祝(はふり)の御子 陸

「…そっか」


 姉様との思い出が増えることはもうない。でも、思いを馳せればいつでも思い出せる。


 もう二度と帰れない輝かしい日々。


 私が殺した最愛を。


「おーい!」


 戸の外からからうみかさまの声が聞こえてきた。


「契りたてだからってイチャコラしすぎんなー」

「はーい!じゃあそろそろ行こっか?」

「えっ?は、はいっ…」


 私の手を取って内鍵を開けるふみえ様。


 閉じられた部屋に長いこと籠もっていたからだろうか?


 その手は少し汗ばんでいた。




「う…美しい!」


 巫女装束を纏ったふみえ様がりず達を祈祷するべくよく通る綺麗な声で祝詞を読み上げる。


 その姿はさながら初詣や祭りの日に神社で見る敬虔な巫女さんのよう。


「しょうこちゃん!」


 あまりの美しさに目を奪われていると祝詞を読み終えたふみえ様が私を呼ぶ。


「はいっ!」

「おーおー。嬉しそうに尻尾振っちゃって」


 うみか様の野次に送られながらふみえ様のもとに駆け寄る。


 私も巫女装束を着ているけど当然祈祷の知識なんてない。


 でも、ふみえ様は折角だからととある仕事を任せて下さった。


「どうぞ!」

「ありがとう!」


 それは、御神楽舞に使う神楽鈴を渡すことだ。


「折角だし、しょうこちゃんも舞ってみない?」

「えぇっ!?む、無理ですよぉっ!踊ったことなんて全然ないし、巫女さんでもないのに舞ったら罰が当たります…!」

「わたしだって巫女さんじゃないよ?」

「それはそうですが…」

「誰だって最初は下手なんだし、気にしちゃ損損♪お姉様がんみっちり教えてあげるからさぁ…」

「ひゃっ!ふみえ様!どこを…ひんっ!!」


 ふみえ様は親切で教えて下さっているんだろうけど、皆が見てる前で変なところを触られるのはすごく恥ずかしい!


「…」

「ふふっ。見せつけてくれるわね。私達もやってみる?」

「…!?」

「イチャつきすぎだぞー!もっとやれーー!」

「あうぅ…」


 飛び交う野次に顔から熱が噴き出す。


 からかわれて居心地が悪いけど、ふみえ様が楽しそうならそれでいいかな?


「はいっ!スロースロークイッククイックスロー」

「す…?」

「みつね様直伝の異国の舞だよ」

「わたし達の祈祷、完全に忘れられてるわね…」

「…」


 楽しそうに笑うふみえ様を見ていると胸の奥が暖かくなってくる。


 多分、私はもう二度と姉様に会えない。


 人を殺した罪人が極楽になんていけるわけがない。


 死んでも、生まれ変わっても、私が姉様に会える日はきっともう来ない。


 でも、ふみえ様は違う。


 ふみえ様が天寿を全うされた時、きっと向こうで姉様に会えるだろう。


 その時にたくさんの土産話ができるようにこれからもこの人を守っていきたい。


「…」

「流石りずちゃん。そうよね。舞ってもらえないなら自分でやればいいのよね」

「何その珍妙な舞!?」


 願わくば、この人達が心から笑えるこの日々が少しでも長く続きますように。







【★あとがき★】


 本作は

 百合と女学園と疑似姉妹ものが好き!

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 という方には特におすすめです


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