第5話 特典アイテム

『ダッシュ様。リファレンスの画面確認を行う前に装備確認をしましょう。まもなくチュートリアルが開始されます!』

「ん? チュートリアル?」


 急いでリファレンスを閉じると、俺の視界には上空から緑色の物体Xみちなる生物が三匹降って来るのが見えていた。

 そいつらはそのまま建物の屋上に着地……ではなく地面にダイブしていった。

 ……新手の快楽自殺か? 


『ダッシュ様の勝利です!』

「なんもしてねーよ! おい、チュートリアルってあれか? 落下のチュートリアルか!? 観察スキルでも上がんのか?」


 やっぱ開始位置にバグってじゃねーの? 装備の確認とか言ってたから、始まるってのは戦闘のチュートリアルだよな? そうだよな? 


『ダッシュ様、まもなくチュートリアルが開始されます!』

「またなの!?」


 再び同じように身投げする緑色の物体Xども。

 やっべえ、まじでバグってるわ。運営に連絡……どうやるのか分からねー! 

 初日だからバグあっても不思議じゃないけど……待てよ。俺の位置が悪くてチュートリアルリピートが起きてるだけなんじゃないのか? 

 この場所から降りると解決するとか。

 

『ダッシュ様、まもなくチュートリアルが開始されます!』

「もうええわ! ちょっと待て。移動するにもまずはもっかい、リファレンス!」


※※※※

Name:ダッシュ

Tribe:ヒューマン

Level:2

Class:無

Unique Name:無


HP(体力):25

MP(魔力):0

ST(スタミナ):20

STR(筋力):10

AGL(敏捷):15

VIT(耐久力):10

LUC(幸運):15

割り振り値:5


skill(技)

equipment(装備品)

武器:無

頭:無

胴:サイバースーツ(黒)

腰:無

足:無

装飾品:無

※※※※


 これが俺のステータスか。

 レベルって2からスタートなの? 

 まさかさっきの快楽自殺したやつらから経験値もらったとか!? 俺にとっちゃ違う経験が増加しただけだわ……。

 しっかし、武器が無い。

 防具も変な黒スーツだけ。

 これやばくね? チュートリアルの敵、三匹いたよな。

 このまま戦って勝てるんだよな? 

 ……そーいやオメガさんが、事前に準備がどうのこうの言ってたな。

 そうか! 

「インベントリ(アイテム所持欄。得ているアイテムを格納しておく場所。元来の意味は接続機器が持つデータ一覧を指す)確認するの忘れてたわ。どうやって出すんだろ。インベントリオープン? おおっ。今度は正解か」


 ※インベントリアイテム、通常※ 


 リリの通信機

 回復薬(試供品)

 初期チュートリアル用宝箱

 エリア限定通信デバイス(地球)

 ※インベントリを閉じる※


 インベントリ画面が開くと、重要なものと通常使用可能なもの、それから素材が入るものとちゃんと分かれてることが確認できた。

 ソート機能もあるし整頓機能もある。最初から使用可能なアイテムがあることも知らなかったわ……。



 その中にどうみても使えっていうアイテムがあった。

 視界の右上のサポート利用が点滅してるのずっと無視してる俺が悪いんだけど。


「初期チュートリアル用宝箱、展開!」

『チュートリアル、武器選択を開始します』


 オメガさん隣にいるけど違うボイスが聞こえたぞ。

 キャラクリで武器とか選べなかったのは、この世界で使ってみないと分からないだろってことね。

 ステータスでMPゼロってことは、ヒューマンは初期で魔法が使えないってことだよな。当たり前か。人間がいきなり魔法ぶっ放してたら地球スタートって世界観崩壊ほうかいだもんな。

 オープニングとか全部すっ飛ばしたからいまいち分からねーが、これで戦闘準備ができそうだ。

 まずは……「肝心の戦う敵がいないんだけど」

『ダッシュ様。まもなくチュートリアルが開始されます!』

「だめだー、オメガさんバグったままだわー。もしかしてあの落下し続けてる緑色の物体X。奴らを倒すチュートリアルだとしてだ……あれがゴブリンってやつじゃねーの?」

 再び空から落下して快楽自殺を楽しんでやがる物体X。

 俺、なにと戦えばいいんですかね。

 まぁいいや。宝箱に入ってる武器を確認っと。

 剣、槍、こん棒、杖、双剣、斧、弓と矢、ナックル、それから盾が入ってる。

 最初期らしくそれぞれにシンプルって名前が付いてるな。最低限の武器っすか。

 弓なら遠くの敵にも届きそうだけど、遠距離攻撃なんて俺の性格に合ってるか? 

