プロローグ2 豊洲へ

■東京都路線車内■


「はぁー……」

「……」


 東京郊外、立川駅から乗り継いできた、有楽町線沿線の席。

 今日の目的地は豊洲。R社オフィスへ向け家を出て数時間。

 豊洲は他にも電信会社の大きな本社ビルがあったりと、オフィス街として発展しているって話だが、東京つっても家からは遠い。滅多に行く機会はない。遊ぶ場所じゃないし。

 

「はぁー……」

「アキト、しっかりしろー」

「ついていくっつったけど、内容を先に言え、内容を。あのくそムズ問題が満点!? お前の頭には新型のパソコンか人工知能でも詰まってんのか? ああ!?」

「俺だって意味分かんねーって思ってるくらいだよ。適当に書いた問題も多いし」

「適当に書いて全問正解って方がふざけてるわ……まぁついでに六条寺学校見学も出来るからいいけど」

「ほら、もうすぐ月島だぜ。帰りにもんじゃおごってやるから」

「お前におごってもらうほどカネに困ってねーから!」

「はいはいさいでした。んじゃ、パクリマの回復薬でも」

「まじ!? まだ何も分かってねーのにいいのか?」

「いーよ。回復薬くれー簡単に手に入るだろ」

「っしゃー! テンション上がるぅー……あ、すんません」


 俺たちはまだ電車の中。

 ゲームの話はテンション上がり過ぎるから禁句タブーっすわ。


■東京地下鉄豊洲駅■


 今日は日曜だが、豊洲駅は人が多い。市場が近いから無理もねーけど学生っぽいのは全然いねー。

 六条寺学校までは歩いて数分。今日は休みだからこっちは人少ねーのか。

 そっから歩いて数分で目的地だった。ナビが優秀過ぎて迷うことが無い社会ってのはいいよな。たまにでかい建物で逆走するけど。


■六条寺オフィス連動スクール前■


 目的地に到着して一言。


「でけぇ……」

「ああ……」


 これがオフィス連動スクール? 

 そこの社長が推定個人資産、んー兆円って話はまじなのか。

  

