タカマ壊滅!? 肆

 某時刻 某所

「反省文だけなんて軽いなぁって思ってましたけど…」

「まさかこないなこと押し付けてきはるとは…」


 先日、断所ん。に無断で突入した咎で反省文を書かされた私達。


 その翌日に学園長から告げられたのは罰としての奉仕活動。


 内容は【避難訓練の妖怪役】だった。


「佐武頼は誰がしはるんどすか?」

「佐武頼は壊滅した想定で進めるそうです」

「えらい高う買ってくれはりますなぁ」

「私達が負けたから逃げの一手を打つように、ということかもしれませんね」


 私がそう言うと、ゆえ様はきょろきょろと辺りを見回した。


「りずはんがおらんようどすが…」

「心努に先乗りしたのかもしれませんね。今頃はお茶を飲んでいるかもしれません」

「ほんに自由な子どすなぁ」


 ゆえ様が呆れたように肩を竦める。たまに突然いなくなって困ることもあるけれど、そこもかわいいんです。


「では、そろそろ参りましょうか。ゆえ様は理人を、私は阿婆羅堂をやります」

「他の学家の寮地で暴れられるなんて…腕が鳴りますわぁ」

「ですね。他の学家の子は、どれだけ強いんでしょうか…」


 どうやら、先日の妖怪との戦いで私もかなり気が高ぶっているらしい。


 他の学家の生徒と手合わせできる千載一遇の好機に、まるで恋する乙女のように胸を高鳴らせているのだから…!!


「ほな、妖怪役は妖怪役らしく…」




「「」」




 理人寮地内 某所



 唐突に始まった避難訓練…。それも大事ではあるんだけど、


「ふうか〜。そろそろ機嫌を直して頂戴」

「…」


 little ladyのご機嫌取りにも奔走中だ。


「自分だけいい思いしていた筆頭様なんて知りませ〜ん」

「だーかーらー!何度も言ってるでしょう?相手は危険な妖怪と【断所ん。】よ。子供を連れていけるわけないじゃない」

「わたしだって筆頭補佐です!こんな時だけ子供扱いしないで下さい!」


 Ah~、完全に拗ねちゃってるわね。


 ふうかの言い分も分からなくはない。確かに、ふうかは筆頭補佐としてよくやってくれている。


 経理や事務処理はお手の物。ワタシの私生活だってもうふうかなしじゃ考えられない。


 けど、それはそれ、これはこれだ。


 どれだけ優秀であろうと本来なら入学可能年齢にすら達していない子供。妖怪がいる場所に連れて行くわけにはいかない。


 でも、今この時は別。避難訓練ならふうかにもあれを任せられそうね。


「OK!じゃあ重大なMissionを任せてあげる!」

「重大な任務?」

「赤使ふうか!あなたには筆頭代理として理人生と研究Dataの避難を命じるわ!」

「わ、わたしが筆頭代理!?」

「これは筆頭令!拒否権はないわ」


 さっきまでの拗ねたladyはどこへやら。産まれたての子鹿のようにプルプルと震え始める。


「れみ様はどうするんですか!?」

「妖怪の捕獲Simulationをするわ!バモウのようなsampleは多いに越したことはないからね」

「ほ、捕獲ぅっ!?無茶です!訓練じゃなかったら死んじゃいますよ!」

「えぇ、そうね。でも、これは訓練。だからどこまでやれるか試すの。あなたも、ワタシもね」


 そこまで言ってふうかに近づき、両肩に手を置いて視線を合わせるように屈む。


「筆頭になったつもりで指揮を執りなさい。今は間違ったって誰も死にはしないわ」

「…」


 ふうかは思い詰めたような表情で目を逸らす。子供扱いするなっていうから思いっきり任せてみたけど、ちょっと意地悪だったかしら?


