第7話 《銀閃》と《魔賢》

 数日後。

 ノエルは無事にBランクへと昇級した。

 今日はギルドに併設されている酒場で、その昇級祝いだ。

 テーブルの上に並ぶ数々の料理に舌鼓を打ちつつ、俺達は楽しい一時を過ごしていた。


「おめでとう、ノエル! でも、後から冒険者になったノエルに並ばれちゃって何だか複雑な気分……私も早くAランクに上がらなきゃ!」

「先に言っておくが、Aランクへの昇級試験はSランク冒険者との戦闘だぞ」

「Sランク……Aランクじゃなくて!?」

「あぁ、Sランクで間違いない。現在、このギルドに所属するSランク冒険者は俺を含めて十人。その中の誰かと戦うって事だな」

「他のSランク冒険者にどんなヤツがいるか分からないけど、私……アンタとだけは戦いたくないわ」

「まぁ、お互いに手の内を知ってるから戦いづらいのは確かだな」

「そう言う問題じゃないわよ!」


 椅子から立ち上がってコチラを指差すアリシア。俺は彼女の言葉の意味が分からずに呆然とするしかなかった。


「お楽しみの所、申し訳ありません」


 そんな時だった。

 ギルドの受付嬢のリッカさんが声を掛けてきた。普段は仕事に真面目な彼女が依頼を受注していない冒険者に声を掛けて来るなんて珍しい。


「ギルドマスターからクラインさんを呼んでくるようにと仰せつかりまして……。上の部屋に来て貰ってもよろしいですか?」

「ギルドマスターが……?」


 ギルドマスターとは師匠が存命の時に一度会ったきり。そんな彼が一体、何の用だろう。


「失礼します」


 リッカさんに案内されて部屋に入ると彼は俺に背を向け、窓の外を眺めていた。

 スキンヘッドに浅黒い肌。そして二メートルはあろうかと言う巨漢。


「おう、久しぶりだな。前に会ったのは、アイゼンが生きてた頃だったか」

「ええ。リッカさんから聞きましたけど、話って何ですか?」

「少し手を焼いてる依頼があってな。その依頼をお前に何とかして貰いたいんだ」

「……そんなに厄介な依頼なんですか?」


 個人、しかもSランク冒険者に直接する依頼となれば危険度は相当な物だろう。

 彼は俺にソファに座るように指示し、一枚の依頼書を見せてきた。


「これな、実は《銀閃》が失敗した依頼なんだ」

「《銀閃》って、あの……?」


《銀閃》ライオスは俺と同じSランク冒険者だ。

 登録された職業は剣士。

 剣速が凄まじく、一般人からは斬撃が銀色に光ったようにしか見えない事からその二つ名がついた。


 四人組パーティのリーダーを務めており、他の冒険者達からの人望も厚い。


「依頼は《バジリスクの討伐》だ。場所はルポネ火山、周辺の生態系にも被害が出始めている。早めに処理を頼む」

「まぁ、それは構いませんけど……。詳しい話を聞きたいんでライオスをここに呼んで貰っても良いですか?」

「……悪いな、そいつは無理だ」

「無理、とは……?」

「ヤツは今頃、仲間に運ばれてルポネ火山から一番近い街──シュルトロールにいるだろうよ。石像となって、だがな」


 バジリスクの口から出る光線や血を浴びると、その者は石化する。

 戦いは僅かな油断が命取りになる。


 彼の実力なら問題ない相手の筈だが、もしかしたら彼の中で慢心のような物があったのかも知れない。


「石化は対象を倒さなければ元に戻らない。ライオスを助ける為にもバジリスクの討伐は絶対、か」

「そう言う事だ。もちろん報酬は弾むからそこは安心してくれ」

「わかりました。その依頼、引き受けます」


 アリシアとノエルに今回の依頼は荷が重い。

 ここ暫くは依頼を受けまくっていたし、身体を休ませるには都合が良いかも知れない。

 そう思った俺は、今回の依頼を一人で受ける事にした。


「今から転移で向かいます。リッカさん、悪いけど後で二人に事情を説明して待ってるように伝えて貰える?」

「別にいいけど……自分で伝えないの?」

「俺が説明すると二人とも絶対に着いてくると思うから。じゃあ、頼んだ!」


 転移魔法は『一度でも訪れた事がある場所』と言う条件が満たされた時にのみ、発動できる。

 ルポネ火山を訪れた事はないが、シュルトロールなら昔に師匠と訪れた事がある。


「シュルトロールを訪れるのは何年振りだったかな」


 具体的な時期は思い出せないが、前に来た時はシュルトロールの街の騎士団に頼まれて師匠に命じられるがまま、騎士団とひたすら模擬戦をしていたと思う。


「日も暮れて来たし、取り敢えず《銀連星》の奴らの所に向かうか」


 石化したライオスの状態も気になるし。

 俺は彼らがいると情報のあった、街で一番大きな宿屋へと向かった。


 宿屋に到着すると隣接された食堂で食事をしているライオスのパーティメンバーを発見。

 俺は食事中の彼らに声を掛けた。


「なぁ、少し話を聞きたいんだが」

「なんだよ、人が食事中に──って、魔賢!?」


 その瞬間、俺の方を見た金髪碧眼の青年が大きく仰け反り、椅子から転げ落ちた。

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