第9話 真剣勝負
「すみません! 彼らがクラインさんに生意気な事を言ったみたいで!」
「あぁ、別に気にしなくていい。それより悪かったな、お前達の獲物を横取りしてさ」
「いえ、クラインさんのお陰で助かりました。それでなんですが、何か助けて貰ったお礼をさせて貰えませんか?」
「お礼……? いや、既にギルドマスターから報酬は貰った。お前が気にする必要は無いぞ」
俺としては本心からの言葉だったのだが、ライオスは頑なに折れようとしなかった。
このままでは埒があかない。
仕方なく俺はそんな彼に妥協案を提案した。
「今、妹の昇級祝いをしてた所なんだ。良かったらお前達からも祝ってやってくれないか」
《銀連星》はライオスがSランク、他の三人も一応はAランクである。
今はまだ格上の彼らから祝って貰えれば少しは励みになるだろう。
だが、俺のその言葉は思わぬ方向へと転がった。
「わかりました。では、剣士を相手にした時の戦い方とかを教えれば良いですか!?」
「おい、何を──」
「そうと決まれば善は急げですよね! ノエルさん、さっそくギルドの地下訓練場に行きましょう!」
「お、おい!」
ライオスは椅子に座るノエルの手を引き、強引に立たせると、そのまま彼女を連れて外へと行ってしまった。
俺も他の呆けている連中を置き去りにし、急いでその跡を追いかける。
遠目から二人を見ると、ノエルの方は完全に顔をひきつらせていた。
二人に追い付いたのはギルドの前だった。
ぽかんとした表情を浮かべるライオスの頭を軽く叩き、俺はノエルを掴んでいる彼の手を剥がした。
「どうした、こんな突っ走るなんてお前らしく無いぞ」
「ははは、耳が痛い限りです」
「……何かあったのか?」
「いえ、特には。強いて言うなら、自分の不甲斐なさに自分自身に嫌気が差してるって所ですかね」
「あぁ、バジリスクの一件か……。別にフォローする訳じゃないが、もし依頼に向かったのがお前だけだったら──」
問題なく倒せた、そう言おうとライオスの顔を見ると彼は悲しそうな表情を浮かべていた。
「でも、俺は皆と一緒に居ました。一人だったらとか、そんなのは関係ないです。それにクラインさんだったら、誰かを守りながらでも余裕でバジリスクに勝てますよね?」
「……そうだな」
確かにノエルとアリシアを守りながらだったとしても俺はバジリスクに圧勝出来ただろう。
だがそれは、俺が魔法使いだからだ。
剣士であるライオスと比べるのは不自然な話だ。
「クラインさん、無理を承知でお願いがあります。俺と……俺とサシで戦って下さい!」
瞳の奥に見える暗い影。
きっと彼は自身の無力さに苛まれ、今、絶望にうちひしがれているのだろう。
そこから立ち直るには自身の強さを再認識し、冷静に自分を見つめ直す事。
それこそが前へと進む糧となる。
「良いだろう」
受付で地下訓練場の使用申請書類を記入。
その様子を見た他の冒険者達が興奮を隠しきれない様子で騒ぎ立て、戦いが始まる直前には大勢の観客が集まっていた。
Sランク冒険者同士の模擬戦。
それも《銀閃》と《魔賢》の二つ名を持つ者同士の戦いだ。盛り上がらないハズが無い。
中には賭けを始める連中まで現れていた。
ちなみにオッズはライオスが一・二倍で俺が二・三倍。
端から見るとライオスの方に人気が集まっているようだ。
「まぁ、ライオスは人気があるからな」
それに俺自身、人前で力を見せた事はあまりない。全力を出したのは師匠──アイゼン・ロスモールとの戦い、あの一度きり。
それ以外は全力の二割にも満たない力しか出していない。
「いや、待てよ。これってもしかして、大稼ぎするチャンスなんじゃ……?」
相手は不調とは言え、Sランク冒険者の《銀閃》ライオス。
油断は出来ない相手だ。
だがしかし、互いの実力を冷静に分析してもライオスが俺の領域に足を踏み入れているとは考えにくい。
もし彼が俺と同格だったら、仲間を危険に晒す前に一撃でバジリスクを葬っていただろう。
その結論に至り、俺は思念伝達の魔法で会場にいるノエルに有り金すべてを俺にベットするようにと伝えた。
即座にノエルが胴元へと走る。これで準備は完了だ。
「初めに聞いておくぞ、ライオス。これは指導か? それとも真剣勝負か?」
「真剣勝負でお願いします!」
瞳の奥に僅かに光が灯る。
その瞬間、俺は僅かに口角を上げていた。
「なら、大勢の前でお前を叩き潰しても問題ないな!」
「それはコチラのセリフです! 俺はこの勝負、貴方に勝って前へと進ませて貰います!」
剣を正眼に構えると、ライオスは真っ直ぐにクラインの目を見た。
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