第8話 昇級祝い
「あぁ、なるほど。ライオスはお前達を庇ってバジリスクの攻撃を受けたのか」
彼らの取った部屋に行き、石化したライオスを見ながら俺は呟いた。
確かにそれならライオスが石化したのにも頷ける。誰かの代わりに自分が犠牲になるとは、実に彼らしい。
「くそ、俺達のせいでリーダーは……」
「まったくだ。こんな奴らと同じパーティだなんて、ライオスも本当に憐れで仕方ない」
「な、何だと!?」
「せっかく助けた奴らが自身の無力さに打ちひしがれるだけで前を向こうとしないんだ。俺だったらとっくにお前達を消し炭にしてる」
「ぐっ……」
「まぁいい、俺は自分の仕事をこなすだけ。何でもいい、持っているバジリスクの情報を吐け」
ライオスの姿も確認出来たし、後はバジリスクの行動パターンを少しでも知る事が出来れば、もう彼らに用は無い。
もっとも、彼らから情報が得られなくても何とかなると思うが。
「う、うるさいっ! 誰がお前なんかに──そもそもアイツは俺達の獲物だ!」
「あいにくとお前らのお遊びに付き合うつもりはない」
「お遊び……だと!?」
「そうだろう? ライオスならともかく、お前ら程度でバジリスクを倒せると本気で思っているのか?」
室内に険悪な空気が流れる。
一歩間違えれば一触即発、そんな雰囲気。
「もう良い、お前達はそこでライオスの様子でもみていろ。明日の朝には全て終わらせておいてやる」
胸の内に渦巻く苛立ちをどうにか抑え、俺は彼らには目もくれずに宿屋を後にした。
『クラインさんの魔法、やっぱり凄いですね!』
『クラインさん、後ろを頼みます!』
『クラインさんっ!!』
数時間後、俺はルポネ火山の中腹でバジリスクと対峙していた。
頑強な鱗、鋭く尖った牙や爪、翼があれば竜と形容されそうな外見をしている。
「早く帰らないとアイツらが心配する。ライオスの事もあるし、悪いが早々に片付けさせて貰う!」
◆
「悪い、遅くなった」
「兄さん!」
「このバカッ!」
家に戻って玄関の扉を開けた瞬間、二人が目に涙を浮かべながら俺に抱き付いて来た。
リッカさんから話は聞かされたものの、相手はバジリスク。
二人とも一睡もせず、俺の帰りを待っていてくれたらしい。
「俺がバジリスクごときに遅れを取るわけが無いだろう?」
「もう……本当に口が減らないヤツ!」
俺の胸に顔を埋めていたアリシアが顔を上げた。近くで見ると彼女もノエルも泣き腫らしたのか、うっすらと目が赤くなっている。
「少し喉が渇いたな。ノエル、お茶を淹れてくれないか?」
「うん、いつもので良い?」
「あぁ、頼む」
腫れぼったい目で精一杯の笑顔を作ると、ノエルが奥へと引っ込む。
「それで……お前はいつまで俺に抱き付いてるつもりだ? もしかして俺の匂いとかを嗅ぎまくってるんじゃないだろうな?」
「そ、そんな訳ないでしょ! バカじゃないの!?」
残るアリシアに離れるように告げると俺は近くの椅子に腰を降ろした。アリシアも俺の向かいの椅子に腰を降ろすとジッと俺の目を見つめる。
「そんなに睨まれると俺も落ち着かないんだが?」
「じゃあ、率直に聞くけど……どうやってバジリスクを倒したの?」
世間でバジリスクの鱗の硬度はミスリル並だと言われている。
また魔法耐性も高く、魔法で傷を付ける事すら困難。
では、そんなバジリスクを相手にどう戦えばいいか。
答えは簡単。バジリスクの魔法耐性を上回る魔力で魔法を放てば良いだけである。
「呆れた……そんな馬鹿げた事が本当に出来る人間、アンタしか居ないと思うわ」
「いや、この程度ならアリシアやノエルでも──」
「出来るかっ!!」
その後、俺達はノエルの昇級祝いの続きをする事にした。
小さな丸テーブルの上にはノエルの焼いた菓子と温かい紅茶。紅茶は飲むとホッとする味がした。
「まぁ、そんな事は別にどうでも良いだろ。それよりもこれはノエルの昇級祝いだ。ノエル、何か欲しい物とか無いか!?」
気まずくなり、俺は焼き菓子を口に放り込む。二人は呆れた様子で俺を見続けていた。
「うーん、急に言われても特には無いかな」
「欲のない奴だな、少しはアリシアを見習ったらどうだ」
「それってどういう意味よ!」
ノエルが苦笑いを浮かべ、アリシアが怒る。
騒がしい位に賑やかな日常。
こんな日々が送れるなんて、幼い頃からは決して想像できなかった。
「すみません、クラインさんは居ますか!?」
その時、玄関の扉を誰かがノックする。
その声には聞き覚えがある。
今回は直接話さずに帝都へと戻って来たが、律儀にも挨拶しに来たらしい。
「あぁ、ライオスか……いいぞ、入ってくれ」
扉の外にいる彼を招き入れる為に扉を開けると、外にはライオスの他に《銀連星》の面々の姿もあった。
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