種は蒔かれた 参

 「皆様。急な召集にも関わらずお集まりいただきありがとうございます」


 ついさっき聞いたばかりなのに、もう懐かしいとすら思える学園長の声が会議室に響き渡る。


「もうご存知の方もいらっしゃるでしょうが…本日、心努の寮地に二体の妖魔が出現しました」


 その言葉に会議室がにわかにざわつき始める。


 妖魔ってあいつらのこと?妖怪じゃないの?


「これより配布する資料をご確認下さい」


 学園長がそう言うと席の近くに紙を持った剛連がやって来た。


 剛連は会議室にいる皆に持っていた紙を配り、会議室を後にする。


「…」


 配られた紙に書かれていたのは私達が遭遇したあの妖怪達にまつわるもの。


 ほとんど知っていることばかりだったけど、救援に駆けつけた佐武頼の生徒達が通報があった場所で妖怪を見つけられなかったと書いてあってちょっと申し訳なくなった。


「それが本件のあらましです。…富久原ふみえさん、閑戸しょうこさん」

「はっ、はいっ!」

「はいっ!」


 学園長に指名された私達は揃って立ち上がる。


「怖い目に遭ったばかりで大変申し訳ないのですが…当時の状況を話していただけませんか?」

「はいっ。喜んで!」


 そして私達は自らの身に起きたこと全てを包み隠さずお話した。


「宇成の契にそんな力が…?」

「巨大化する妖怪なんて聞いたことないわ」

「そんなのを倒すなんてあの編入生何者なの?」


 話し終えたところで再び会議室がざわつき始める。


 注目の幾ばくかが私にも注がれ、突き刺さるような視線に耐え切れずに縮こまる。


 あの時は無我夢中で何も思わなかったけど、よくよく考えたらあんな化け物相手に正面から挑んで勝つなんてとんでもない話だ。


 ふみえ様のお力添えがあったからとはいえ、こうして生きていられるのが奇跡と言えるだろう。


「…?」


 阿婆羅堂の方から特に強い視線を感じ、視線を向けると遠くのみつね様と目が合った。


 向こうも私に気づいたのか、小さく手を振った。


 振り返すべきかと悩んでいると、突然制服の袖が下から引っ張られる。


「ちょっと…!」

「ひゃあっ!?」


 うみか様だ。


「契ったってどゆこと!?聞いてないんだけど!」

「お話する機会がなかったもので…」

「マジかぁ…。やちよ驚くだろうなぁ」


 驚いてくれたら…どれほどいいか。


「静粛に…」


 学園長の一声で会議室に静寂が戻る。


「貴重なお話ありがとうございます。お座り下さい」

「はいっ」

「本日皆様にお集まりいただいたのはタカマの秩序と安寧を守るため、本件に対しどのような対策を講じるべきかを論じていただくためです。意見のある者は挙手をお願いします」

「はいっ!」


 一番槍は意外にもふみえ様だった。


「どうぞ」

「議題と関係のない話題で申し訳ないのですが、筆頭、並びに筆頭補佐の皆々様は発言の前に自己紹介をしていただけないでしょうか?」

「何故でしょうか?」

「此方のしょう…閑戸しょうこさんは本件の重要参考人としてこの場におりますが、本日編入してきたばかりの生徒です。この場でお互いの名前と顔を覚えれば今後本件の情報を共有する機会があった際に差し支えがなくなると思うのですが…如何でしょうか?」

「私は賛成です。皆様、異論はありませんか?」


 それぞれの筆頭と思わしき人達が無言で頷く。


 理人の方は筆頭の近くにいた強面のおばあちゃんが頷いたけど。


「では、意見がある者は挙手を…」

「はいっ」


本当の一番槍を飾ったのは佐武頼の豪傑。


「佐武頼第三位、美樹みきゆえと申します。筆頭、並びに筆頭補佐不在のため代理として参りました。以後よろしゅう」


 えっ!?この人筆頭じゃないの!?三位ってことはこの人より強い人が後二人いる、ってこと!?


 それはもう豪莉羅そのものよ!


「我々佐武頼は敵本拠地の早急な特定と即時殲滅を提案致します。タカマに被害が出ている以上、悠長に構えてられまへん」


 よく通る凛とした声が会議室に響き渡る。


 確かに、今回はうみか様やふみえ様達のご尽力で犠牲を出さずに倒せた。


 けど、また似たようなのが攻めてきた時もうまくいく保証はない。


 だからこそ、敵がどこから現れたかをいち早く突き止めてこっちから打って出るのもありかもしれない。


「発言、よろしいでしょうか?」

「どうぞ」


 次に立ち上がったのは阿婆羅堂。


 緑の羽織の人と、その背後に控えた白い羽織を纏った赤茶色の髪の人が口を開く。


「阿婆羅堂筆頭、麻護あさごけい」

「阿婆羅堂筆頭補佐、栖本すもとかいりでっす!」


 …あれ?みつね様って筆頭補佐じゃないの?


 すごくできる人って感じだからてっきり筆頭補佐だと思ってた。


 けいと名乗った緑の羽織の人はゆえ様を見据えながら淡々と話し始める。


「佐武頼の即時殲滅という案には賛成します。ですが、情報収集を省略しての武力行使には賛成致しかねます」

「何故どす?」

「不確定な状況の中で闇雲に動き回れば人は疲弊し不要な怪我をする恐れがあるからです。最悪の場合犠牲者が出る可能性もあります」


 これも一理ある。


 相手がどれくらいいてどれほど強いか分からないうちに攻め込んだら返り討ちに遭うかもしれないよね。


「故に、我々阿婆羅堂は事前に綿密な情報収集と各学家の警備の強化を実施することを提案します。その上で敵の戦力が我々では対処できないものであると判断した場合、幕府に助力を扇ぐことも検討しております」


 あんな妖怪が出没するとなれば国にとっても一大事。


 その討伐に幕府の兵を動員してもらえれば兵力で押しつぶせるかも。


 それならタカマの人達が傷つくことも…


「発言、よろしいか?」

「どうぞ」


 次は理人の強面のお婆さん。


「理人学家長、柄口」

「理人筆頭補佐の赤使あかしふうかです。そしてこちらが…」


 小さな女の子、ふうか…様?が膝で寝ている女の子を紹介しようとした…その時だ。



「んんーーーっっ!!Wake Up!!」


種は蒔かれた 肆


https://kakuyomu.jp/works/16818093087091573734/episodes/16818093087332031618

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る