第11話 オープンマップで今後の行先を

『ダッシュ様、17カーネを手に入れました!』

「17カーネだそうだ」

「……はい?」

「だから、17カーネだって」

「冗談よね?」

「おいオメガさん。俺の所持金を相手に見せるにはどうしたらいいんだい?」

『トレードで開示を選択し、カーネを開示するにチェックを入れれば相手側が所持金を確認できます。高額品に分類される道具や装備品などは直接トレードではなく公式機能解放後、そちらで行えます』


 へぇ。プレイヤー間での取引は一応いちおうできるのか。相手側に掲示できる内容をある程度伏せておけるのはいい機能だな。


「リリ。回復薬トレードするついでに見せてやるよ」

「……うわぁ。どうしたらそんな最小値を引いてこれるのよ。回復薬、やっぱり二つだけでいいわ」

「別にいいから取っておけって。なぁに、カーネはこんな数値だったが、俺にはな。ユニーク装備確定宝箱がある!」

「そ、そう? それじゃ遠慮なくいただいておくわね」

「ついでにこっちの装備確定宝箱もやるよ。俺はいち早くユニーク装備に身を包めるからな!」


 リリにアイテムをトレードし、次は宝箱の確認だ。

 報酬ほうしゅうが宝箱でランダムってのは夢があるな。

 

「そんじゃユニーク装備確定宝箱を使うぜ!」

「言っておくけどユニーク固有って名前のとおりいい物ばかりじゃ……」

『宝箱には奇妙な仮面(U)が入っていました』

「……なんだこれ」


 薄気味悪い仮面だ。左半分が赤い血が付いたみたいで、右半分は銀色の仮面だ。

 だが、これはユニーク! 初日でユニークだぞ! さすがにまだ持っている奴は少ないだろう。

 リリがひがみでブツブツと何かをとなえていたが、俺の耳には届かない。

 最初に入手した防具が仮面とはいまいちな引きだが、身に着けたら背後霊が使いこなせるようになったりしないよな。


「装備できるかな。つけてみるか」

「あっ! それ、ちょっとやばそ……」


 仮面つっても思ったより視界が悪くならない。

 留め具がないのに自分の顔にぴったりと吸い付くようにはまった。

 どんな効果があるかくらい見とけばよかったかな。


「へぇ。けど黒スーツに仮面つけてたら変態だよな。防具が手に入るまで外しておく……外して……外……はずれねえええええーーー!」

「だから言ったのに。ユニークだって当たりばっかじゃないのよ? 特にそれ、未鑑定だったっぽいし」

「なんで未鑑定の報酬ほうしゅう……違う、宝箱に入ってたんだったわ。おい、これどうやって外すんだよ」

「さぁ?」

「……嘘だろ」

「うん。嘘みたいよね」

「じゃ、ねえ! どうすんだよこれ! ただの変質者コースじゃねーかおい! クソゲーだろ!」

「な!? あんたが注意したのに勝手に装備したんでしょ! どうしてそれがクソゲーになるのよ!」

「なんでお前が怒ってるんだ?」

「べ、別になんでもないわよ」

「まぁ外れないもんは仕方ないか。なぁ、17カーネってなにか道具とか買えるか?」

「……回復薬一本いっぽんくらいかな。あ、装備確定の宝箱は返すわよ」

一度いちどくれてやったもんはもういらねー」

「そう? じゃあ私も使ってみちゃおうかなー、なんて」


 なんだ、ただの装備確定宝箱は大したもの入ってないのかな。少し気遣いしてくれてるみたいだ。やっぱり思ったほど悪い奴じゃなさそうだ。

 

「ねぇ見て! ちょっと可愛い青色のワンピースが当たっちゃった! どう? 似合うかな?」


 ……って一瞬いっしゅん思った俺がバカだったわ。

 あっちがお洒落な衣類でこっちは変態仮面だと!? 