「休日だから閉まってっけど、どこから入るんだ?」

「ちょい待って。確か端末で……開けられそう」

「端末でゲート開くの? 俺も入っていいんだよな?」

「ああ。同行者入力欄あって追加しといたから平気じゃん? 周りは誰もいないよな。よし、と」

『来客者承認しました。工藤翔也様、他同行者一名以外の入場を拒絶します』

「当たり前のようにAIエーアイでしゃべるな。セキュリティーが高いわけじゃなさそうだけど」

「入口って大抵はすぐ分かる不審者や部外者を入れない最低限の警備だろ。どうせ館内付近でセキュリティーチェックあるから」


 そしてアキトの言うとおり、キビシイセキュリティチェックを済ませてようやく中へ。あー、だりぃ。

 悪人をサテライトビームで一掃いっそう排除する機能とかできねーの? 息苦しいんだよ。まじで。


「悪いこと考えてる顔してっぞ、ダッシュ」

「……世の中だりぃーなって思ってただけだよ」

「気持ちは分かるけどな。どこいってもセキュリティセキュリティってうるせーし」


 二人で愚痴ってると直ぐ人が来た。

 ここまで全部無人だったから安心するわ。


「お待たせしました。ご案内いたします」


 そしてまたもミニスカ姉ちゃん。

 自由な社風……いやここ学校もあるんだっけ。

 六条寺は衣類、髪型、髪色全て自由。

 ホワイト企業の代表格だね。

 ってすげー見て来る車椅子の女性がいるな。がん見っつかガン飛ばされてるわ。

 俺ら目立つのかな。

 問題起こさないようさっさとミニスカの後を追おう。


■Rオフィス側、厳重管理室■


「こちらが限定モデル、唯一無二ゆいいつむに! テンプルヴァイス・オメガですぅ!」

『おおおーー!』


 赤紫色の洗練されたボディ。

 全長二メートル超、大型のフルダイブ型TRティーアール機器。


「これ、マジでもらっていいんですか?」

「はい。マジです。おめでとうございまーす」

「恰好いいな……俺も塗装しよっと」

「どうです? 早速体感されていきますか?」

「いいの!? でも、うーん……」


 ちらっとアキトを見る。

 俺の方なんかまったく見てすらいねーわー。でも話は聞いてるみたいで笑ってやがる。


「せっかく来たんだ。こっちは気にせず体感してきても構わないぜ」

「いや、やっぱ止めときます。なんかずるいなって気がして」

「ああ、なんて尊い! いいわぁ……はっ!? ごめんなさい。友達思いなんですね。では送付先住所の確認を。お間違いないですか?」

「はい。合ってます」


 やってみてーけど、俺だけ先にって気はしねー。

 特にアキトとはなるべく足並み揃えてゲーム開始してーし。


 ん? 誰か入って来た。

 あれ、さっきの車椅子の人か。

 ここは障がい者と健常者が一緒いっしょに最新のゲーム開発を学べる学校だからな。

 でも、こっち側オフィスだよな。障がいを持つ学生さんに見えるけど。


「ごめんなさい。直ぐに配達する手配をしますので」

「そんじゃ失礼しま……じゃなかった、スクールの見学手続きって出来ます?」

「それでしたら入口の受付で手続きをお願いします」

「はーい、あざっしたー」


 ――――それから明人とオフィス連動スクールを見学した。

 アキトとはさらに腐れ縁になりそうだが、招来ここに入るのもアリ、かなと思った。

 見学を終えてから、その日は月島でもんじゃ焼いて、散々パクリマとテンプルヴァイスの話をしてとっとと帰ることにした。

 

■東京都立川市自宅■


 帰宅後、ロビーには親父である工藤天也てんやが待っていた。


「おかえり。ライセンス合格したって母さんから聞いたぞ。父さんにもちゃんと送ってくれよ……」

「ダッシュって呼ぶなっつってんだろ親父。あれ、そーいや伝えてなかったっけ。悪かった。合格したよ」

「それでな。母さんとも話をした結果、お前の将来を考えて高いものだが最先端の機器として買ってやろうと……」


 いやいやいや。自分でカネをコツコツ貯めて30万の半額、15万だけ用意してたんだけど。


「その件なんだけど実は無料で手に入って」

「は?」

「だから、無料で手に入りましてね?」

「……無理はせんでいいぞ。うちは金持ちじゃないが、普段、あれこれと物を欲しがらんお前が、本気で欲しいものだけは買ってやれんほどではないんだ」

「いや大丈夫、マジだから。大学も行くつもりはないよ。アキトと同じく俺も六条のオフィス連動スクールいいなって思ってる。見学してきたんだ」

「でもなぁ……」

「親父、そういうのいいって。無理せず楽にいこうぜってのがうちの家訓だって決めただろ?」

「ダッシュぅ……」

「だからダッシュって呼ぶなくそ親父!」


 親父は普通のサラリーマンだ。

 片目が見えない障がい者だが、親父は優しくていいヤツだと思う。

 自分が病気でいい学校に行けなかった分、子供には行かせたいとかも考えてたらしい。

 そんな親を見てたら反抗期すら無かった。

 でも、親父は無理して生きてるように見える。

 俺にはそんな気さらさらない。だから家訓も俺が決めた! 

 いい親父だから長生きして欲しいと思ってるよ。


「俺の出来る力でいろいろやってくからさ。親父は親父で楽しんだらいいよ」

「ダッシュ……」

「だからダッシュっ言うなっつってんたろ」

「いいだろー、俺はお前の親父なんだからな」

「いや、親だからあだ名で呼ばれんのいやなんだけど……まさかとは思うけど親父もテンプルヴァイス買うつもりか?」

「ん? んん? ……ノ、ノーコメント」

「はぁ……ナギサちゃんが角生やして怒るぞー」

「母さんを下の名前で呼ぶお前もお前だと思うんだがなぁ……ま、母さんは平気だよ。ちゃんと構ってやるからな」


 こんな感じで俺は家族との仲も悪くはない。

 勉強しろとガミガミ言うだけの親じゃないのは俺の持つ変な記憶力のお陰でもあるのかな。

 母親である工藤ナギサは親父にベタ惚れしてる。

 親父は四十代にしちゃ若すぎる見た目で渋い系じゃないガチなイケメンだ。

 俺は多分母親似だな。


「はいはい三人目はいらないからなー。ああそうだ親父。テンプルヴァイスがしばらくしたら届くんだ」

「ああ、お前の部屋は今日から一階いっかいだぞ」

「……はぁ?」

与那ヨナもそうする。父さんたちは二階使うから。ついでにキッチンも二階に移そうと計画中」


 工藤与那ヨナ。俺の妹で高校1年。妹持ちなら分かるだろうが、妹なんて大抵生意気なクソガキだ。

 仲は悪くないが趣味は合わん。 

 あいつもテンプルヴァイスの試験は合格したらしいから、そっちにカネは回してあげればいいだろう。


「親父、それってテンプルヴァイス設置しやすくするため?」

「ん? はっはっは。食卓が二階ならいい景色で飯食えるだろ?」

「景色って、隣の家見ながら飯食うのかよ。でも、悪い。まじで助かるよ」


 こんな感じで親父は気づかいもこなすやつだ。

 深い干渉もしてこない。きっと自分がそうされて嫌だったことをしないように努めてるんだと思う。


 さて、そんじゃ……テンプルヴァイス設置位置でも考えるか。

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