祝(はふり)の御子 参

「きゃあーーーっっ!!りずちゃん久しぶりぃーーー!!」


 真っ白な髪の女の子に抱きついて頬擦りしているふみえ様の姿があった。


「…はっ?」

「相変わらずかわいいねぇ~。真っ白さらさらだねぇ~」

「…」

「いつ帰ってきたの?なつみちゃんは一緒じゃないの?」

「…」


 無表情でされるがままになっている白髪の女の子。


 でもふみえ様に抱きついてるから嫌じゃない、のかな?


 その身に纏うのは昨日見た佐武頼の制服。佐武頼の人なのかな?


「えっと…」


 どうやら敵じゃないらしい。


 刀から手を離し、ふみえ様の気が済むのを待つ。


 一通り女の子を堪能したふみえ様は女の子を腕に抱いたままほくほく顔で振り返った。


「ごめんごめん。久しぶりに会えたから嬉しくなっちゃって」

「お知り合いなんですか?」

「うん。この子は永多ながたりずちゃん。佐武頼の筆頭さんだよ」

「筆頭さん、ですか…」





「筆頭おおおおおおおおおおおっっっ!?!?!?」




「…」

「食いっぷりは健在みてーだな」

「本当久しぶり。十年ぶりに会った気分だよ」

「おかわりいる?」

「…」


 心努に戻り、学校の食堂で遅めの朝ご飯を食べる。でも、食べるのは私達だけじゃない。


 何故か佐武頼の筆頭、りず様も一緒だ。


「ほぁ~。佐武頼の筆頭様だぁ~」

「なしてこったらとこに?」

「美しかぁ~。お姫様みてぇだ」


 下級生達がりず様を一目見ようと食堂の前に続々と集まってくる。


 確かに、りず様はとても目を惹く容姿をしている。


 腰まで伸びた雪兎のように真っ白な髪に凍りついた湖畔のような澄んだ水色の瞳。


 神秘的な見た目と完璧な所作で尋常じゃない量の食事をとる様、そして身に纏うただならぬ雰囲気も相まってまるで神の御使いか何かなんじゃないかとすら思えてしまう。


「りず様、すごく馴染んでいますね」

「一年生の時はうちの生徒だったからねぇ。後、りずちゃんは四年生だよ」

「そうなんですか。…はぁっ!?」


 元心努!?私と同級生!?


 唐突に叩きつけられた情報に混乱する私を尻目に何杯目になるか分からないおかわりを要求するりず様、改めりず。


 きりこ様もよそうのを諦めておひつごと渡したけどそろそろなくなりそうな勢いだ。


「四年生で筆頭!?いえっ、それよりも…元心努ってどういうことですか!?」

「三年生までなら転家できるんだよ。けい様って覚えてる?」

「えぇ。阿婆羅堂の筆頭ですよね?」

「けい様もうみか様とやちよ様の同期だったんだよ。きりこちゃんだって理人からの転家生だし」

「ここから筆頭二人が…」


 心努って、すごいところなのかな…?


「筆頭様は佐武頼の筆頭様のお知り合いなんけ?」

「やっぱりお姫様なんじゃろか?」


 話を聞きつけた下級生達がふみえ様のもとに集まってくる。


「んー、どうだったかなぁ?でも、お姫様に見えるんなら佐武頼冥利に尽きると思うよ」

「なして?」

「佐武頼が目指すのは文武両道。だから武術の腕だけじゃなくて礼儀作法とか和歌や琴、舞といった教養も深めていくの。お姫様に見えるのはりずちゃんが佐武頼で努力した証だよ」

「ぶんぶりょーどー」

「かっけぇ…!」


 ふみえ様のお話に目を輝かせて聞き入る下級生達。


 姉様は一番強い人が筆頭になるって言っていたけど、それだけじゃ駄目なのね。


「…」


 ふみえ様の話が聞こえていたのか、りずは誇らしげに胸を張る。


 さっきから気になっていたけど、りずは初めて会ってから今まで一度も喋っていない。


 仕草から何を考えているか大体分かるけど、もしかして口がきけないのかしら?


「…」


 ようやくお腹いっぱいになったんだろう。


 おひつを空にしたりずは満足げに手を合わせると壁に立てかけていた刀を腰に差して食堂を後にした。


「帰ったんですかね?」

「うーん。多分外だと思う」

「…はい?」

「ついてくればわかるよ」


 そう言うふみえ様の先導で食堂を出ると、りずの姿は学校のすぐ外にあった。


「…」


 外で日向ぼっこをしていた金比羅歯の背中に。


「あいつ飯食ったらいっつもこぴで寝るんだよ」

「本当自由人よねぇ~」


 昔のりずを知っているうみか様達が懐かしそうに語る。


 金比羅歯の背を布団に気持ち良さそうに風に揺られるその姿は私達と同じ女の子にしか見えない。


 この子が佐武頼の筆頭、タカマの生徒の頂点…!


 それを意識した瞬間、右腕にかすかなざわつきが走る。



 ”そのために、今よりももっと強くなります”



 ついさっき私が言った言葉だ。そう誓ったからこそ知りたくなる。


 自分が今どれほど強いのか、【】相手にどこまでやれるのか…


「りず」


 名前を呼んで近づくと、寝ていたりずはさっと起きて金比羅歯から降りた。


「まだ名乗ってなかったわね。私は閑戸しょうこ。いきなりで悪いんだけど、あなたにお願いがあるの」

「…?」

「私と手合わせして欲しい」

「はぁっ!?お前正気か!?」

「なっはっは!!若いって怖いねぇ!」


 私の発言に方々から声が上がる。ふみえ様も困惑した表情で止めに入った。


「危ないよしょうこちゃん!」

「神鎧を使うので問題ありません。すみませんが、審判をお願いできますか?」

「…本気なんだね?」


 不安に揺れる茶色の瞳を見据えて頷く。


 私の思いを汲み取ってくれたのか、ふみえ様は真剣な顔つきで私とりずの間に入った。


「りずちゃんは大丈夫?」

「…」


 りずが親指を立てて見せる。向こうもやる気らしい。


「ありがとう。じゃあ、始めましょう」

「…」


 お互いに向かい合い、一礼。


 これから死力を尽くして戦う相手に最大限の敬意を表し合う。


「これより、閑戸しょうこと永多りずの試合を開始します」




祝(はふり)の御子 肆


https://kakuyomu.jp/works/16818093087091573734/episodes/16818093087627937329

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