第4話
「やあ、今日もセレナはかわいいね。え? デリック殿下なら教室にいたよ」
どうやら一周したらしい。
今のところ誰か一人と親しくしている、という噂を聞いていないため、やはり大団円ルートにいくのだろうかといつも通り空を見ながら思う。
なんだかよくわかっていないうちに物語に変に干渉していないといいのだが……。
まあヒロインであり主人公であるセレナが上手いことやるだろうと、楽観的に考えることにした。
さて今日も暇な放課後を過ごそうと、頬を撫でる風を楽しんでいると横から声がかけられた。
「姉様! こんなところにいらっしゃったんですね!」
「レオ。久しぶりだね」
やってきたのはレオナルド・ガーヴェル男爵。
ルナの遠縁にあたる一つ年下の男の子であり、攻略対象の一人だ。
彼はルナに懐いてくれているようで同じ学園にやってきてから、時折こうして会いに来てくれる。
そんな彼がセレナとどうなっているのか気になるところではあるが、あまり根掘り葉掘り他人が聞くべきではないのだろうなと、にこにこ笑う彼の顔を見ながら思う。
「今日はどうしたんだい?」
「……最近、姉様の周りをうろちょろしてるやつがいるって聞いて心配で……」
うろちょろ?
どういうことだろうかと眉を顰めると、同じように難しい顔をしたレオがむっつりと口を開いた。
「王太子殿下に、ルーベル子爵。それにマクラーレン侯爵令嬢まで! 姉様に近づいたとお聞きしました! ……僕ですら、あまり姉様のおそばにいられないというのに……」
小さいころから怖がりで、騎士を目指していたルナをいつだってキラキラした目で見ていたレオ。
しかし彼もまた攻略対象だ。
そんなレオがルナにべったりとしていては、セレナと上手くいくものもいかなくなってしまう。
だからこそ距離を置こうと伝えていたのだが、どうやらそれが裏目に出てしまったらしい。
学園で遠巻きに見るレオとは打って変わり、昔から変わらない幼い子供のように唇を尖らせている。
「別にうろちょろなんてしてないよ。少し話をしたくらいさ。……ちょっとびっくりしたけど」
ただのモブであるはずの自分と、物語の核になる彼らが今まで以上に接点を持つなんて思ってもいなかった。
あまり下手に関係値を持ってしまうのはよくないなと思いつつも、ここから離れられない身ゆえいたし方ないかとも思う。
「だから別にレオが気にするようなことはなにもないさ」
「………………でも」
「それよりレオ……あの……さ、実はちょっとだけ、気になることがあって…………聞いても、いいかい?」
「気になること? ええ、姉様からのお話なら喜んでお答えしますけれど」
本当はこの話をすることがよくないことなのは理解している。
けれどどうしても気になるのだ。
――セレナとの関係が!
誰と今恋人同士になっているのか。
はたまたいい雰囲気なのか。
レオはセレナにもう恋をしているのか。
どうしても、気になるのだ!
「あの……さ、あの。レオは、そのっ、セレナとはどんな関係なのかな……?」
「セレナさん、ですか?」
「そう! 可愛いセレナとは、どうなんだい? この間セレナがレオを探してたから」
「ああ、なるほど!」
最初は怪訝そうな顔をしていたけれど、ルナの言葉を聞いてすぐに納得したように頷いたレオは、しかしどこか浮かない顔をしていた。
「どう……と言われましても…………。セレナさんとは確かにお話はしますがそれくらいで……」
「――え?」
どういうことだろうか?
まさかセレナはレオを対象としていないのだろうか?
なら狙いは大団円ではなく個人ルート?
それなら相手は誰だろうか……と顎に手を当て考えていると、そんなルナを見てレオはまたしても唇を尖らせた。
「せっかく姉様と久しぶりに会えたのに……セレナさんが気になるんですね」
「え? いや、セレナが気になるのもあるけど、レオも最近どうしてるのか気にしてたんだよ」
「…………僕も?」
「もちろん。セレナも大切だけれど、レオも私にとっては大切な人だ。だから気になっただけだよ。気を悪くしたのならごめんね」
「そ、そんなっ、僕の方こそすいません! 変なこと言って……」
ぶんぶんと首と手を振ったレオは、なにやら表情もどこか明るくなったように感じられた。
機嫌がよくなったらしく、口端をあげ嬉しそうにしている。
「さっきも言いましたが、セレナさんとはお話を軽くするくらいで、姉様が気にされるような関係ではありません」
「……そうなんだ」
ではやはり、レオ以外のどちらかとの個人ルートに向かうつもりなのだろうか?
それともまだレオの好感度が低いだけ……?
どちらにしてもレオとセレナの仲はまだ深まっていないようだ。
果たして今後どうなっていくのかと考えていると、学園の終わりを伝える鐘の音が鳴り響いた。
「おや、早く寮に帰らないと。せっかくだからレオ、一緒に帰ろうか」
「――い、いいんですか!? やった! 姉様行きましょう!」
レオの手が手首に触れ引っ張られる。
その時になってはじめて気がついたけれど、彼の手は大きく温かかった。
あんなに小さくて、子どもの頃はルナのほうが泣いている彼を連れ回していたというのに。
彼の成長を感じることに喜びを感じるとともに、少しだけ物悲しさも感じてしまう。
きっともう少ししたら、この場所に立つのは自分ではない。
それこそセレナか、はたまた別の人か。
どちらにしろ、モブの自分には無関係なのだろう。
「……レオ、大きくなったね」
「なんですか急に。あたりまえですよ! 僕は姉様を守るためにいるんですから!」
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