第10話 仲間の存在
「……手も足も出なかった」
長く激しい戦いの後、地面に仰向けに倒れているライオスが天井に向かって呟いた。
「ひやりとした場面は俺にもあった。間違いなくお前も以前より成長しているさ」
「でも、今のままじゃ──」
皆を再び危険な目にあわせてしまう、そう言葉にしたライオスは今にも泣きそうな子供のようだった。
「クラインさん、教えて下さい。魔法が使えない俺はどうやったら皆を守れるようになりますか?」
「さぁな」
俺は彼の言葉に素っ気なく返事した。
誰かを守らなければならないと言う使命感だけでは、冒険者として今以上に強くなるのは難しいだろう。
他者を弱者と決め付け、足手まといだと認識している時点で本当の意味での成長など存在しない。
その事を教えてやるのは簡単だが、それでは本当の意味でライオスの為にならない。
いつになるか分からないが、その時が来るのを俺は心待ちにしていよう。
そんな事を考えながら俺は彼に背を向け、出口に向かって歩く。
「リーダー!!」
次の瞬間、背後で聞き覚えのある声が聞こえた。
「それだけ仲間に慕われてるなら早く気付け、バカライオス」
そう振り返らずに呟いた俺は上のギルドカウンターでノエルやアリシアと合流し、そのまま三人で家へと戻った。
「折角のお祝いなのに大変な目にあったわね。ノエル、大丈夫だった?」
「うん、私は大丈夫。それよりも兄さんの方が大変だったと思う」
「た、確かにそうかもね。一応は聞いてあげるけど、アンタも大丈夫だった?」
「あぁ、問題ない」
「そう言う割には元気が無いじゃない。さっきの戦いで何か思う事でもあった?」
アリシアの言葉に俺は思わず息を詰まらせた。アリシアにしては勘が鋭い。
実は二人には言っていないが、俺にはここ暫くずっと考えていた事がある。
出来れば二人がもっと成長してから話を切り出そうと思っていたが、これは二人の気持ちを確かめる良い機会だ。
俺は思いきって口にしてみた。
「急な話だが、俺はこれから世界を見て回ろうと思ってる。だが、パーティを組んでる以上、俺の一存では決められない。二人ともこれからどうするか、良く考えてみてくれ」
ノエルも元気に成長したし、Bランクなら冒険者としても一人前。
もう一人でも大丈夫だろう。
もしくは、二人でパーティを継続しても良い。
以前と比べてアリシアも強くなったし、先日のナイトキャンセラーとの戦いも良かった。
二人ならAランクの依頼も無事にこなせるだろう。
「一つ聞かせて。もし私達が帝都に留まるって選択した場合、パーティはどうなるの? クラインが帝都に残ってくれる訳?」
「いや、俺はどのみち帝都から旅立つ。だから選択肢は二人が俺と共に世界を巡るか、解散しか無い」
「……それって私達と一緒にいるのが嫌になったって事?」
「もしそうなら、俺は何も言わずに二人の前から姿を消してるさ」
「確かにそれもそっか……。いつまでに答えを出せば良い?」
「明日の朝、この場所で。ノエル、今回ばかりはお前も自分の気持ちで決めろ。兄妹だなんだと言うしがらみは捨てて、な」
「兄さん……」
戸惑う二人に背を向け、家を出る。
その日は帝都の宿屋で晩を明かした。
そして迎えた翌朝。人気も疎らな道を歩き、俺は家の扉を開けた。
この家は師匠が俺達と住む為に購入した家だ。師匠との思い出が詰まっている。
そう考えると何だか感慨深い。
「二人とも揃っているな。答えは出たか?」
「うわ、いきなり現れて開口一番がそれ!? まずは挨拶からじゃないの?」
「……おはよう、これで良いか?」
「まぁ、及第点ね」
「じゃあ早速だが、二人の答えを聞かせてくれ」
「ねぇ、兄さん……答えを急ぐ前にまずは朝ごはんでも一緒に食べない?」
何だろう、何かがおかしい。
あくまで俺の勘だが、二人が答えを先延ばしにしているような気がする。
「もしかしてお前ら、答えがまだ出てないのか?」
「失礼ね、もう出てるわよ!」
「だったら先に言っても問題ないだろう?」
「それはそうかもだけど……。アンタこそ、そんなに答えを急かして何かあるんじゃないの!?」
「いや、別にそう言う訳でもないが……」
「今、食後に食べるリンゴパイを焼いてる最中なの。兄さんの大好物のリンゴパイ、それを食べてからじゃダメ……かな?」
確かに俺はノエルのリンゴパイが好物である。
サクサクとした生地に蜜の塗られた甘いリンゴがたっぷりと入った特製リンゴパイ。
ここで俺の好物を用意してくると言う事は──。
「わかった、朝食の後に答えを聞こう」
妹の言葉に覚悟を決め、俺は静かに食堂の椅子に腰を降ろした。
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