第5話 指導役

 その後、そのままノエルは冒険者登録をしてEランク冒険者となった。

 流れで俺とノエル、アリシアがパーティを組む事になり、パーティを組んでいる時は二人の指導役として俺は活動に専念する事に。


 ノエルの冒険者としての職業は魔法使い。

 まさかの全員が魔法使いと言う、異色のパーティである。



 そして半年後。

 気付けばアリシアはBランク、ノエルはCランクへなっていた。

 ちなみにアリシアを追放した剣士、槍使い、盗賊の三人組は未だにDランク止まりのようだ。


「そろそろノエルのBランク昇級試験が近付いて来たな……ノエル、自信はあるか?」

「自信って言われても分かんないよ……。私はまだ兄さんやアリシアさんみたいに魔力の扱いに長けてないし!」

「何言ってんのよ、魔力の質も量もノエルの方が上じゃない! しかも冒険者になって半年でBランクの昇級試験とか、どんだけ化け物なのよ!」

「化け物なんてひどいよ……そんな事言ったら、兄さんはどうなるの!?」

「コイツは化け物って言葉すら生温いわ。世が世なら『魔王』って呼ばれてる人種よ、コイツ!」

「お前たち、少しひどくないか……?」


 冒険者になってからノエルはだいぶ明るくなったし、実に喜ばしい。

 アリシアとも打ち解けているし、アリシアもノエルを妹のように接してくれている。


 だが最近、受けた依頼で二人が気を抜いているような場面が目立つ。

 緊張感を持たなくなってきた、と言えば分かるだろうか。


 冒険者は死と隣り合わせの職業だ。

 常に緊張し続けていても危険だが、その逆も然り。気が緩んでいると咄嗟の出来事に対する反応が遅れると言う悪癖も生まれる。

 そしてそれは、自身の致死率を上昇させる。

 悪癖となる前に何とか直しておく必要がある。


「まぁ、試験の方はノエルなら問題ないだろ。それで次に受ける依頼なんだけど、次は少し難易度の高い依頼にしようか」


 今まではノエルのランクに合わせて依頼を受けて来たが、ギルドの規定ではパーティで最もランクの高い冒険者と同ランクの依頼まで受ける事が出来る。


 このパーティで最も高い冒険者ランクなのは俺でSランク。

 つまりSランクの依頼までなら受ける事が出来ると言う訳だ。


「難易度の高い依頼って事は……」


 顔を引きつらせ、アリシアが心底嫌そうな顔を浮かべる。

 さすがアリシア、なかなか察しが良い。

 俺は二人の顔を真っ直ぐに見て口を開いた。


「あぁ、Aランクの依頼を受けようと思う」

「Aランク!?」

「に、兄さん!?」

「それと次の依頼だけど、俺は一切手を出さない。二人で依頼を達成させるんだ」

「はぁ!? 私達、BランクとCランクなのよ!? 出来る訳ないじゃない!」

「まさか兄さん、さっきの事を根に……」

「そんな事で腹を立てるほど俺の心は狭くないぞ、妹よ。理由は無事に依頼を達成できたら教えてやる。それでどうだ?」


 そう言うと二人は渋々だが納得してくれた。


「う、受ける依頼は私達が決めていいのよね!? これだけは了承して貰うわよ!?」

「あぁ、もちろんだ。二人で好きに選んでくれ」


 それから二人はギルドの依頼ボードの前で必死に自分達の実力でも出来そうな依頼を探した。

 二人が依頼書を手に戻ってきたのは、それから小一時間ほど。

 持ってきた依頼は『ナイトキャンセラーの討伐』だった。


「報酬も少なめだし、他よりも難易度は低めのハズ。これにするっ!」

「いや、でもこれは……」

「ストップ! 依頼は私達が決めて良いって言ったのをもう忘れたの!?」

「まぁ、確かにそう言ったけど……」

「だったら何も言わないで! ノエル、邪魔されない内に依頼を受注してくるね!」


 数分後、満面の笑みでアリシアが戻ってきた。俺はそんな彼女を苦笑いで出迎える。

 既にノエルには事態を説明してる為、ノエルもパッとしない表情を浮かべている。


「……クラインはともかく、なんでノエルも浮かない顔してんの?」

「えっと、実はね……」


 アリシアに近付き、ノエルが耳打ちする。

 すると次の瞬間、アリシアの顔から冷や汗が滴り落ちる。


「あっ、受ける依頼を間違えちゃった! ちょっとキャンセルして──」

「人の制止を振り切って受けたからには、キャンセルなんて勿論しないよな?」

「えっと、それは……」

「出現場所は帝都の西にあるイアナ村近くの街道だ。あそこは商人や通行人達も多く通るし、早めに片付けた方が良いだろうな」

「ぐっ……や、やれば良いんでしょ!?」

「今回はお前がリーダーだ。ノエルもきちんとアリシアの指示に従うように。アリシア、妹を頼むぞ」


 覚悟を決めたように、その言葉に真剣な表情をしたアリシアが静かに頷いた。

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