閑話 次なる研究対象

「ふぅっ。えらい目に遭ったわ…」


 ふうかに筆頭屋敷から叩き出され、研究室で寝ざる終えなくなったワタシは一人ごちる。


 あの後、ふみえの要求するブツを集めるために方々を駆けずり回ったり、顛末を知ったふうかにものすっごく怒られたりと全くいいことなしだ。


「それで得られたのがこれ…。割に合わないわ」


 手元にあるのは閑戸しょうこのPersonal data。巫力量は目を見張るものがあるけど、特に興味を惹かれる項目はない。


「徹夜続きだったし、今日は早く寝ましょう」


 今日と言う日を忘れるには眠るに限る。そう思ってソファに置かれた本や紙を押しのけていると拳砲が信話の着信を知らせた。


 相手は今日一緒に実験していた妖学科のたつひ。


「Hey!たつひ!さっきはよくも…」

『筆頭!今すぐ地下ラボ来て下さい!ぶったまげますよ!!』





「それで?何があったの?」


 天井をぶち抜かれて風通しが良くなったLaboを訪れると、今日の実験に参加していたメンバーは既に全員集合していた。


「ご機嫌よう筆頭!これですよこれ!!」


 たつひが焦った様子でワタシに一枚の紙を渡す。それは妖学科が合同研究している人間の体内を観測する写真、透身機とうしんきの写真だった。


「あんっ?…っっ!!!」

「ねっ?ぶったまげたでしょ?」

「これ、誰の…?」

「閑戸しょうこですよ。データ取ってた時にちょちょーっと撮ったら…これです」


 そこに映し出されていたもの。それは長いこと巫術の研究に携わってきたワタシですら見たことのない丸っきりの未知だった。


「何よ、これ…?」

「写真の位置からして恐らくは子宮内。これが何かは現時点で持ちえる情報では何とも言えませんが、普通に生活できていることが奇跡と呼べる状況にあるかと」


 たつひが持ってきた写真に映っていたもの。


 それは、しょうこの体内に丸まった形で納まっている縄のようなものだった。


 しかもこの縄、先端部分が鞠のように丸くなっていて、中頃と尾の部分から小さな枝のようなものが生えている。


 その形はまるで人間の頭と手足のよう。


「この写真、誰かに見せた?」

「外部への口外は控えた方が最適かと判断し、実験に参加した方々以外への公表は行なっておりません」

「Niceよひろみ!現時点を持ってこのData、及び今後発生する知見は全て筆頭であるワタシが預かるわ。そしてあなた達にはワタシの許可なくこの研究を口外、公表することを禁じます。これは筆頭令よ」

「心得ました」

「そりゃ公表できないでしょうよ」


 まさか今日と言う日が終わる直前でこんな僥倖が舞い降りてくるなんて!あぁっ!!今日はなんといい日なのかしら!?





「さぁ!研究開始よ!!」

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