報道特集『ヴァンパイアとの戦い』

番組:報道特集『ヴァンパイアとの戦い』

放送日時:2022年3月28日

出演:猟友会メンバー・熊川茂則くまがわしげのり63歳


☆☆☆


熊川氏邸宅、午後4時頃。


「これ見てや。こんだけの銃弾使うても、次から次へとどんどんやってくるんやで」


ショットガンを使った証拠である薬莢やっきょう、ならびに新品の弾丸の入ったケースの山、山、山。


「【ヴァンプ】は銀に弱いさかい、最初は特注の弾を使うとったんよ。でも、ある日を境に、それがまったく効かんようなってん。やから、しゃーないけど一番の弱点のどたま狙って撃つしかなくなってな」


テロップ:弱点は、額を狙うこと。銀はもう効かない──。


「県警と自衛隊の皆さんのお陰で、鉄条網てつじょうもう張ってくれはったやろ? でもここと隣接りんせつする県のさかいに行くにはえてワシの家を通らなあかんようにしとるさかい、分かりやすいわな。一般市民はそこを通るな、て言うてあるから、それもあるかもしれんけど」


ナレーション:「だが、庶民を間違えて撃つ可能性は…?!」


「一般市民を撃つ可能性やて? そりゃ大丈夫や。死にたくなけりゃここに来るな、言うたら来たくなるのが人情やけども、このご時世じせい、あえて来るアホはさすがにおらんやろ」


ナレーション:「熊川さんは、過去、300人を越える【ヴァンプ】や【ヌーン・ウォーカー】を撃ってきたという──」


テロップ:300を超える【ヴァンパイア】を始末してきた


「もしワシが襲われて、【ヴァンプ】になったらどうするて? 決まっとるがな、口で咥えて一発、ポーンや。妻も娘も【ヴァンプ】になって、このワシが自分の手で始末した。もう、な~んも思い残すこと無いで」


ナレーション:「ご家族を自分であやめた猟師。その心境しんきょうは複雑だ──」


「まぁ、【ヌーン・ウォーカー】さんにならんかっただけマシやわな。生きるも地獄、死ぬも地獄やからな、あの連中は。【ウォーカー】の集会で『洗礼せんれい』受けたら最後やで。もう戻れへん。大人しく【ヴァンプ】になって定期的に血を吸うてるほうがまだ救いがあるやろ。そう思わへんか?」


ナレーション:『洗礼』を受け、【ヴァンプ】は【ヌーン・ウォーカー】となるという──。


「どんな儀式やて? 直接見たことが一回だけあるで。遠くからやけどな。入信希望者を募るやろ。あれは確か大阪橋おおさかばしのとこやったかな、まだ【ヴァンプ】も【ウォーカー】が出始めて、暗い噂が広まりだした頃や。知り合いの家に寄って酒を飲み交わしてたんやが、気づいたら夜中になっててな。で、自宅に戻ろう思うて、この、大阪橋にさしかかった。長い橋の真ん中らへんに若い女が着物着て立ってたんや。見てるとその女が何やら、着物の袖にごつい岩入れ続けてるねん。思わず大声で叫んだけれども、──ぁ、と目が合うてしもたなぁ、欄干を越えかけてたおなご。バッシャーンという飛び込む音。ああ、可哀想なことを止められなんだ、なんて薄情はくじょうな、とワシ自身を責めたで」


ナレーション:その飛び込みは、儀式の一環だった──。


「ワシもスケベ根性やったさかい、興味本位で後の様子を見に行ったんや。すると屋形船やかたぶね一隻いっせき浮かんどる。怪しい光が屋形から漏れとったで。そこで、ワシは思い出した。友達が噂話しとったんやな。いったん身投げみたいなことをさせて、溺死体できしたいにしてから、そこから──ワシの時の場合は川やったけどな、そこから、体を引き上げて、何やら呪文を唱えたり、手でこういんを結んだりして『洗礼』の儀式をするっちゅう話や。それも溺死体を、やで? どうやって復活させると思う?」


テロップ:異形の者たちによる異様な『洗礼』という儀式ぎしき──。


「簡単なこっちゃ。【ウォーカー】に、どないな方法かは知らんが、心肺蘇生しんぱいそせいをしてもらう、っちゅうんや」


ナレーション:「【ヌーン・ウォーカー】は、最後には何度目に死ぬのか──」


「その『洗礼』が終わったら、その【ヴァンプ】は新しいものへとつくり変えられる。【ウォーカー】がともに信じてるちゅう神様みたいなバケモンがおるらしいけど、あれはあれで気持ちの悪いもんやで。ワシも一回見たな。先月やったか? いや、今月の頭か。いつものようにライフル抱えて見てたら…スコープの右端のほうから何かこう、目みたいな、六つの光るたまみたいなのがふわふわと浮かんで見えてきた」


テロップ:怪しい存在、狂信者の存在──。


「ありゃあ恐ろしかったな、タコみたいな顔に、蝙蝠コウモリみたいな羽。いわゆる、ドラゴンみたいな手足と尻尾。しかもワシの友人によると、あれはまだ子どもらしいな、うん。親玉ははるかにでかいやつで、海底奥深くに、夢を見ながら復活の時を待っとるそうな。【ウォーカー】が、週末あたりにやっとる『礼拝』は、その神さんを待ち望む、もしくは呼ぶ声なんやて。そんなんに来てもろうたら困るがな」


ナレーション:そして、熊川さんはそれを、撃った…!


「必死やったで。一瞬でこれはバケモンやなと思ったわ。狐にだまされてるんかと思ったけど、そんなんはおとぎ話やからな。こりゃ是非でも殺しておいてやらなあかん思たさかい、2発、お見舞いしたんや。えらい金切かなきり声の断末魔だんまつまやったで」


テロップ:メンバーが撃ったのは、よこしまなる存在だった──。


「ただ、今んとこそのバケモンによる被害はない。【ヴァンプ】が増えることが一番危ないからな。…なんで【ウォーカー】にならん【ヴァンプ】がおるかって? さぁなぁ。およそ、死んでも死にきれん体になってまうことを知っとるからちゃうかな? おまはんもわかるやろうけど、こんなクソったれな世界で永遠に生き続けたいなんて、思うか?」


ナレーション:「熊川さんは、これからも、やみ眷属けんぞくと戦う──」


見出し:【ヴァンパイア】との戦い ~終~


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