タカマ壊滅!? 弐
朝餉を済ませて囚人に振る舞う朝餉を持ち、ふみえ様と共に昨日ぶりに懲罰房を訪れる。
入り口を抜け、中に入ろうとしたところで朝から元気そうな声が聞こえてきた。
「父上!父上!妖怪がこっちを見ていますよぉっ!!」
「あの目は飢えた獣の目!儂らを喰らいたくて辛抱ならんのだ!」
『ガダバダビダブデグバパバギギ』
「父上こいつ煽った!!」
バモウと一緒に閉じ込めているおかげで大人しくしているのは好都合。
「そこでお待ち下さい」
「うん…」
ふみえ様を入口の前で待たせ、私は三人の前に姿を現す。
「ご機嫌よう。バモウ」
『ゴヂデルプグ』
バモウが軽く頭を下げる。多分ご機嫌ようって言ったんだろう。
「うおぉっ!!飯!早くよこせ!!」
小窓から盆を入れると、二人は我先にと朝餉に群がり何を言うでもなく食べ始めた。
バモウは両手を合わせてからゆっくり食べている。
普通逆じゃない?
「うめぇ!銀シャリうめぇ!!」
「お前、毎日こんなものを食っているのか?」
「はいっ。ち…あなた達は食べていないんですか?妖怪退治屋をしているはずでしょう?」
「うむ…。退治が進んだせいか、妖怪共も強いものしか残らなくなってな。全く歯が立たず家計は火の車なのだ」
朝餉を食べながらバツが悪そうに目を背ける元父上。
この二人は心配いらなさそうだけど、まだ小さい弟達がひもじい思いをしているのは少し心が重い。
「そんなことはよい!いつになったら儂らを解放するのだ!?説得は進んでおるのだろうな!?」
「何度も言わせないで下さい。賊にそのような便宜を図る義理などありません」
「なぁっ!?俺達はお前の家族だぞ!?」
「勘当を言い渡され、雪平を出た私の家族は姉様だけ。沙汰が下るまでここでお待ちを」
「クソがぁっ!!」
冷静に返したのが癪に障ったのか、元兄上は食べ終わった茶碗を牢の壁に叩きつける。
粉々になった茶碗の破片が四散し…
「あいったぁ!?」
「いったぁっ!?何をしておるのだ馬鹿者!!」
二人に刺さった。何やってるんだか…。
「話は以上です。食べ終わったなら食器を返して下さい」
「なんで…なんでだよ!?なんで真っ当に働いていた俺達はこんなとこに閉じ込められて、八千代を見殺しにした出来損ないのお前が幸せそうに生きてるんだよ!?」
「っっ!?」
元兄上から発せられた言葉は人の心を無慈悲に刺し貫く悪意に満ちたものだった。
姉様が死んでから何度も言われた言葉。それを聞く度に私は胸が張り裂けそうになって蹲ったものだ。
けど、
「…?」
不愉快だと思うだけでかつてのような衝動的な悲しみはやってこなかった。
少し前までは悲しくて耐えられなかったのに、一体どうなっているのかしら?
