閑話 黒ずんだ羽

「では行ってきます」

「うん。気をつけてね」


 しょうこちゃんの編入から始まった多忙な一日から一夜明け、今日から正式に心努の一員となったしょうこちゃん。


 まずは心努の寮地と学校の案内からということであやめちゃんと一緒に寮地を回ることに。


「イチャコラしてねーでさっさと行くぞ!」

「うん!ではまた…」

「またねー!」


 こぴちゃん達に乗って出発する二人。


 その背を見送ったわたしは眠気覚ましに大きく伸びをする。


「さぁーって!お部屋掃除しますか!」


 今日のわたしのお仕事は四年生の長屋にしょうこちゃんの部屋を作ること。


 でも、それには一つ問題がある。


「うーん…。やっぱり、やちよ様のお部屋しかないよね」


 現在、四年生の長屋はある部屋以外全部相部屋で埋まっている。


 そのある部屋というのがわたしが三年生の時に病気で休学したやちよ様のお部屋だ。


 いつ帰ってきてもいいように部屋はそのままにしてあるけど、今すぐ住む場所が必要な人を押し退けてまで残しておくのはしょうこちゃんが可哀想だ。


「やちよ様も分かってくれる…よね?」


 やちよ様には悪いけど、きっと分かってくれるはず。


「やちよ様の私物は物置に保管するとして…」


 行動の指針が決まり、四年生の長屋に向かおうとした…その時だ。


「…んっ?」


 寄合所の中から物音がした。


 寄合所にはわたし以外誰もいないし昨日の妖怪のような巫力は感じない。


「…まさかっ!」


 ある可能性に至ったわたしは急いで寄合所に入り、昨日一緒に寝た客間に向かう。


「やっぱり!!」

「キャッ!?」


 客間の戸を勢いよく開けたわたしの前にいたのは、しょうこちゃんの荷物を漁る猿達だった。


「こらぁーーっ!!」

「キキーーッ!!」


 刀を抜いて威嚇すると、猿達は換気のために開けていた窓から我先にと逃げ出した。


「全く。油断も隙もないんだから…」


 刀を納めて窓を閉める。


 今年は暖かくなるのが早かったから猿達も山から降りてくるのが早まったんだろう。


 あの猿達は寮地にある山に住んでいる猿で暖かくなれば山から降りてくる。


 作物を荒らしたり、長屋に侵入して食べ物を盗もうとする困った隣人だ。


「あちゃー。ぐちゃぐちゃだぁ…」


 猿を追い払ったはいいものの、しょうこちゃんの荷物はぐちゃぐちゃ。


 服以外の私物がほとんどないのが唯一の救いだ。


「とりあえず片付けなきゃ…。んっ?」


 しょうこちゃんの服を集めて綺麗に折り畳んでいると、白い布に包まれた小さな何かが落ちているのに気づいた。


「しょうこちゃんの、だよね?」


 手に取ると硬くて軽い。 


 飾り物かな?しょうこちゃんもお洒落さんなんだね。


「…ダメダメ!人のものを勝手に見るなんてそんなこと…」


 湧き上がった誘惑を首を振って振り払う。


 いくら妹だからって踏み込んじゃいけないことだってあ…


「…でも、壊れてたら直してもらわなきゃ、だよね?」


 飾り物の細工や修繕をやってくれる店が阿婆羅堂にある。


 もし壊れてたらしょうこちゃんに事情を話して修繕を依頼しよう。


「ごめんっ!」


 スラスラと思いついてしまった言い訳を心の中で並べ立てながら布を取る。


 その中にあったのは…


「えっ?」



 所々に赤黒いシミがついた、わたしが今つけているものと同じ比翼の鳥の髪飾り。


「これって…!」





 わたしが、

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