「…やっぱりワタシがやるわ。今の話はわす…」

「やります!!!」

「Oh!?」


 あまりの大声に思わずひっくり返ってしまう。


「ったぁ…!」

「れみ様!?すすすすみません!!」

「どういう風の吹き回し?不安じゃなかったの?」


 そう問うと、ふうかは俯きがちにぽつり、ぽつりと話し始める。


「確かに、訓練とはいえ筆頭代理なんてすごく荷が重くて緊張します。だって、これが本番ならわたしの指示が原因で人が死ぬかもしれないってことじゃないですか…」


 訓練だからと慢心せず、本番を見据えて物を考えられるなんて…。やっぱりこの子は聡い。


「でも、れみ様が…お姉様がわたしを信じて任せてくれるなら―――わたしは、その信頼に応えたいです」

「oh…。成長したわねふうか」

「だから子供扱いしないで下さい!」


 正直、ワタシとの姉妹関係をそこまで大事に思ってくれているのは予想外だった。


 ワタシとしては後見人のようなものだと思ってたけど。


「OK!じゃあ任せたわよ!ふうか!」

「はいっ!」


 勢いよく頷き、駆け出すふうか。


「理人のFutureは明るそうね…」


 来年の理人にワタシはいない。でも、ふうかがいる。


「すぐに筆頭は荷が重そうだし、誰かいい中継ぎいないかしら?いっそきりこを…それは無理ね」


 新しく生まれた難題を一旦胸にしまい、拳砲を立ち上げて信話を開始する。


「Hey!そっちは準備できた?…OK!じゃあ、Mission start!!!」



 阿婆羅堂 白蓮会筆頭室


「佐武頼との合同調査の結果、心努以外の寮地での断所ん。並びに妖怪の住みかに適した洞窟や地下道等は発見できませんでした」

「ありがとう。短期間でここまで調べられるなんてすごいわね…」

「あ、ありがとうございます!!」

「こんな時に引き止めてごめんなさい。ひかるも持ち場について」

「はいっ!」


 報告を終えたひかるが筆頭室を後にする。


 受け取った資料に目を通すと、佐武頼の生徒達と共にタカマ中を調べ歩いた調査結果が仔細に綴られていた。


 あの子の捜査能力には脱帽ね。


「さっすがひかっちゃん!けいちゃん的にどうよ?」

「仕事の速さと丁寧さは目を見張るものがあるけど、筆頭の後継という意味なら難しいわね。補佐なら適任かもしれないわ」

「あー、はいはい。わかってたわかってた」


 かいりは心底つまらなさそうにため息を吐いて肩を竦める。そういう意味じゃなかったのかしら?


「妹としてどうかってこと。あんたなら二つ返事だと思うよ」

「一年にも満たない姉妹関係なんて相手に申し訳ないわ。ひかるはいい子なんだから、もっといい人がいるはずよ」

「…なわけねーだろ」


 何か呟いたようだけど、小さくてよく聞き取れなかった。


「それで?進捗はどう?」

「会長達の尽力で非戦闘要員の避難は完了。実行部隊は全員持ち場についてる。いつでも動けるよ」

「それは重畳…」


 報告を終えたかいりは腑に落ちないといった表情で私を見る。


「何?」

「けいらしくないなってね。いつもなら逃げの一手でしょ?」

「そうね。自分でもそう思う」


 筆頭の使命は教員達と共に学家の平和と生徒を守り、学家の生徒達が安全で楽しい学家生活を送る手助けをすること。


 そう考えると、今からやろうとしていることはそれに反すると言っても過言じゃない。


 これが本番なら、私のこの判断で大勢の人間が死ぬかもしれないのだから。


「でも、これはあくまで訓練。だからこそ、やれないようなことをやっておきたいと思わない?」

「なるほど。しっかし、随分思いきったもんだねぇ…。妖怪役を寮地に閉じ込めて足止めするなんて」


 そう。今回はただ避難するだけじゃない。


 妖怪役が他の学家や校街に行かないようここで足止めできるか試してみようと考えている。


「被害がうちだけなら逃げれば解決するわ。でも、タカマ全体の危機ならそうもいかない。皆を守る、被害を食い止める。両方やってこその筆頭よ」


 そう言うと、かいりは肩を落として渋い顔をした。


「それに付き合わされる身にもなりなって。絶対逃げるよりめんどいやつじゃん」

「頼りにしているわよ。筆頭補佐様」

「避難してぇ…」


 訓練だからこそ恐れずにやれる、訓練だからこそ大胆な手も取れる。


「あっ、そうそう。【あれ】も使うから準備しておいてね」

「…マジ?」

「えぇっ…」





「一度使ってみたかったの!」

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