「やっぱりクソゲーじゃねえかーーーーー!」

「だからなんで報酬ほうしゅうでそうなんのよ!」

「いいかよく聞けよラッキー女」

「誰がラッキー女よ」

「俺は昔からドロップだのに恵まれない。だからレアが確定する演出以外は信じて来なかった。運の要素が極めて低い! だからこそ記憶を高め、運を努力で引き寄せてるんだよ!」

「ふーん。でも装備の入手方法はこういったボス報酬ほうしゅう以外にもいっぱいあるわ。誰かに装備を作ってもらったりとかもできるし。でもね。そのためには郊外地から移動しないといけないの」

「ん? 見た限り立川の町は機能してないみたいだが、ちゃんと機能してる町もあるのか?」

「あるわよ。ちょっとこっち来て……ってまだ足が動けないのね。いいわ、そっち行くから……」


 なぜか足を引きずりながら歩くリリ。

 逆じゃね? 


「なんでお前が足を引きずってこっち来るんだ?」

「べ、別にいいじゃない。ちょっと疲れたの。今からマップ開くから一緒いっしょに確認してね。オープンマップ」


 リリがそう言うと、でかい地図がリリの目の前に開かれた。関東周辺の地図かな。

 これ、地図アプリとかで操作する感覚に近い。

 現在地は立川南エリアで俺らがいる場所が青く点滅している。

 地形が変わってるのは千葉、神奈川周辺だな。

 鎖が突き刺さってる。鎖へ突入すんならここは……やっぱ豊洲じゃね? R社オフィス連動スクールがあった場所に用意するとは、さすがだ。つか、ステマ(一般消費者に分かり辛くするような広告全般、ステルスマーケッティングの略)じゃねーのかこれ。


「郊外部分スタート組はそこそこいるけど、実は都心部からスタートするとね。町は近いから最初だけ勝ち組だと思うんだけど、あるクエストを郊外エリアでこなさないと、魔法の取得やあの鎖……カルメルタザイトチェーンに行っても異世界の惑星、ゲンドールには向かえないの」

「待て待て話がぶっ飛び過ぎだ。都心部スタートだと郊外に向かう必要がある? 人を分散させるためか」

「それもあるけどね。郊外より都心部の人口が多いし、地方民や郊外の多くの人も23区エリアからスタートすると思ったのよね。特にポイントは新宿、池袋、秋葉原、品川、渋谷の五カ所よ」

「銀座や神楽坂は無しか。ジャンルが違う……てか、初日なのによく情報知ってるな。ベータ版で情報でてたの?」

「いいえ。これでも私は廃神で配信のリリよ? 情報くらい多く持ってるわよ」

「ふーん。その情報もまた、高くつくんじゃないの?」

「そのとおりね。無料で教えたわけじゃない? これから一緒いっしょにその場所まで行って、そのクエストやるわよ」


 そう来ると思った。

 まぁこっちは町の場所もクエストの場所も知らないし、ちょうどいいか。

 乗りかかった船……けど泥船じゃねーの、これ。


「やんのはいいけど向かう方法は? ここから近いのか?」

「郊外でのクエスト受領地点はいくつかあるの。どこでも発生するクエスト内容は同じ……のはず。一番近いエリアは国立、もと大学があったエリアよ」

「おお、頭のいい大学のとこだ一つ星ひとつぼし大学! そこなら走って行けるか?」

「あのねぇ。日本国内を徒歩で移動するつもりだったの?」

「いや、だって電車動いてねーだろ? 車とか免許持ってねーし。そういや道路に車も止まってないな」

「ここ、ゲーム内なのよ? それに車なんて2050年の世界なんだからもっと進化してるわよ。パクリマは移動手段も豊富にあるわよ。今回はデバイスをレンタルしないといけないけどね」

「移動用デバイス? それにレンタル?」


 情報量がやべー。あとで得意の脳内整理をしよう。


「最初期で使える乗り物は、円盤上に持ち手がついてるハンドフープっていうのがレンタルできるの。現物を入手するのは大変だけど、レンタルなら直ぐよ。それ用の飾りアイテムで可愛いのもあるんだから!」


 ……そこまでは、聞いてない。

 しかし移動用乗り物のレンタルか。いいねいいね、ゲームっぽくなってきたじゃん。

 いや、待てよ。


「あのさ。俺、17カーネしか持ってないんだけど」

「……私、カーネ持ってない。駅内に不用品を売買できる場所があるの。先に、売りに行こっか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る