第五話 思うてたんのと違ーう!
状況と装備を確認した所で、リョウスケはぐるりと周囲を見渡してみた。そして眉を顰める。
「ところで、ここは何処なんだろうな。異世界…………らしいが廃墟じゃないか」
「そのようですね。フェシカも疑問に思っていたんですが………異世界ファンタジーに鉄筋コンクリートの構造物とは些か不似合いではないでしょうか?」
そう。古い知識にある所謂異世界に於いては自然溢れた風景が多かった。だが、今二人がいるのは緑薫る草原ではなく、瓦礫広がる廃墟群のど真ん中である。コンクリートから露出した鉄棒を見るに、最低でも鉄筋コンクリート構造を作る技術はあるようだ。
後は、崩れかけである高層ビル群の名残があったり、錆びてしまっているが電波塔らしき鉄塔が立っていたり、内燃機関で走ると思わしき自動車が放置されていたりとどうにも想定していた異世界ファンタジーらしくない。
「少し偵察を出してみましょうか」
フェシカはそう言うと、再び手を光らせて金属製の昆虫を作り出した。
面倒なので早い段階で電脳処理するべきですね、とフェシカが思いつつドローンを飛ばして周辺を探査することしばし。十キロほど北にそれを見つけた。
「――――これは」
「どうした?」
「これを御覧ください、マスター」
フェシカからゴーグルを渡されて、リョウスケがそれを覗いてみると。
「んん…………?」
ドローンから送られてくる映像には、街があった。それはいい。無人惑星ではないと聞いているし、ある程度文明が発達しているというのは事前情報で聞いていたから。だが、リョウスケの予想していた文明とは趣が異なったのだ。
「なぁ、睡眠学習の知識にあった剣と魔法のファンタジーにはロボットやら飛行機やらは無かったと思うんだが。後、街の周囲に空間歪曲力場発生してね?」
「そうですね。今、この惑星の組成を調べていますので少々お待ちを」
リフィールからは所謂中世ヨーロッパファンタジーと聞いていたのに、どうにも違和感が拭えない。
街の門と思わしき場所には歩哨が立っており、装備に小銃を抱えていたし、周辺にはアーマードスーツと思わしき巨体の機械が立っている。空にはジェットっぽい動力を備えた飛行機が飛んでおり、何よりも街一体を包むかのように半透明な障壁が発生していた。
魔法はともかく、剣は使ってなさそうである。
リョウスケは、ファンタジー世界と言うよりは何世紀前かの植民地惑星での前線基地のような雰囲気を感じていた。
「マスター。判明しました」
一体どういうこった、と彼が眉根を寄せていると、フェシカが告げる。
「少々不明な大気成分は混じっておりますが、データベースにこの惑星の事がありました。ここは人類発祥の地────
「
「はい。所謂
22世紀初頭に世界大戦による環境破壊と汚染のコンボで人類が住めなくなり、逃げ出すようにして太陽系の外へと飛び出した────というのがざっくりとしたリョウスケの知識だ。予想できぬ外宇宙、そして地球とは違う環境に適応するために遺伝子操作を行い、所謂
以降十数世紀程、ゆっくりとテラフォーミングしつつ再生の時を待っている────というのが彼等の認識だ。
「
「否定しますマスター。収集している情報を考察するに、一部を除いて文明レベルは産業革命後精々二世紀程度――――そうですね、西暦換算で2000年前後だと思われます。上層部が独占して自分達だけの星にするのならば、もっと栄えていてもおかしくないでしょう」
「まぁ、確かに。と言うか、だ。俺達は転生とやらをしたんだろ?」
それが何だって地球に? と首を傾げるリョウスケに、フェシカは細い指を唇に当てて考える仕草をした後。
「推察になりますが、平行世界という可能性があります」
「へいこうせかい…………えーっと、アレだ、アレアレ」
こめかみをグリグリしつつアレアレと言い淀むリョウスケを、フェシカは呆れたような目で見つめた。
「マスター? フェシカは阿吽の呼吸の通じる相棒ですのでマスターの仰りたいことは分かりますが、そうアレアレ連呼されますと健忘症発症し始めた初老みたいですよ」
「うっさい。実年齢は26だが15歳スタートだから実際41のおっさんなんだよ。えーと、あぁ、そう、エヴェレットの多世界解釈――――だったな?」
「ええ。我々のいた世界の地球、というよりは極めて近く限り無く遠い世界の地球、と考えるのが妥当でしょう。世界を隔ているのですから、
時間移動に空間的な座標が意味を持たないように、次元移動に時間的な座標は意味を持たない。故に、次元飛び越えたのならば、どの時代に出現したとしても不思議はないのだ。
「つまり、ここは地球は地球だが俺達の知る地球とは違う別世界の地球で、且つ時代もズレていて西暦2000年位だと。――――おいおい、剣と魔法の世界は何処へ行った?」
この女神の説明と食い違う状況。幾つか出来る想像はある。
一つは、リフィールが二人を騙したということ。
一つは、第三者による悪意。
前者の場合は可能性は低いとフェシカは考えた。その能力に疑問は挟まないが、どうにも性格がポンコツ臭いのだ。あれは腹芸が出来るほど複雑な性格をしていなかろう。
では後者かと問えば、これも難しい。悪意による現状ならば、もっと差し迫った状況になっていてもおかしくないからだ。
こちらが知り得ない複雑な経緯を省き、得た情報と主観、俯瞰それぞれの視点を組み合わせた場合、導き出される結論は一つ。
「結論を言いますと、あの女神――――ポカをしたようです」
第七知性は、僅かな情報で正鵠を射ていた。
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