亡国の王女は白百合を手向ける
@tukikageluna
序章 li 24 Dicember 1926
柔らかなベッド、あたたかい部屋。けれど無性に「寒い」と感じていた。それはソリトのセントルイスで服に染み込んだ泥水が肌に張り付くせいか。あるいは凍えるほど暗い闇に包まれたこの街のせいか。
いざ男を目の前にすれば、多少なりとも恐怖を感じていたかもしれない。細腕の女では到底叶わない相手。リラはそんな男に、今まさに純潔を捧げようとしていた。
「ねえ、まずはシャワーを浴びたいのだけれど。泥でベッドを汚すのは忍びないわ」
リラは男の目をしっかりと見据えて言う。春の若草に似た鮮やかな緑の瞳。それが少しだけ美しいと感じた。
「わかった。いいよ、
優し気に話すも、その男の風貌からはとてもカタギには思えそうもなかった。仕立ての良い黒いスーツに黒い皮手袋。首から上こそまさしく優男だが、ジャケットから覗かせるホルダーにはおよそ穏やかとは言えない鉄の塊が入っているのだろう。
「部屋のシャワーで構わないわ」
「そうはいかないよ。君は今から僕に抱かれるのだから、広い風呂で綺麗にしてくるといい。君は折角美しいのだから」
男はそっとリラの髪に触れ、顔を覗き込む。
「誰もがうらやむ滑らかな金の髪に、エーゲ海を思わせるガラス玉の様な蒼い瞳。そこに橙の灯りが映り込んで…まるで夜明けに港で見た朝焼け美しさだ」
一つ、男はリラの金の髪にキスを落とす。その手を離したかと思えば、今度は作り物の様な柔らかな微笑みをリラに向けた。
「
わかったわ、と。リラは頷きドアノブへ手をかける。
「わかっていると思うけど、逃げようなんて思わないでね」
「今更どこへ行こうと言うの」
リラはその蒼眼を冷たく細める。
男はそうだね、とほほ笑むと今度こそリラを部屋の外へ送り出す。
「君は僕から逃げることなんて出来ないよ。…早く戻っておいで、僕の
亡国の王女は白百合を手向ける @tukikageluna
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