タカマ壊滅!? 参

「PERFECT!!大成功ね!」

「やりましたね筆頭!!」


 れみ様とたつひ様が肩を組んで喜ぶ中、私とふみえ様は状況に置いていかれてあんぐりと口を開けるしかできないでいた。


「あわわわわっ。ち、父上ぇ…!」

「妖怪が喋っておる…!?」


 それも束の間。正気を取り戻したふみえ様がれみ様に詰め寄る。


「れ、れ、れみ様!?バモウさんがしゃ、しゃべ…!」

「えぇ。言葉を翻訳するItemを開発したの。遠隔信話用剛連の応用よ」


 しれっと言ってのけているけど、全く理解が追いつかない。


 何が何だかさっぱり分からないけど、バモウと話せるようになったってことでいいのよね?


「バモウ」

『如何した?』


 バモウがつけた腕輪越しに声が聞こえてくる。思ったより知的な喋り方だ。


「私は閑戸しょうこ。ふみえ様を助けてくれて、断所ん。に案内してくれてありがとう」

『当然のことをしたまでだ。其方こそ、姫様を守り抜いた働き…大義であった』

「それほどのことは…。んっ?姫様?」

「っっっ!?!?」


 その言葉にふみえ様の瞳孔が縮み、動揺と困惑が傍からでも分かるくらい表情に浮かび上がってきた。


 妖怪に姫様なんて言われたらびっくりするわよね。


『…いや、そんなはずはないな。其方の顔も、名前も、姫様と生き写しであったのでな。ついそう呼んでしまった』

「そ、そうですか…」


 ふみえ様がほっと胸を撫で下ろす。


『遠い遠い昔のことだ。生きておられるはずがない…』

「名前もってことは、そのお姫様もふみえって言うの?」

『うむ。ひどく、ひどく懐かしい。フミエ様とセイコ様…ヤマチ様と過ごしたあの日々が蘇るようだ』

「そう。…んっ?ヤマチ?そゔぇっ!?」


 私が聞くより早くれみ様が私を押し退ける。


「それって【妖魔王耶嘛血ようまおうやまち】のことかしら!?」

『今ではそう呼ばれているな』

「Amazing!!これはとんでもない証人が現れたわ!!」

「史籍の奴らにも教えてやろ。すっ飛んでくるぞぉ…!」

「これ以上ここに人を増やさないで!」


 ヤマチという名前が出た途端、懲罰房が一気に騒がしくなる。


 無理もない。天途に生きる人間でその名を知らない者はい…


「ヤマチ?なんだそれ?」


 元兄上になってくれて本当にありがとう!身内なら恥ずかしくて耐えられなかった。


「馬鹿者!それでも雪平の次期当主か!?」


 これは元父上が正しい。


「Hey!だったら一から説明するわ!」

「うぉっ!?」


 元家族の牢の前に立ったれみ様がものすごい早口で語り始める。


「妖魔王耶嘛血は二百年ほど前に天途国を滅ぼそうとした妖怪の首魁よ。数多の妖怪を率いて多くの国や村を滅ぼしたけど、最後は今の幕府の祖、松川家によって討伐されたわ!」

