、思い思いの掛け声をあげながら、遅れじとばかり、どっとそのあとに続いた。  たちまちあたりは、蹄が地を蹴立てる音、武具の触れ合う音で騒然となり、その不吉な轟きは大気を震わせ、 目標に向かって襲いかかった。  合わせて二十数頭の馬を駆る一団は、新政府軍。


そして彼らを率い、漆黒の馬を駆って先頭を走る女と見紛う端正な男。冷たい笑みを宿す口元、残忍な光を帯びた目を持った、世羅惨臓せらさんぞうであった。  



「襲撃だぞ!」  

人々が異変に気づき、口々に声を上げた時には、先に忍び込んでいた先遣隊の放火によって、すでに村の半ばほどが火に包まれ、夜空は赤々と染め上げられていた。消火に走る間もなく、丘を駆け下ってきた騎馬隊が凶暴な叫びを上げながら村に突入して来た。棒や鍬を持って立ちふさがろうとする村人たちは、彼らの手にした白刃によって、あっという間に斬り伏せられた。村中に響き渡る怒号と悲鳴の中を、騎馬隊はは我が物顔で蹂躙し、 殺戮し、破壊していった。


世羅は愛馬から跳躍すると、その西洋靴に包まれた上段蹴りの爪先が一際体格の良い村人の目にめりこんだ。

ー目を深く抉られると、不思議なことにそれが片目だけでも速やかに人は死ぬ。

隻眼になった男が膝をついた死体となった時には傍の巨漢に対し、両太股で首を挟みにし、軽く身体をひねった。骨の折れる音とともに巨漢がくずおれた。世羅は難なく着地した。


叫び声を上げながら日本刀を掲げた村人が二人駆けてくる

世羅はみずから敵めがけて駆け流。村人の一人の顔面に強烈な正拳突きを浴びせた。両目の間に打ち込まれた一撃により、その顔の骨は陥没し、両目両耳と口が真んなかに寄った。


世羅は西洋片手剣を抜き、もう一人の村人の敵の攻撃を受け止めた。刃がしっかりした日本刀の刀身が見て取れた。男がむきになり日本刀を縦横に振るってくる。だがそれも数秒のことにすぎなかった。片手だけで日本刀をすばやく難ぎ払い、切りつけ、遮られるや、西洋剣術フェンシングの応用で下半身を数箇所穿つ。男が呻いて前のめりになったところに、頭の下部分をめがけて強烈な突きを食らわせた。そのまま男の首を強引に抱えこみ、半ば腰にかつぎながら、燃え盛る炎のなかへと投げ飛ばした。喉を割られた男は悲鳴一つあげずに燃えあがり、吐き気をもよおす悪臭が広がった


「ひいいっ!!」先ほど顔を陥没させた男が尻餅をついたまま後ずさった。


西洋剣の切先が村人の両類を瞬時に削きとった。わずか二秒のちには、風船のような丸顔は細面になり、大量の血を噴きだしていた。男の頭部を切り刻みつづけた。西洋剣が縦横にすばやく走るたび、肉という肉が削がれていき、徐々に頭蓋骨の形状があらわになってくる。素晴らしい眺めだった。生ける骨格標本そのものだ。勿体無く思いつつも肉の残った首をつかみ、燃え盛る家屋の前へひきずっていくと、炎のなかに叩きこんだ。突っ伏したまま燃えあがる。また吐き気をもよおす悪臭が心地よく広がった。



三十分もしないうちに、村人たちの抵抗は完全に終息した。  



「お前ら行こうぜ!恒例の宝探しだ!」


「おい!早速女がいたぞ!」

「なにしてやがる!抵抗したくらいで女を殺すんじゃねえよッ!」  

「俺によこせ!俺が天にも昇る快楽を味合わせてやるっ!」

早速殺気だった声が聞こえる。  

いつものことながら抑えの効かない奴らだ。しかし無理もない。これが流儀なのだ。  


「おい見ろよ、こんな上玉がいたよ!」

「そいつはさっきオレが社でとっつかまえたんだもんだ!返しやがれ!」  

「ざけんな!俺が社に火ィつけて燻り出したんだ!」  

「人のもんに触るんじゃねえ、お前ら!!」

「へへへへ、こんな汗臭い脳筋は忘れちまえ、イケメンの俺がお前の全てを奪ってやるよ」  

 情欲に弾む男たちの嬌声が響く。  

 

こうやって新たな政府に従わない村や町を政府軍が襲うのも、政府への反乱を征伐する以上に、内輪の反乱の芽を摘むのが重要な目的なのだ。  

 

「グズグズすんなさっさとおっぱじめろよあとがつかえてんだよコラ!」

「あーあーこいつ縮み上がっちまってやがる。これだから嫌なんだよ」

「お前、乱取りは初めてか?焦るこたぁねえ。今回で10回目のこのおじさんが鮮やかなお手本を見せてやるぜえ」

「おめえ、こんなとこまで来て男の方がいいのかよ?正直引くぜ」


泣き叫ぶ声がする、子供のものと思われる涙声が響く、だが、政府軍の歓声や罵声のほうが圧倒的に多い。それら全てを聴きながら世羅は目を細めていた。今蹂躙している故郷だった土地、そこでいま男たちの獣欲に晒され、あるいはバラバラの肉片となった者たちは一人の例外もなく、同じような叫びを発する母を、妹を、父親を、いいや、数え切れないほどの「生贄」たちを数百年もの間飽きもせずに何度となく作り出してきたはずだ。


腐った信仰に骨まで浸かった故郷を今、ようやくまとめて根絶やしにできた。

元号は変わった。法律も、社会も、処刑も新しくなる時代だ、腐った信仰に染まった人間どもも一掃される刻だ。新たな政府によるかつてない不条理な支配が始まろうとも、これで世のなかが少しはましになる。

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