 答えはNoだ。


「名前がダッシュなのに草むらの陰から弓矢なんていい笑いものだわ。剣もな。王道です、はいご苦労様って言うアキトの顔がちらつく。ここは……格闘か? ゲームじゃあんまり格闘って選んだことないな。盾も試したいけど、同時に着けれるのか? これ」

『シンプルナックル、シンプルシールドを試着しました』

「自動装備か。いいね。へー、盾って握って持つタイプかと思ったけど利き腕と反対の腕に装備して使うのか。俺は左利きだから右腕に盾。でも丸盾だと少し邪魔だな」


 格闘はリーチ短いけど動きやすいみたいだ。蹴りも入れればちょっとした格闘野郎に見えるか。

 拳を振るう感じは悪くない。マラソン55位っていう中途半端性能見せてやるぜ! 

 

『スキル、キックを獲得しました。スキル、ワンツーを獲得しました』

「装備して軽く動いただけでスキル? 基本スキルっかな。オメガさんよ。格闘の火力ってステータスだとどれに依存してるか分かる?」

『格闘攻撃は敏捷性びんしょうせいと体力に依存して威力が上がります。わずかに筋力の影響も受けます』

「へぇ。んじゃ、敏捷性メイン振りでいくか。そうだ特典もあったな。取り出して……ってルリ色の発信機と違うじゃねーか! んな簡単に現実で百万、降ってくるわけないか。よく分からんアイテムだけど自分で使ってみよ。発信機って装備するものなん?」

『いいえ、発信機は離れた相手に信号を送るもので、この世界では貴重です。ダッシュ様。まもなくチュートリアルが開始されます!』


 ……うん。オメガさんのバグったところは無視しておこう。離れたところに信号を送る奇怪、送る、送るか……。


「送る? やっべ、アキトに連絡してなかった! 怒ってるだろうなーっとと……ああっ!」


 取り出して触ってたらスイッチ入れちまった。

 なんか発信されちまった!? これがTRとVRの気を付けないといけない差だな。感覚がリアル過ぎて動かしちまう。


「ザ、ザ……なた。ザ、ザよ……た……わ」

「ん? なんか聞こえたような」

「バ……ない、……の……に……なん、ある……ないで……」

「おーい、聞こえますかー? 誰だこんなバグアイテム放り込んだやつ」

「バグってないって言ってるでしょ、失礼ね!」


 ……通信機から謎の声。

 GMジーエム(ゲームマスターのこと。不具合の報告や不正の取り締まりをする管理者)じゃないよな。


「誰だよあんた。俺のフレンドまだゼロのはずだけど」

「ちょっとは察しなさいよね。あなたの手に入れたその特典アイテムで」

「ルリ色の発信機のパチモンだろ?」

「……はぁ?」


 女子の声だけどなんかキレモード。

 これは面倒に巻き込まれる予感がする。

 妹のトリートメントを勝手に使ったら怒られたって展開に似てる気がする。

 回答……いや、回避しよう。


「やー、なんかすいませんね。それじゃ失礼しま……」

「待って切らないで! 今切るとそのアイテム消えちゃう!」

「は? おいおい特典アイテムなのにたった一度いちど使うと消えるとかまじ外れアイテムじゃねーか」

「先に伝えておくわ。あなた、今おかしなところにいるでしょ?」


 ……おかしなところもなにも、どんなところがまともなのかすら分からないわけだが。

 場所? ……ああ、どっかの屋上だったんだわ、ここ。

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