「お、おぅ…。そんなおっかねぇやつがいたんだな」


 れみ様によって語られたのはタカマで習う歴史と同じもの。


 今でも多くの妖怪が世に蔓延って人間を襲っているけど、それほどの大妖怪がほんの数百年前に存在していたなんて正直信じられない。


『…待て。ヤマチ様はまだ生きておられるぞ。それに、何故タカマ村の名前がない?松川と共にヤマチ様を退けたはずだ』


 けど、れみ様が語る歴史にバモウが懐疑の声を上げた。


「「「耶嘛血が生きてる!?!?」」」


 その言葉に私を含めた一同がバモウに詰め寄る。


「どういうことなのバモウ!?それと、タカマ村って何!?」

「タカマ村はタカマの前身になった場所だよ」


 代わりにふみえ様が答えてくれた。


「まだタカマが出来る前、後に初代学園長になる人が高い巫力を持った乙女達が安心して暮らせる場所として作ったの」

『あの頃は戦乱の時代だったからな。高い巫力を持つ女は捕らえられて様々なことに利用された。口に出すのも憚られるおぞましい所業にな…』


 高い巫力を持った女は狙われる。それは私自身の実感も伴う身近な話だ。 


 私もタカマに着くまでに何度か狙われたし…。


 今でもその動きが活発なのだから、戦乱の時代のそれはもっと過激だったんだろう。


「それって、タカマが耶嘛血退治に協力していたってこと?それが本当なら幕府の発表が根底から覆るわ!なるほど…だから相互不可侵協定なんて結べたのね」

「えっ!?これタダで聞いちゃっていい話!?金取れるよ!」

「翻訳装置をつけてからの会話は全て録音してあります。後で史籍にも共有しましょう」


 新しい知見を目の当たりにした理人の皆が騒ぎ出す。もしかして、とんでもない瞬間に立ち会ってる?


「それで、耶嘛血が生きているってどういうこと!?バモウ達は耶嘛血の命令で心努を襲ったの!?」

『違う』


 私の問いにバモウは首を横に振る。


『まずここを襲った件だが、あれはクダパが先走っただけだ。地上の奴らに「挨拶」してやろう、とな』

「バモウさんはどうして一緒に?」

『奴を止めるためだ。時代錯誤の妄執に無関係な人間達を巻き込むわけにはいかなかったからな』


 よく分からないけど、バモウにはバモウの考えがあるみたい。


『次にヤマチ様の命でという件だが、今のヤマチ様にそのようなことはできぬ。生きてはいるが、肉体を封印されているからな』

「封印!?」


 これに食いついたのはたつひ様とひろみ様。


「その話、仔細をお聞きしても?」

『どこから話せばいい?』

「もち最初からでしょ〜。あんたらがどこの誰かってとこからよろしくねぇ」

『では、我ら「耶聞やもん」のことから話すとしよう。我々は…』


 バモウがゆっくりと語り始め、これから悠久の時を渡る長い船旅が始まろうとしていた…その時だった。


「よーす!…うっわ、大所帯だぁ」


 懲罰房にうみか様が入ってきた。


「学園長から通達。全員各自の寄合所に戻ること、だって」

「なんだろ?」

「何か大事な話があるのかもしれませんね」


 突然のことに顔を見合わせる私達。一方のれみ様達はとても悔しそうに地団駄を踏んでいた。


「shit!!これからって時にぃっ!」

「ひとまず帰りましょっかぁ」

「Non!こうなればワタシだけでもは…」

「有事に筆頭不在となれば筆頭補佐からの突き上げは避けられないかと…」

「ぐぬぬ…!!バモウ!話はまた今度にしましょう!また来るからね!!」


 それだけ言い残すとれみ様は怒り心頭といった足取りで帰っていく。


 それに続いてたつひ様とひろみ様もいなくなり、ようやく静かで厳かな懲罰房が戻ってきた。


「えぇ…。また来るのぉ」

「よく分かんないけど、いっそバモウ釈放させちゃう?」


 そこの二人よりはましかもと思ってしまった。





「避難訓練!?」


 学園長が飛ばした伝令の剛連から伝えられたのは思わぬ催しの告知だった。


『先日お話した通り、有事に備えるための避難訓練を本日実施することが決まりました』

「また随分と急ですね」

『皆様が普段より備えを怠っていないかを確認するためです。これより、各学家の寮地に妖怪役の生徒が現れます。皆様はその生徒から逃走し、所定の避難所に集合して下さい』


 急なことに驚いたけど、内容自体はそこまで突飛なものじゃない。


 妖怪役の生徒って誰かしら?妖怪のふりをするんだからそれなりに強い子が来るはず。


『無事に避難しきれば皆様の勝ち、半数以上の生徒が犠牲になったと判断されれば妖怪側の勝ちです』

「…んんっ??」


 それはもう避難訓練ではなく陣取り合戦では?


『そしてこの方が、妖怪役として心努に侵攻する生徒です』


 剛連の体から先端に紙を挟んだ腕のようなものが伸びる。


 その紙を見た私達は…


「えぇっ!?」

「嘘だろオイっ!?」

「終わった…」


 揃って言葉を失った。だって…




 頭に鬼の面をかけたりずが描いてあるんだもの。






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