社説

読毎新聞よみまいしんぶん、2024年12月25日金曜日/夕刊/社説

記者:阿部洋三郎あべようざぶろう


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しくもクリスマス、本日午後14時30分をもって【ヴァンプ】の殲滅せんめつ作戦がほぼ完遂かんすいされたと防衛省ぼうえいしょうが会見中に発表した。陸上自衛隊は「【ウォーカー】に変化したとされる個体の数量傾向を見ても劇的な減少推移すいいが見られており、少なくとも数日中に残党【ヴァンプ】は自らの体質により自壊じかいするものと思われる」としている。思えば道のりは長かった。すべての発端は、三年前の2021年8月13日に、日本における宗教団体・『罪ゆるされし罪人つみびと』の牧師とそれに従う信者たちが、都内で一般市民を噛むという凶行きょうこうおよび始めたことにある。血を求める人間となった者はセミの如く短い命になり、それを少しでも伸ばさんと新鮮な獲物えものである我々一般市民を襲うようになった。さらに憂慮ゆうりょすべきは、その背後にあった本当の目的、もとい【ヌーン・ウォーカー】を増やさんとする、前述したその新興しんこう宗教団体・『フォーギヴン・シナーズ・エージェンシー』の勃興ぼっこうである。2021年初頭という若干昔めいた時期ではあれど、現代日本において、なぜこのような凄惨せいさんな生物を発生させようとしたかには、もはや議論の余地はあるまい。つまるところ、彼らは永遠の命というものに逃げたのである。老いるのが怖い、やまいかかるのが怖い、死ぬのが怖い。そう、【ヌーン・ウォーカー】は単に不死なる存在ではなかったのだ。そこに至るまでに、いったん短命である【ヴァンプ】という状態にヒトを置かせることで、【ウォーカー】への変貌へんぼうげるための欲求を駆り立てさせたのだ。なんと残酷ざんこくなことだろう。誰も望んで【ウォーカー】になりたいと思う者はいるまい。確かに、狂信者の一部が証言しょうげんしているように、「暴力的になされるのでなければ、死ぬことはない」──浄土に生まれ変わったような体質にはなるであろうが、この世界において、永遠の命を得ても果たしてそれは喜ばしいことであろうか。二百万人という犠牲者ぎせいしゃ──【ヴァンプ】たち──の上に、今回の成功がある。うち、【ウォーカー】に転じたのはわずか2,3万とも言われている。だがその数は深刻そのものと言っていいだろう。いまだ各地に潜伏せんぷくしていると思われる、狂信者である【ウォーカー】も、そして悲壮感悲壮感を持ってあわれむべき【ヴァンプ】でさえも、存在してはならないのだ。それが、国民が安心できる唯一のありようなのだから。

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