「ふんっ!お前がどれだけご立派になろうと、八千代を死なせた事実は変わらんぞ!」
呆然とする私を見て言い負かしたと思ったのか、元兄上は更にまくし立てた。それを聞いた元父上も何故か優しげな口調で話し始める。
「翔子。お前を勘当したこと、心から後悔している。そもそも、儂は大事な娘を放り出すことに反対だったのだ。全ては妾の子が我が子よりも強いなど示しがつかぬと騒いだはるが画策したこと。そんな折にお前が戦えなくなり、やむなく勘当せざるおえなくなったのだ…」
「…話が見えないのですが」
「一昨日の戦いぶりを見て確信した!今の雪平にはお前が必要だ!儂らと共に帰ろう!そして共に雪平を盛り立てていこうではないか!翔子!!」
つまり、私に帰ってきて欲しいらしい。勘当しておいて随分と身勝手な…
「何を申すのです父上!?時期当主は俺だと仰ったではありませぬか!」
「妖怪から逃げ帰ったすくたれ者(臆病者の意)が何を言う!?貴様が強ければ断所ん。漁りなどせんでよかったのだ!」
「断所ん。の妖怪から逃げ回ってた父上には言われたくありませぬー」
「それは貴様もであろう!?」
私そっちのけで不毛な言い争いを始める二人。
育ててくれたことには感謝しているけど、こんな人達が家族だったなんてやっぱり実感が湧かないわ。
せめて弟達は立派に育つことを祈ろう。
そう思いながらバモウの食器を片付けていると、後ろでものすごい音がした。
「っ!?」
『ヂベガバ!?』
振り返ると、そこには懲罰房の壁を殴りつけ、二人を睨むふみえ様の姿が。
「囀るな下郎共」
「「ひぃっ!?」」
あまりの恐ろしさに身を寄せ合って抱き合う二人。
その怖さはかつて夢で見た姿と同じ…いや、それ以上。牢がなかったらバモウの背に隠れていたかも。
「また戻ってこい?お前が必要だ?やちよ様を亡くしたしょうこちゃんがどんな気持ちだったか考えもせず、身勝手な都合で振り回しておいてよく言えますね」
どすの利いた声で淡々と述べながら牢に近づき、屈んでへたり込む二人と視線を合わせる。
その表情は怒りを超越した無。目の前の二人を地面にぶち撒けられた酔っ払いの置き土産だと思ってないとできない顔だ。
「その舌、何枚あるんですか?」
「はへっ?」
「何枚あるのかと聞いている!!」
「はいぃっ!一枚!一枚ですぅっ!!」
家ではいつもえばり散らしている元父上がまるで幼子のように縮こまる。あれと向かい合ったら私でもそうなる自信がある。
「…あれ?」
ふみえ様が怖くて思考からすっぽ抜けていた言葉が冷静になってきた頭に去来する。
今、やちよ様をなくしたって言わなかった?
「ご覧の通り、貴方がたが勘当したしょうこちゃんは今や立派な心努の一員。タカマに来てまだ一月と経ってはいませんが、今や欠かすことのできない大切な生徒となりました」
きっぱりとそう告げるふみえ様に自然と胸が高鳴る。
ふみえ様、そんな風に思ってくれてたんだ。
「だから、しょうこちゃんを勘当し、手離してくれたことを心から感謝します。おかげで…」
そこで言葉を切り、私に手招きする。何事かとふみえ様に近づくと、元父上達に見せつけるように抱きついてきた。
「なぁっ!?」
「こんなにかわいくて素敵な妹に巡り会えたんですもの!!」
「はぁっ!?い、妹っ!?」
「知らん!お前のような娘知らんぞ!!」
元父上…、妹というのは血縁の話じゃありませんよ。まぁ、タカマの制度を知らなきゃ戸惑うのも無理ないわよね。
「Good morning!!」
ふみえ様が煽ったおかげで剣呑な空気が流れる中、全く空気を読む気がないれみ様の陽気な声が懲罰房に響く。
たつひさんとひろみさんも一緒だ。
「どもどもー」
「お邪魔します」
「ふみえ達も来てたのね!…誰これ?」
「知らない人です。ねーっ?」
「はいっ」
「翔子ぉっ!?」
元父上の悲痛な叫びを全く意に介さず、れみ様は持ってきた鞄から何かを取り出した。
小さな青い輪っかだ。
「ごきげんようバモウ!今日はあなたにいいものを持ってきたわ」
「ちょっ!?勝手に開けないで下さい!」
ふみえ様の制止を無視してバモウがいる牢に入り、バモウの右腕にその輪っかを巻く。
『…?』
「よしっ。バモウ!何かしゃべって頂戴!」
意図が分からないのか首を傾げるバモウ。多分、理人の人達以外は皆分かってないだろう。
しばらく黙っていたバモウだったけど、意を決したのかぎらりと光る牙が覗く口を開いた。
『旨し糧を、いつもありがとう』
「「し…しゃべったぁーーっっ!?!?」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます