不帰(かえらず)の少女達 陸
気づいた土蜘蛛が暴れる手を止めて私を見る。
『ガアアアアアッッ!!!』
憎き仇を見つけた土蜘蛛が飛び上がり、その巨体で私を押し潰そうと飛びかかる。
けど、そんな直線的な攻撃なんて当たらない。
「ふっ!」
迫る影から範囲を予測し、当たるかどうかの瀬戸際でそれを回避。
地面が円状に抉れ、土煙が砂嵐のように舞う。
「おおおおおっっっ!!!」
接地した脚を伝って体へと駆け上がり、がら空きの胴体を滅茶苦茶に斬りつける。
けど、
「硬いっ!」
分厚い毛と神鎧に覆われた硬質な皮膚は想像以上に硬く、わずかに傷がつくだけで致命傷には至らない。
『ゲェアアアアッッ!!!』
土蜘蛛が背に乗った私を振り落とそうと崖にぶつかり始める。
このままここにいたら上にいるふみえ様が危ない!
「だったら…!!」
土蜘蛛の背から飛び降り、刀の刃紋に指を這わせる。
体の強化で斬れないなら次は刀、鉄の強化だ!
「聞こし召せ…。憑刀!天…」
巫術を使おうとした私の視界が白に染まる。
「糸っ!?」
発動を中断して糸を回避する。
さっきまでいた場所に粘着性の高い糸が張り付き、そこを歩けば糸に絡め取られることが容易に想像できた。
『ギゼ!ギゼェッ!!』
口とお尻の先から次々と糸を吐き出す土蜘蛛。
吐き出される糸は弾丸のように速く範囲も広い。
「隙がない…!」
巫術を使うことも距離を詰めることもできず、八方塞がりで逃げ回る。
吐き出した糸はみるみるうちに地面や崖を染め、徐々に逃げられる隙間がなくなっていく。
一旦空に逃げて巫術の時間を…!
「なっ!?」
思考を遮る轟音。
見ると土蜘蛛が糸に塗れた地面を蹴り上げて礫を私に飛ばしてきていた。
足下は糸の海、無数の礫には糸が付着していてあの中を跳んでかわせばたちまち糸に絡め取られてしまう。
そして、私に狙いを定める土蜘蛛。
切り抜けようと巫術を使えば土蜘蛛の糸が飛んでくるだろう。
「くっ!!」
どうする!?
逃げ場を完全に塞がれた私に四方八方から糸が迫る。
…その時だ。
「憑弾!
赤々と燃え盛る劫火が土蜘蛛に着弾した。
飛び散った火の粉が地面の糸に着火し、採石場を赤く染め上げる。
『ギャオオオオオオオオオオッッッ!!!???』
文字通りの火達磨になってもがき暴れ回る土蜘蛛。
炎が飛んできた方を見ると、崖の上で拳砲を構えるふみえ様の姿があった。
「ありがとうございます!聞こし召せ…。憑刀!猿田彦!!」
ふみえ様が作ってくれた隙を活かして猿田彦の力を刀に降ろし、真一文字に薙ぐ。
刀から放たれた旋風の斬撃が礫に命中し、その一切を吹き飛ばした。
「いける!聞こし召せ…!憑刀!
次に刀に降ろしたのは鍛冶と製鉄の神、天目一箇神。
これを降ろした刀は斬鉄をも成し遂げる業物へと昇華する。
『ギャエエエエエッッッ!!』
土蜘蛛が纏わりついた火を消そうと転げ回るも火は中々消えない。
その間に糸は焼き尽くされ、真っ黒な道が土蜘蛛へと続いていた。
「仕舞いだぁーーーっっ!!!」
刀を構え、隙だらけな土蜘蛛へと突貫する。
狙いは胴を支える六本脚。
「はああぁーーーーっっ!!」
速度と膂力を乗せた刃が前脚を捉える。
さっきは固い皮膚と体毛、神鎧に阻まれてろくに斬れなかった。…けどっ!錬鉄の神を降ろしたこの刀なら!!
『ギイィィィィィィーーーー!!!』
刃はまるで豆腐を切るかのような手応えで脚に入り、堅牢な脚をつっかえることなく両断した。
切断された脚が落ち、巫力が暴発して四散する。
「まだまだぁーーーっ!!」
間髪を入れず二本、三本と脚を切断していき、ついに全ての脚を切り落とした。
『ゲ…アゴ…』
脚を全て斬られ、黒焦げになった土蜘蛛が無様に地面に転がる。
その正面に回り、精神を統一する。
想起するは鍛錬で何度も振るった剣、姉様とも稽古を重ねた家族だった一族の業。
「雪平一刀流 霜の太刀…!」
足と腕に巫力を集約させて地を蹴り、倒れ伏す巨体へと迫る。
上段に刀を振り上げ、一刀のもとに相手を真っ向に切り伏せる至極単純な剣。
霜月の冷気で凍てついた氷塊を断ち切るが如きその技の名は…
「
振り下ろされた刀が土蜘蛛の顔面を真っ二つに裂き、勢いそのままに顔からお尻までを刹那の元に切り伏せた。
『ア…ギ…ゴベエアアアアアアアアアーーーーーーッッ!!!!』
背後から響く断末魔。
刀についた血を振り落とし、残った血を刃を上にして腕に挟んで拭う。
そして鞘に刀を納めたその瞬間、背後で耳をつんざくような大爆発が巻き起こった。
「はぁっ、はぁっ…」
勝利の余韻に浸る間もなく倦怠感が襲う。
体が重い、風邪を引いたみたいに熱くてふらつく。
ふみえ様の巫力を使い続けた反動?
「しょうこちゃん!」
息を整えていると崖を降りてきたふみえ様がこっちに駆け寄ってきた。
「大丈夫!?怪我はない!?」
「はいっ。おかげさまで…」
「そっかぁ。よかっ…」
言葉の途中でへたり込むふみえ様。
「ふみえ様!?」
「あはは〜。安心したら力抜けちゃった」
ふみえ様は恥ずかしそうにはにかんだ。どうやら怪我をしたわけじゃないらしい。
「お手をどうぞ。立てますか?」
「ありがとう」
私が手を差し出すと暖かな手がふわりと手を包みこんだ。
この先どうなるかなんて分からない。
でも、これだけは言える。
これからも私は命を懸けてふみえ様と彼女の幸を守り続ける。
それが遺された命の使い道。
それが
…
【★あとがき★】
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