#1.13. Phantom [Yamato]
「ソロモン?」
「黒百合会の人間だったから、もしかしたら武蔵が知っているかなって」
ルナは会議室に来ると、さつきさんの家で変な男に会ったと言い出した。
今後の作戦について打ち合わせるために、僕と武蔵と、さつきさんが先に来ていた。
大理石の円卓にルナも加わり、さつきさんが彼女に資料を渡す。
「知ってはいるが、まさかここまで来るとは思わなかった」
「どういうこと?」
「あいつは普段、ルルーや
ただ、上層部同士のメッセンジャー的な役割もあるから、本拠地から離れることはあまりないんだ」
黒百合会は
しかし、冬月が九州で影響力が強いとしても、摂津は首都圏で、この辺りになると若葉家や
そういうリスキーな土地に、黒百合会のボス格の側近が来たのか。
「第三地方隊と言えば、肥前県に基地があります。そのGeM-Hu二人が第三海上警察病院にいるとすれば、やはり黒百合会と冬月猊下の関係性はほぼ確実ですね」
さつきさんが、円卓の天板を眺めながら、呟いた。
若葉家と冬月家は、古くから付き合いがある。考えが合わないこともあるが、災害が起きれば互いの地元を支援してきた。好敵手として、さつきさんにも思うところがあるのだろう。
「で、なんでソロモンがルルーやグァルディーニの指示じゃなくて、η-3の指示に従っている訳?」
ルナが気になるのは、黒百合会よりもソロモンの存在とその目的らしい。
「俺も二年前までしか知らねえけど、組織内の構図が変わったのかもな。そもそもη-3なんて、初めて聞いたさ」
武蔵に情報のブランクがあることは知っていた。前の打ち合わせでも研究所の詳細は伏せられていたと言っていたから、期待はしていなかった。
おそらく武蔵のほうが気にしているだろうが、η-3が組織内でどんな立場にいるのかが知りたい。
黒百合会を統括するルルーや、切込隊長とも言えるグァルディーニに近しい奴が、η-3の伝令役になったということだ。
「ソロモンは、損得で動く奴なのか? それとも、忠義に厚いタイプなのか?」
僕の質問を受け、武蔵が天を仰いで腕を組む。
「あいつは義理堅いほうと言えるが、誰の下に付くかはよく選んでいる。上手く立ち回る、強かな奴だよ」
「目的のためなら主人を替えるということか?」
「そうとも言える」
つまり、η-3に従うことはソロモンにとって得だったということだ。
η-3の目的は、GeM-Huの救出だ。ΑΩ-9とΑΩ-10というGeM-Huの居場所を教え、急かしてきた。
当然、GeM-Huが逃げることは黒百合会にとって損だ。だがη-3は反発し、GeM-Huを逃がそうとして、ソロモンも同調した。
そもそも、こいつらの名前って――。
「なあ、η-3とかΑΩ-9、10なんて、どうも機械的な名前じゃないか。これって、実験体としての名前とは考えられないか?」
僕の推測に、特にルナが反応した。
「η-3もGeM-Huってこと?」
「ああ、アルファベットと数字を組み合わせた通し番号が、そのまま名前になっているんだ」
「まさに、実験対象という訳ですね」
さつきさんの表情が曇る。生命への純粋な信仰心がある彼には、辛い現実かもしれない。
「そういえば……。ソロモンも、自分のことを『本名はα-1だ』って言っていた!」
「α-1? てことはソロモンもGeM-Huかよ」
武蔵も顔を知っていたらしいから、驚くのも無理はない。だが、つまりは――。
「ソロモンさんは見た目でGeM-Huかは判断ができないということですね」
「研究初期なのかも」
さつきさんが指摘した点は、僕も思った。そして、ルナの考察も納得できる。「
初期段階の実験なら、遺伝情報なんて複雑なものに大きく手を加えないだろう。
「あいつは20歳になるはずだ」
「えっ? 黒百合会って何歳から入れるの?」
武蔵が言う通りなら、黒百合会は少なくとも21年前から研究していることになる。
ふと見ると、さっき場違いなことを指摘していたルナの顔色が悪くなる。
「ねえ。21年前って、親父の死期と被るんだけど……。それに、あの顔……」
ルナが、心霊現象を経験したかのように、自らの肩を抱いてさすり始める。
「……親父だ……」
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大司教区――枢機卿は各司教区から選出される。各国で言う選挙区にもあたる。特に大規模な都市や聖地がある司教区には大司教が割り当てられ、その区は大司教区と呼ばれる。
地方隊――海上警察の管轄海域は五つに分かれており、それぞれに地方隊が設置されている。
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