学家へ行こう 肆
「はい。納品、確かに承りました」
みつね様の案内でやってきたのは寮地の一角にある椿会と書かれた看板がかかった大きな商屋。
そこにいた生徒に野菜を届けることで無事納品は完了した。
「ありがとうございます。みつね様」
「気にしないで。帰るついでだもの」
「帰る?」
「そういえば言ってなかったわね。私、椿会の会長なの」
「会長さん…。えっ?えぇっ!?」
それがどれだけすごいかは分からない。
けど、これだけ大きい建物の会長ってことは相当偉い人なんだろう。
「会長さんって、筆頭とどう違うんですか?」
「そうねぇ…。簡単に言うと、阿婆羅堂には椿会以外にも似たような商会がいくつかあるわ。そこの会長はこの赤を羽織ることが許されるの」
「そうなんですか…」
「それで、全部の商会を束ねてるのが代々筆頭が会長を務める白蓮会。そこの会長兼筆頭だけが緑を羽織ることを許される。ここで緑を羽織ってるのはけいだけよ」
どうしてみつね様とけい様は赤と緑なのかと疑問に思っていたけど、そういうことだったのね。
「とても名誉な羽織なんですね」
「そっ。私が羽織ったら重すぎて倒れちゃう」
「あははっ…」
そう言って戯けたように倒れるふりをするみつね様。
なんだか、掴み所がない人ね。
「みつね様。本日はありがとうございました」
「どういたしまして。お仕事、頑張ってね」
「はいっ!」
「今度会ったら食事に行きましょう。ふみえに内緒で、ねっ?」
「えぇっ!?」
「あははっ!冗談よ」
みつね様に見送られて阿婆羅堂を後にする。
理人の納品が終わったらお土産を買いにまた来よう。
そんな密かな楽しみを胸に抱いて。
「えっと…何?この、何?」
初めて訪れた理人の寮地は…まるで異国の街のようでした。
阿婆羅堂にもあったような木造の家屋もたくさんあるんだけど、石のようなものや煉瓦でできた建物も所狭しと並んでいる。
都ともまるで違う街並みにも圧倒されるけど、もっと異様なのが街中で活動する剛連達だ。
道の清掃や伸び過ぎた雑草の除去、家の窓拭きなど色んな仕事をこなす剛連がそこかしこで働いている。
理人の生徒達がそれを気に留める様子はなく、これが理人の日常なのだと察せられた。
そう言えば、心努にも草刈や水やり、カカシの代わりに田畑を守る剛連がいたっけ?
「ふうかちゃん様〜。準備できたよー」
「ありがとうございます。ではこれより
「イェーーっ!!」
「よっ!待ってましたぁ!」
聞き覚えのある声に振り返ると、近くの広場に小さな女の子がいた。
確か筆頭補佐のふうか様?だっけ?
ふうか様の周りには何人かの理人生がいてその下には人型の剛連が横たわっている。
「ふうかーー!Fightingーー!!」
「恥ずかしいからやめて下さい!!」
最前列で声援を贈るのは筆頭のれみ様。この人は印象が強すぎてよく覚えている。
「では…。転心!剛連!!」
ふうか様が横たわる剛連に向けて叫ぶ。最初は何も起きなかったものの、変化は突然現れた。
「…」
「よっと」
ふうか様の体が糸の切れた人形のように力なく倒れ込んだのだ。
それをれみ様が抱き留めて剛連に視線を戻す。
すると…
『ふぅ。転心は成功、ですね』
動かなかった剛連が起き上がった。それを見た理人生達から歓声が上がる。
よくわかんないけどすごい…!
「体はどう?」
『意識した通りには動きますけど、少し時間差があって動きも重いですね。鎧を着ている気分です』
「FeedbackにTimeragがあるみたいね。一番の課題は転心だと思ってたけど、そっちが片付くなんて予想外だったわ」
「ふうかちゃん様毎日頑張ってましたから」
「流石剛連科期待の星!」
『えへへっ』
剛連をふうか様と呼んで褒めそやす光景に言いしれぬ恐怖を覚え、背筋がぞわりと震える。
「行きましょう。苹果」
「キュッ!」
早いところ退散して納品を終わらせよう。
そう思って歩き出そうとした矢先、れみ様と目が合った。
絶対悪いことを考えている顔って、あんなのを言うんだろう。そう思うくらいにやりと歓喜に顔を歪ませたれみ様が私を指し示す。
「ふうか。GO!」
『えっ?あぁっ!えーーっと…そうだ!しょうこさーん!!』
すると剛連が私の名前を呼びながら歩いてきた。
「ひぃっ!?」
『ご機嫌よう!…あっ、この格好じゃ分かりませんよね?赤使ふうかです!理人の筆頭補佐の…』
人型の剛連からくぐもった女の子の声がする。その声は確かに会議の時に聞いたふうか様の声そっくりで…
「ご、ご機嫌よう。えぇ、覚えてます。でも、ふうか様はあそこに…」
『一応四年生なので同級生ですよ』
「あっ、そうなの…。ところで、その姿はいっ」
一体なんなの?
そう聞こうとしたまさのその時、ふうかさんと名乗った剛連が突然倒れた。
「えぇっ!?ちょっ!?ふうかさん!!」
慌てて抱き起こすも当然息もしてないし脈もない。
「まさか、死…」
「接続が切れただけよ。ねっ?ふうか」
「はいぃ…」
剛連を抱える私の前にふうかさんをおんぶしたれみ様が現れる。元気がなさそうだけど命に別状はないらしい。
「巫力の消費が想定以上に激しいわ。燃費の改善も今後のThemeになっていきそうね」
「課題は山積み…。でも、燃えてきました…!」
力なく握り拳を作るふうかさん。小さくて愛らしい見た目に似合わずとても熱心な努力家のようだ。
「あのっ、ふうかさんは大丈夫なんですか?」
「巫力が切れただけよ。…Hey!!」
れみ様が声をかけると成り行きを見守っていた理人生達が集まってきた。
「ふうかを部屋に送ってあげて。剛連もね」
「はいっ!」
れみ様からふうかさんを預かった理人生達は落ちていた剛連も回収し、落とさないように慎重に抱えながらその場を後にする。
残されたのは私とれみ様の二人っきり。
「しょうこ、だったわね?」
「はいっ」
「理人にようこそ。その荷物、もしかしておつかいか何か?」
「はいっ。野菜の追加納品に参りました」
「ふーん…」
れみ様は意味ありげな視線を私に向け、すぐにぱっと笑顔を見せた。
でも、さっきの悪い笑顔や会議の時の破天荒な振る舞いのせいで思わず身構えてしまう。
「OK!そのMission、手伝ってあげるわ。その代わりと言ってはなんだけど、後でBreak timeに付き合ってくれないかしら?」
「えっ?えっと…」
ぶれ…がなにかはわからないけど、この人と二人きりはちょっと怖い。だって、何が起きるかわかんないんだもん。
でも、手伝ってくれるのはありがたいし、お仕事もこれで終わりだから時間もある。
考え方を変えれば筆頭の口から理人のことを聞くいい機会かも。
「…はいっ!お願いします!」
学家へ行こう 伍
https://kakuyomu.jp/works/16818093087091573734/episodes/16818093088471497883
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます